師弟の三人(1)
「って事があったんだよ。まったく、あんな素晴らしい店があるってのに、クソみてーな組合まであるとは、侮れねーな、グアトロ王国!」
結構長期間調査していたリサがダンジョン町に戻ってきたので、久しぶりにダンジョンの内部の町を見下ろせる崖にいるクロイツ達。
「それは……大変でしたね、師匠、お兄ちゃん」
「私は何もしていませんが、流石にベンゾンさんもあの組合の会長、ベルヘルトの言い分には相当呆れていましたね」
「そりゃーそうだろうよ。リージョも見ただろう?あの自信満々の善意からの提案だと言わんばかりのムカつく態度をよ」
「確かにそうですね。あの場にいた町の人達も呆れていましたからね。ところで、今回リサはどこまで行っていたのですか?」
一月ほど前にリージョがグアトロ王国から戻って来た時には、赤の紋章を持っているリリアーナと言う女性を連れ帰っていたのだが、リサは単独で帰還していたのだ。
「色々回った中で赤の紋章の人を見つけたのですが、全員主と共にありたいとの事で、収穫なしでした。組織の方も何も情報がありません」
組織とは、元闇の奴隷商幹部であり、ゼリア帝国の元騎士のミュラが言っていた闇の奴隷商と敵対している組織の事だ。
「そんなに簡単に組織の情報は得られねーよ。闇の奴隷商の詳細も最後の方まで明確にできなかったからな。そこと対峙する組織であれば、そうなるだろうよ。だがよ?赤の紋章……主が大切にしている事は喜ばしいが、俺としちゃー、その主に万が一があった場合が心配なんだよ」
「確かにそうですよね、師匠。私が今回お連れしたリリアーナさんのように主からの対応が通常ではない場合には救出は容易なのですが……」
「で、でも、大切にしている主であれば、大抵が赤の紋章を持つ人達を目立たないように生活させていますし、そもそも最近は紋章をいちいち確認するような事は無くなっていますよ?」
リサの言っている通りに赤の紋章が市場から消えている状態であり、更には各国でもほとんど見つける事が出来ない状況が続いているので、項を自ら見せない限り赤の紋章持ちと明らかになりづらい環境になっている。
「そこだけは救いだよな。仮に主から何らかの原因で解放されても、紋章さえ見られなければ普通に生活できそうだからな」
「そうですね。ですが、敢えて確認しに行くような下種がいるのも事実ですよ、師匠」
リージョの言う事も正しく、絶対に安全とは言い切れないのでダンジョン町の人々を安易に外に出せない状態なのだ。
「まっ、最近は主を慕う赤の紋章を見つける事の方が多いからな。これからも継続して必要に応じて救出し、組織の調査も行うって事で、よろしく頼むぜ?」
「「はい、師匠!!」」
その後は他愛も無い話をしているのだが、三人共に会話はグアトロ王国、そして冒頭に出てきた素晴らしい店の話に移行していく。
「でよ、俺は久しぶりにあの店に行って羽を伸ばそうと思っているんだが、どうだ?」
「良いですね、師匠。このリージョ、お供します」
「私も行きたいですが、私達三人がいなくなると皆さんが不安になりますよね?」
『僕が守るから、大丈夫だよ?』
町の出入りは敢えて人々に見えるように移動している三人なので、三人共に不在となれば不安にさせるかもしれないと言う心配が残っている。
「ありがとよ、ポチ。だがな~、実際ポチやSランク魔獣、狼の強さをきっちりと理解できていねーからな。リサの言う通り不安になる連中もいるだろうな」
『じゃあ、クロイツ様が直接転移で出かけるのはダメなの?それであれば、町の中にいると思われるでしょ?』
「「「それだ(です)!!!」」」
即刻ポチの意見は採用され、リサとリージョはグアトロ王国の調査と言う名目で堂々と外出し、残ったクロイツは二人を見送って、目立つように自宅に戻った。
ちなみに、この頃になるとこの町はSランク魔獣に溢れていると知れ渡ったので、ダンジョン町に認められている少数の行商人達全員に対してポイズナックが護衛についており、気配を消した狼の魔獣もその身を守るように行動しているので、リージョやリサの出番はなくなっていた。
初めてベンゾンがダンジョン町から単独で出てきたと勘違いした一団が人気のない場所まで追跡して襲い掛かろうとしたのだが、早い段階で上空から滑空するようにポイズナックが馬車の屋根に止まり、その視線を向けられたので逃げるように撤退している。
「あら、久しぶりですね。でもっ!もう少し短い間隔で来てくださると嬉しいです!」
リサとリージョが店に着く時間を見計らってグアトロ王国の近くの人気のない場所に転移したクロイツも、全力で店に移動すると温かい出迎えを受けた。
慣れたものでリサとリージョの待つ席に座ると、流れるようにいつもの三人が隣に座って、本物のクロイツ、リサ、リージョの話で盛り上がるのだが、店の三人は最新の騒動についても情報を持っていたようで、口々に話し出す。
「それで、今回はこのグアトロ王国の錬金術師組合の会長が欲を出して偉そうな事をクロイツ様に言いに行ったのよ?それもダンジョン町まで出向いて。本当、恥ずかしいわ」
「そうよね。そのせいでクロイツ様達からのグアトロ王国の印象が悪くなっていないか不安だわ」
「あろうことか、あの会長はポーションの生産を抑えて、その原因をクロイツ様に擦り付けると言う話までしていたのよ?本当、頭が痛いわよ」




