師弟の三人(3)
「そう言えばよ、あいつの対応をする時は大丈夫なのか?シシリー」
「あら?心配してくださるの?優しいわね、クロイツさん。大丈夫よ。こっちもプロですし、彼方も立場があるお方ですから、変な事にはなっていませんよ。でも正直に言っちゃうと、クロイツ様達の、特にリージョ様のお話が出来ないし、最初から最後まで自分語りばかりなのでつまらないわ」
数回の対応でこの店の従業員達の接客レベルの高さを理解しているクロイツは、その中の一人であるシシリーがここまで明確にベルヘルトを否定した事で、二人の時にどのような会話をして過ごしているのかを容易に想像する事が出来た。
自分も一度だけベルヘルトと対峙したが、自らの優位を全く疑っていない態度なので、ひたすら自分が偉いだの、大きく見せるような事ばかり言っているのだろうと推測する。
少し前に聞こえた、国家の発展に寄与している重要人物だ!と、店に対して全く関係のない余計な事を言っていた事が推測を確信に至らせる。
「そっか。なら良いんだがな。苦労するな」
一応問題ないと言っているので、グイっとコップの酒を飲みほしてお代わりを注がれているクロイツ。
「ここにいるではないですか。と、随分と……気に入らない連中にそっくりの者達ですね。私はグアトロ王国の栄誉ある錬金術師組合の会長であるベルヘルトです。貴方方の所にいるシシリーは私の対応をする事が決まっているので、さっさと明け渡していただけませんかね?」
まさかこの店に本人がいるとは思っていないので、かなり強気なベルヘルトと、どうするべきかと軽く頭を抱えるクロイツ。
「聞こえませんでしたか?全く。田舎者のこじんまりした町を作って偉そうにしている人物の真似をするなど、程度が知れますよ?」
「お客様!申し訳ありませんが、そこまで我を通されるのであれば、今後当店は出入り禁止にさせて頂きます」
少々大きな声でハルミュレがベルヘルトを制したので、周囲のクロイツ達に扮した者達も何事だと視線が集中する。
「な、この私に向かって偉そうな……忌々しい。頼まれなくてもこんな店には二度と来ませんよ。ですが、今後どうなるか楽しみですね」
ほぼ全ての視線が集中してしまっている事から、ふくよかなお腹を揺らしながらドスドスと音を立てて逃げるように去って行くベルヘルト。
「皆様、お騒がせして大変申し訳ありませんでした。お詫びとして皆様に一杯サービスさせて頂きます!」
クロイツ達はやはり流石の対応だと感心しているとともに、ベルヘルトはどうしようもない男とだと呆れていた。
「なぁ、あいつ……訳の分からねー脅しをかけて行きやがっただろう?俺が〆ておいてやろうか?」
本気で言っているクロイツだが、言われた方はここでも本物のクロイツを真似していると捉えている。
「あら?素敵じゃないですか、クロイツさん。フフフ、でも大丈夫ですよ。ありがとうございます。さっ、一杯どうぞ!」
この店では本気で楽しむ事が出来るので、以前と同様に三人共このままハルミュレ達の話術に引き込まれて、時間を忘れて楽しむ事が出来る。
「いや~、相変らず良い店だぜ。なぁ?リサ、リージョ!」
「本当ですよね、師匠」
「私もそう思います。皆さんとのお話も楽しいですが、特に私のファンと言ってくださっているアロッサーラさんとお話をするのが楽しくて……お兄ちゃん、良いお店を見つけましたね!」
リサはこの中で一番年齢が低く14歳なので少々酔いが回っているのだが、この大陸では14歳から飲酒可能なので、法的には問題ない。
「こりゃー、俺が背負って行くしかねーな」
「ありがとうございます!ししょ~」
もう限界が近くなってきたのか、リサが少々揺れ始めているので黙って背負ってやるクロイツ。
その間にリージョが支払いを済ませて店を出ると、夜も遅く人がまばらになっているこの場所から歩いて移動して国を出て、街道脇に入ってから転移する。
「そうだ!わりーけど流石に町の連中は寝ていると思うが、万が一にも俺が出かけていないと思っている人に会うとまずいから、俺はリサと共に直接家に飛ぶぜ?リージョは門から入って歩いてきてくれるか?」
「わかりました、師匠」
この時間であれば全員寝ている頃なのだが自分も気持ちよく酔っており、誰かが街中にいる様であれば目撃されないように町には徒歩で入らずに家に直接転移する羽目になる事から、それならば最初から気配察知までは行わずに転移で直接家に帰る事にしたクロイツ。
『お帰りなさい。何も問題はなかったよ』
「おぉ、悪りーな、ポチ!」
「ありがとうございます、ポチ殿」
「ZZZZZ」
クロイツ達は楽しめたのだが、クロイツに煮え湯を飲まされて更に店ではクロイツの真似事をしている(と思っている)者にも煮え湯を飲まされたベルヘルトは、当初の予定通りにポーションを強制的に減産し、その原因をクロイツに押し付ける事を心に決めていた。




