ポーションの減産と
ある程度時間が経過すると、どうしても消耗品であるポーションは市場から徐々に消えて行く。
「今日は入荷したか?」
「申し訳ありません、ギルドでも、市でも、競売でも見当たらない状態なのですよ」
ポーションの産地であるグアトロ王国からの出荷が途絶えている状況なので、他国で作られてはいるのだがとても需要に対して満足する量を供給する事は出来ずに、特にポーションを最も必要とする冒険者は活動を抑制せざるを得ない状況にまで至っていた。
冒険者が活動できないと言う事は、ダンジョンの資源を手に入れる事もできなければ町や村に危険が及ぶ可能性のある魔獣の対処もできない事になり、直接的に人々の生活を脅かす結果になる。
ポーションは至る所で使用されるので、冒険者の次に必要になるのは傭兵・衛兵、その後に病の者達、更には常に激しい訓練を実施している騎士……特に、戦力が全てと思っているベナマス王国に所属する者達だ。
市場の混乱は徐々に顕在化し始めているのだが、この状態でもグアトロ王国の錬金術師組合は動かないので、流石に国王が組合の会長であるベルヘルトを呼び出した。
「ベルヘルトよ。その方、何故未だにポーションを作成しないのだ?我が国の貴重な資源ともなっているポーションが市場から消えている事は気が付いているだろうが。そもそもポーションによって我が国家は繁栄し、人々を癒しているのだ。その程度がわからんわけがないだろう?」
王城の謁見の間で、立派なひげを蓄えた国王が眼下で跪いているベルヘルトに向かって厳しく追及する。
「陛下の仰る通りに、市場ではポーションが大きく不足している状況です。私達もこの状況を改善したい所なのですが、いかんせん素材が入手できずに、非常に心苦しく思っているのです」
「素材と言うと、あの魔核か?」
流石にこれだけ長い時間があれば、ベルヘルトが意図的に民に認識させた噂も国王には届いている。
極論ダンジョン町の魔核なしには、ポーションは作れないと言う情報だ。
「その通りでございます。しかし、あの魔核を仕入れているのはベンゾンと言う行商人だけです。それも不定期に時折持ってくるものですから、中々安定して手に入れる事は難しいでしょう。それに、お聞きになっているかと思いますが、私共はその魔核の競りに参加できない状況になっておりますのです」
ここまでくればベナマス王国の国王からの命令で競りに参加できるか、場合によってはダンジョン町のクロイツと直接交渉して魔核が入手できるようになるか、何れにしても国王自ら動いてくれるものだと期待が膨らむ。
「フム、そうか。確かにあの魔核が入札された後に、民の生活が向上したとの報告を受けておる。それほどの力を持っている純度の高い魔核なのだろう。だが、流石に余もダンジョン町との直接交渉が出来る訳もない。それに競りの参加についても……聞くところによると、ダンジョン町からその方を名指して絶対に参加させるなと強い指示を受けたと聞いておるぞ?」
「む、むぐぅ。確かにそのようです。実際に私達はその後一切魔核の競り……ダンジョン町からの素材については一切競りに参加できておりません。しかしながら、それ故にポーションを作成したくともできないのです」
矛先をダンジョン町に向けたままにさせるべく、以前のように素材を地道に集めて作成するとは絶対に口にしないベルヘルト。
「であれば、国家として競り落としてその方に販売する他ないかもしれんな」
仮にこのような行為に出られると、ベルヘルトとしては国王との直接取引になる以上は想定される最低の利益しか手に入らなくなる可能性が高いので、何とか思いとどまらせようとする。
「お、恐れながら、国家として競りに参加しては他の者達が委縮するのではないでしょうか?その上、陛下のご指摘の通りに今はあの魔核によって民の生活が向上しているので、その資源を、権力を使って奪ったと言われかねません」
流石はあの手この手で会長になったまでの事はあり、体を動かす事は不得意だが、このような言い訳は未だ天下一品のベルヘルト。
「では、他で魔核を仕入れる以外にはあるまい?」
国王も、長く錬金術師組合が流した情報である“ポーションには魔核が必要”と言う事が頭にこびりついてしまったので、以前使用していた素材を集めるような指示はしないし、そもそもここまで市場から消えてしまった分を補填するには、相当純度の高い魔核が必要なのは間違いないのだ。
「で、では、何れかのダンジョンに潜ると言う事ですね?」
「止むを得まい。だが、我が国の民、冒険者に依頼を出すわけにはいかん。丁度、国として傭兵紛いの事をしている国家があっただろう?シス連合国を構成している国家。ベナマス王国に依頼を出すほかあるまい」
ベナマス王国の国王一行は、シス連合国建国直後にナスカ王国に出向いて賃借料でもめた挙句に契約を自らの愚行で破棄されて、得る物が一切ないばかりか本来得られる大金を失って怒りのままに自国に戻っていた存在だ。
彼らは力こそ正義と言う言葉を国是としており、小国でありながらも“血飛沫のミーシャ”と言う物騒な二つ名を持っているAランカーを輩出した事を誇りにしている者達の集団なので、国家上げて戦力を上げるべく、更には報酬を得るために傭兵紛いの事をしている。
シス連合国としてはベナマス王国の手綱を完全に握る事は出来ていないが、傭兵紛いの事をしようがダンジョン町やナスカ王国に直接的に手を出さない限りはガス抜きの意味も兼ねて黙認していた。
「なるほど、それは良い案でございます」
グアトロ王国の名前が出た瞬間に全てを納得したベルヘルトを見て、その後グアトロ王国からベナマス王国に対して、ダンジョンに侵入の上で純度の高い魔核を得る依頼が正式に出された。




