師弟の三人(2)
錬金術師組合の会長であるベルヘルトの、あの時の態度ならば有り得なくもないか……と、店の女性の話を納得顔で聞いているクロイツとリージョだが、リサだけはその場にいなかったので、そうなのか……と言う感じだ。
「まったく、これ以上グアトロ王国の心象を悪くされたら、ファンの皆さんからも愛想をつかれてしまうわよ!」
「あぁ、そうかもしれねーのか?だけどよ、俺達はそんな事ではこの店を見捨てる事はね~よ?なぁ、リサ、リージョ!」
「「そうですね」」
店の人々や周囲の人々も、この三人は相当成りきっているクロイツ達のファンであるとの認識なので、そのまま楽しい一時は進む。
「本当に、皆さんはクロイツ様、リサ様、リージョ様を良く研究されていますよね。本人と言われても疑いようのない位の出来ですよ!他の方と比べても、数歩抜きんでていますね!」
この店の中には黒や白の外套を羽織った人やクロイツのような言葉使いをする人が沢山いるので、店主や店員がクロイツ一行のファンだと公言している為にそう言った人物達が集まりやすいのだろう。
「そうだ!それだけそっくりなのであれば、もしあの会長と会えた時に忠告したらどうかしら?」
「それは良い考え……なのかしら?かえってクロイツ様達にご迷惑がかかると問題じゃないかな?」
突然悩みだしている女性三人。
「あのよ?その口ぶりだと、その会長がこの店に来るって聞こえたが?」
「そうなのですよ、クロイツさん。でも、あの人達はクロイツ様達のファンと言う事ではないわね」
そう言って一人の女性に視線を送るので、送られた女性は嫌悪感を隠しもしない。
「止めて!あんなオークみたいな人に好かれても嬉しくないわよ!どうせなら、リージョ様に好かれたいわぁ!」
どうやらリージョの大ファンと公言しているシシリーと言う名の女性目当てでベルヘルトは良くこの店に顔を出している様なのだが、当のシシリーはリージョと結ばれる夢でも見ているのか、だらしがない表情をしている。
あまりにこの店に来る回数が少ないので今迄かち合ってこなかったのだが……力が状況を引き寄せるのか、力が有るから状況を作り出すのか、女性達の言葉が言霊になったのか、店の扉が開いてベルヘルトが姿を現した。
「シシリーはいますか?」
「おいおい、本当に来やがったぜ」
ベルヘルトはグアトロ王国では有名なので、この場のクロイツのふりをしている客が知っていても不思議ではなく、接客しているシシリーを始め、クロイツのファンと公言している店主でもあるハルミュレや、リサのファンと公言しているアロッサーラも不思議に思う事は無かった。
「少しお待ちくださいね」
とある女性がベルヘルトの近くで話しかけて対応しようとしているのだが、どうしてもシシリーを指名したいようで揉めている様子なので、店長であるハルミュレがこの場から離れて行く。
その姿を追っているクロイツ達三人は、周囲が騒がしくて距離があっても会話は聞く事が出来る。
「申し訳ありません、ベルヘルト様。今日のシシリーは別のお客様の対応をさせて頂いておりますので、ご容赦ください」
「何を言っているのですか?私はこの国の発展に大きく寄与している錬金術師組合の会長ですよ?当然私を優先するべきではないですか?店にも、シシリーにもその方が良いに決まっていますが、この程度の事も理解できませんか?」
「申し訳ありません、お客様は平等です。それに、シシリーは同じくリージョ様を尊敬していらっしゃるそっくりな方と楽しく過ごしておりますので、また後日お越しくださいませんか?」
攻めるベルヘルトと守るハルミュレ。
「相当しつけーな。しかも随分と……国の発展だのなんだの、偉そうな事を言っているじゃねーかよ」
思わず漏らしてしまう愚痴。
「え?クロイツさん、何を言っているのか聞こえているの?凄いじゃないですか?」
リサの隣にいる、リサのファンであるアロッサーラがクロイツの呟きに反応する。
クロイツ達三人は聞こえて当然と言う認識だったのだが、普通の人にはあの会話を拾う事が出来ない事に気が付いた。
「い、いや。何となくそんな雰囲気がしていると思っただけだ」
取りあえず、些細な事から本人であると知られては今の楽しみ方が出来なくなると思っているクロイツは、慌てて取り繕う。
「ウフフ、流石はクロイツさん。まるで本物のクロイツ様のような能力を持っている風に装うのも、堂にいっていますよ!」
何とかこの場はやり過ごせたようだが、未だ店長のハルミュレはベルヘルトの対応をしておりこの場には戻ってこられないので、その姿を横目で見つつも再びこの場にいるシシリーとアロッサーラとの会話を始める。
二人は慣れているのか、この事態でも今迄通りに会話が途切れる事が無い。




