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元王子クロイツとその弟子達の軌跡-史上初のSSランクを従える男-  作者: 焼納豆


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ベルヘルト

「全く、あの忌々しい連中……誰がどう見ても力ではかないませんが、何も物理的な力が全てではありませんよ?フフフ、長年築いてきた信頼、名声、そう言ったものも巨大な力となり得る事を、このベルヘルトが教えて差し上げますよ」


 ダンジョン町で他の幹部の前で無様を晒してしまった事を未だに消化できていないベルヘルトだが、屋敷に戻った後に風呂に入り、お気に入りの酒を飲んで軽く酔って気分を戻すと、当初から想定していた作戦を行う事にしていた。


 重役出勤宜しく翌日の昼前に錬金術師組合会館に出勤すると、一際豪華な執務室に入って幹部を招集する。


「揃いましたね。今後の錬金術師組合としての活動指針を提示します」


 通常は大きな区切り、例えば以前のようにSランク魔獣が多数地上を徘徊している事によってポーションの市場が混乱している等がない限りでは指針を提示される事は無い。


 ダンジョン町に同行した幹部達は事情を知っているので“さもありなん”と言う表情だが、他の者達は何が起きたのか、と、真剣な表情になる。


「今回、あの魔核によってエクスポーションを相当数市場に流す事が出来ました。私達錬金術師組合の責務をしっかりと果たしたと言えますが、正直に言って魔核の性能が良すぎた為に供給過多の状態です。よって、今後しばらくはポーションの作成を止め、魔道具や武器の方に資源をつぎ込みます。市場のポーションが品薄になった場合、同じように魔核をダンジョン町から入手して対応する事になります。その旨、部下にしっかりと伝えて対応してください。以上!」


 これだけ伝えると、質問は受け付けずに退室させられる幹部達。


 事情を知る幹部は何も言わずに納得顔で退室し、事情を知らない幹部達はこの極めて重要な内容を余す事無く部下に話し、そこから一般の民や最もポーションを必要とする冒険者に流れて行く事になる。


 これこそがベルヘルトの狙いだ。


 市中の噂として今後ポーションの作成にはダンジョン町の魔核が必要であると認識させておけば、仮にポーションが枯渇しようが、その責はポーション生成に必要な素材を供給しないダンジョン町にあると言い切る事が出来、実際に被害を受ける立場の者達もそのように思うだろう。


「伊達に長く会長をしているわけではありませんわね。陰湿……失礼。流石と言う所でしょうか?」


「直接的な手法でダンジョン町を敵に回す事は私も御免被りたいので、この手であれば我らとダンジョン町の間に市井の者が入る形になるのは安心だ。まったく、あの会長を敵に回すのは恐ろしい」


 ダンジョン町に同行した事情を知る幹部は、ベルヘルトの非常に簡単で効果的な策に感心しているのだが、その効果が出るのはエクスポーションを大量に市場に対して供給したばかりである事、Sランク魔獣を見る事が無くなった事からもう少し後になる。


「フム、では種は蒔きましたから、今日こそはシシリーに私の素晴らしい功績と共に、ポーション不足はダンジョン町に責がある事も話しておきましょうか」


 二日連続とは言え昨日は目的のシシリーに会えずに追い出された事から、再び今日も店に向かうベルヘルト。


 クロイツ達の偽物も流石に二晩連続で店に来るような事は無いだろうと思っており、今日指示をしたダンジョン町の話をすれば、シシリーやあの店の従業員が尊敬しているクロイツ達よりも立場が上であると認識させる事ができると笑みを浮かべる。


「シシリーはいますか?いますよね。まさか今日もあのクロイツ“モドキ”の相手をしている事は無いでしょうから」


 扉を開けて店に入り、即シシリーを探しながらも出迎えた女性に話しかけるベルヘルトだが……そこに店長であるハルミュレがそのプロポーションを強調するかのようなドレスを纏いながら笑顔でやってくる。


「ハルミュレ。今日こそはシシリーをお願いしますよ。何でしたら、追加の料金をお支払いしても良い位ですからね」


「あら、ベルヘルト様。そこまで機嫌が良いのも珍しいですわね。ですが、大変申し訳ありません。昨日しっかりと申し上げたつもりでしたが改めまして……ベルヘルト様は今後当店に出入り禁止となっておりますので、お帰り頂けますでしょうか?」


「??は?た、確かにそのような事は言っていましたね。ですが、アレはあの場をやり過ごすための方便でしょう?そこを理解して、寛大にも私が引いてあげたのですよ?」


 折角気分が良いのに、出鼻を挫かれて体格と同じく声も大きくなるベルヘルト。


「あら?ご自分で二度とこないとあれほど明確におっしゃったではありませんか。もうお忘れですか?」


 ハルミュレは落ち着いた表情でしっかりと、且つ明確にベルヘルトを否定している状況で、ベルヘルトの声が大きかった事から昨晩同様非常に目立ってしまっている。


「くっ、よくわかりましたよ。良いでしょう。では、昨日の私の話もしっかりと思い出せていると言う事で良いですね?」


 慌てて周囲の野次馬根性丸出しのクロイツ達をまねている姿の客達に聞こえないような声量にして脅しをかけるベルヘルト。


「確か……今後どうなるのかわからないと言う、曖昧で陳腐な脅しだったかと思いますが、合っていますでしょうか?」


 ここまで言っても冷静に返してくるハルミュレの態度を見てこの店でシシリーと飲むのは無理だと判断したベルヘルトは、今更ながら立場上これ以上騒ぐわけにはいかないと思って店を出て行く。


「本当に、どうしてくれましょうかね……何なら、赤にしてやりましょうか?」


 此処まで思い通りにならなかった事は記憶にないので、理性が吹き飛び始めたベルヘルトは不穏な言葉と共に消えて行く。


 グアトロ王国の国家の名産品とも言えるポーションを一手に作成している錬金術師組合の会長になるには、正攻法だけで競争相手を蹴落とす事などできはしないのだ……


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