錬金術師協会(2)
「実はこの度、この町が出展された魔核を我ら組合が競り落としましてな。そこから錬金してエクスポーションを作成し、しっかりと市場に流す事が出来ました。組合として責任を果たせたのです」
組合会長のベルヘルトは、ふくよかなお腹を摩りながらもその茶色の目でクロイツを捉えている。
「それは何よりだ」
魔核の件で話があると言う情報だけは既に聞いているクロイツなので、その真意がわからない以上はその視線を避ける事なく真剣に受け止めて話を聞いている。
「実は、既にご存じだとは思いますがグアトロ王国はポーションの産地でしてな。その礎を築き支えているのが我ら錬金術師組合なのです。そもそもポーションとは……その種類にもよりますが、世の民の病を治し、冒険者の傷を癒し、王侯貴族の命を救う非常に貴重な品なのです。当然作成したポーションはグアトロ王国に収まらず、他国に出荷する重要な役割も担っております」
あえて自国で独占していないと強調するベルヘルトだが、ここに至っても何が言いたいのか良くわからないクロイツは、唯々話を聞いている。
「少し極論になってしまいますが、ある意味大陸中の人々に対する期待に長きに渡り応え続けているのですよ……」
大げさに手を広げてそのまま動きを見せないベルヘルトに対し、とりあえず合いの手を入れる事にしたクロイツ。
「……そうか。それはありがたい事だ」
「ご理解いただけましたか。そして、その偉業とも言える日々の行いを支えているのはポーション作成に必要な素材の入手です。時には冒険者ギルドに依頼し、ある時には自ら足を運んで採取し、またある時には競りに参加して手に入れるのです。この作業が非常に大変だったのですが、今回ダンジョン町から納品された魔核で、この環境は一変できると確信しました」
流石のクロイツも、少しきな臭くなってきたなとは感じているが未だ動く事はしない。
「素材を安定的に入手し、そこから錬金術によって作成されたポーションをしっかりと世に供給していく。この環境こそ大陸中が希望する事ではありませんか?」
しかし、続くベルヘルトの一言を聞いて少し眉を顰める。
「そうかもしれねーな」
話の向かう方向に予想が付いた事から、クロイツの態度は取り繕う事が無くなり始めており、横にいるリージョは対面にいるベルヘルトを始めとした一行に憐みの視線を向けていたのだが、善意で言っている事で反論されるはずがないと思っているベルヘルトは笑顔のまま更に話を進める。
「そこで提案です。今回のような素晴らしい魔核が定期的に入手出来れば、世に出せるポーションの数が多くなり、市場も安定します。つまりは人々の生活が安定する事になるのです」
大怪我を癒すのにはハイポーション以上が必要だが民がおいそれと購入できる金額ではないので、ベルヘルトが言っている“人々の生活が安定する”と言われると決してそのような事は無い。
「従って、貴国が我らグアトロ王国の錬金術師組合に対して定期的に魔核を卸すのは世界の安定に対する義務であるとも言えますな。ですが、新興国家のダンジョン町でその辺りを管理するのは難しいでしょう。そこで、素材管理にも長けている我ら錬金術師組合の出番です」
「あ~、お前等は競売参加時に散々注意されなかったのか?今回俺達が出展したものは定期的に卸せる代物じゃねーってな。だからよ、こっちは親切の押し売りを受ける程の状態じゃねーんだよ」
魔核、特に今回競売にかけられたような極上の魔核であれば、ポーションの素材だけではなく、色々な用途に使う事が出来る。
例えば水を生み出す魔道具に必要なエネルギーに使用する事もできるし、夜間町を照らしている明かりの魔道具のエネルギーにもなるので、クロイツとしては一組織、一人が独占する事はあまり好ましく思っていなかった事もあり、その旨をベンゾンに伝えた結果、競売にかけると聞いて納得していた。
財力が豊富な者が独占する可能性も捨てきれないが、その場合でも多数の目に留まれば数人が協力して競り落とす事もできるからだ。
「え?クロイツ殿。あれほど魔獣が沢山いるではないですか?その全てが制御できている事はこの私の目で見ても明らかですよ?であれば、魔核など今すぐにでも手に入るでしょう?」
魔核を取り出せる状態の魔獣がそこら中にいるので、何を言っているのだと言わんばかりのベルヘルトは食堂の中からでも見える魔獣の一角を指し示して、呆れた様に首を振っている。
「あのな~、あいつらはこの町の護衛の仕事をしている立派な存在だ。そんな奴等から魔核を取り出すなんざ、するわけね~だろうが」
「し、しかし……世の為、持ち得る者の義務ではないですか?」
「そんな事は知らねーよ。だが、そこまで言うなら譲歩してやってもいいぜ?つまるところ、テメー等が魔核を管理してーんだろ?」
箸にも棒にもかからないと思い始めた所で突然手のひらを返したかのような事を伝えて来たので、漸く主張が通ったのかと安堵するベルヘルトなのだが、そんな事は無い。
「だからよ?今回だけ特別サービスだ。さっき御大層な事を言っていたよな?世の為の義務だってよ?それに、自分の足で素材を採取するとも言っていたな。だから、そのチャンスを与えてやるぜ。これからあのレベルの魔核を持っている魔獣がいる階層に連れて行ってやる。そこから自力で採ってみろ。だがよ?俺達はテメー等の面倒は一切見ねーし、どうなろうが全て自己責任だ」
「そんな、横暴な!」
「横暴もクソもあるか!!義務なんだろ?偉そうに説教たれやがって、そんだけ立派な志がありゃー、ダンジョンの魔獣の一匹くれー問題ね~よな?」




