グアトロ王国ベンゾン宅滞在(2)
「明日にはダンジョン町に出立できそうです、リージョ様、リリアーナさん」
「そうですか。それは助かります。リリアーナさんの体調も随分と上向いたようですので、問題なさそうに見えますが……どうですか?」
「これ以上ない程に良い体調です。ありがとうございます!」
夕食時に明日に出立できると教えてくれるベンゾンだが、リージョはその程度は言われず共把握している状態ではあるが、きっちりとお礼を告げている。
「いや~、数日前のあの競りの直後は相当緊張していましたが、思った以上に何事も無くて安心しましたよ」
全く襲撃が無かったと思っているベンゾンは出立前に安堵の言葉を漏らすのだが、事実とは大きく異なっている事、今はベンゾンも落ち着いている事、更には既にクロイツに連絡して調整済みである事もあって、リージョは真実を話す。
「実はベンゾンさん。気にされていた襲撃ですが、あの競りの会場を出た直後からありましたよ。あの時は馬車から私がおりて対処すると皆さんが不安になると思い、同行してくれている仲間に対処をお願いしていたのです。出ておいで」
リージョの言葉と共に現れる、尻尾を振っている小さな狼の魔獣。
「こ、これは……あの町で見かける魔獣ではないですか。そうですか。やはり襲撃は有りましたか。ありがとうございます。気が付かないように配慮までして頂いて……ですが、そうなると」
「仰りたい事、良く分かります、ベンゾンさん。そうそう、リリアーナさん?この魔獣はこれから行くダンジョン町には結構いる魔獣です。他にも見掛け相当強いSランク魔獣もいますが、それよりもこの魔獣の方が強いのです。今のうちに慣れておいてください」
「は、はい。えっと、撫でたり抱っこしたりしても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ」
さりげなく狼の魔獣と共にこの場からリリアーナを離すリージョは、再びベンゾンと向き合う。
「実はあの場で私がリリアーナさんを解放している所を見ていた者もいたようで、彼女を狙っている者もおりました。その人物については他の者よりも厳しい処置をしましたが、襲撃未遂の者達は冒険者ギルドに厳しく指導してきましたので、今の所は安全です。ですが、私達不在のこの屋敷、住み込みで勤められている方々の安全となれば少々不安が残るのでしょう?ですから、あの魔獣はこの屋敷で生活させます」
「え?あれほどの……良いのですか?」
「当然です。言ったではないですか?末永くお願いしますと。もちろん師匠も了解済みですからご遠慮なく。まだ就寝には早いですから、使用人の方々にも慣れて頂く必要があると思いますよ」
こうして小さい狼の魔獣と戯れる使用人とリリアーナと言う図が出来上がったのだが、最終的には愛玩ではなく護衛である事を認識してもらう必要があるので、広い庭に集合する。
「では、この魔獣の力のほんの一部だけをお見せします。もう時間も時間ですから、相当力を抑えなければ周囲に迷惑になりますので……そうですね、炎の龍でも作れば十分な強さがあると認識頂けますかね?」
「え?魔法の炎に対する微細な制御など……できるのでしょうね。はい。確かに有り得ない程の力の証明になります」
そんな事ができる訳はないと言いかけたベンゾンは、この見掛け可愛い狼の魔獣がSランク魔獣が上層に平気で出てくるダンジョンの深層の魔獣であると説明を受けた事を思い出して、言葉を飲み込んだ。
「それでは、皆さん良く見ていてください」
リージョの言葉を受けて、小さく可愛らしい狼は時間を気にしてか鳴き声は上げずに、軽くジャンプした後に魔法を行使した。
宣言通りに、数多くの炎を生み出してその全てを龍の形状に変えて見せたのだ。
「これほど……そもそも、あれほどの数の魔法を出す時点であり得ませんよ!」
数多くの護衛を雇った経験のあるベンゾンは冒険者でなくともある程度戦闘についての知識を持っており、狼の魔獣の有り得ない力に感激している。
他の使用人達は知識が無く綺麗だな!程度にしか思っていないのだが、主であるベンゾンの言葉を聞いて相当強い事だけは理解した。
「ありがとうございます、リージョ様。これで心置きなく出立できます。お前達、安全は確保されているので、今まで通りにお願いしますよ」
少し前もリージョや狼の魔獣によって安全が確保されていた事から、今更安全が確保されたと言われてもピンとこないのだが、可愛らしくも、主であるベンゾンに言わせれば相当強いらしい魔獣と共に生活できる事が嬉しくて全員が笑顔で頷いている。
その様子を見たベンゾンは、使用人達は安全が担保された事に喜んでいるのだと勘違いしているのだが、そこはたいして問題ではない。
「行ってらっしゃいませ」
翌朝、今回の報酬で購入したらしい新しい少し大きめの荷馬車と立派な馬二頭と共に、使用人達に見送られながら出発する三人。
「頼みましたよ!」
リージョは一人の使用人に抱かれている狼の魔獣に念を押してグアトロ王国を後にする。
競りも楽しめてベンゾンの安全も確保できたうえに、赤の紋章を一人救出できた事に満足していたリージョだが、あの魔核を購入した後については何も調査をしていなかった。
この緩みが、折角ダンジョン町出立時に入国させろと群がる無駄な冒険者の一部を排除できたのに、それ以上に無断な人物達を寄せ付けてしまうとは思ってもいなかった。




