ダンジョン町での生活(リージョとベンゾン1)
防壁の上でクロイツとリサ、そしてポチとの話を終えたリージョは、地上に降りて姿を現したまま行商人の近くに移動すると、クロイツ同様に人々から挨拶される。
「あ、リージョ様、こんにちは!」
「お疲れ様です。実は今日は視察ではなく、ベンゾン殿に少しお話がありまして」
「私に……でしょうか?」
当然近くにいる行商人が即座に反応する。
この行商人はリサやリージョの厳しい素行調査と共にポチの眷属によるチェックを通過した存在で、グアトロ王国を拠点として活動しているベンゾンと言う商人だ。
「実はですね、今日納品させて頂いた魔核ですが……Sランク魔獣の魔核なのですよ。一応特別製と言う事で毎回納品できるわけではない事、それと、納品時に購入者にもその旨説明する必要があるかと思いまして、私が同行させて頂きたいのですが」
「え?“黒套のリージョ”様がグアトロ王国まで同行して頂けるのですか?ちょっと見合う報酬が出せそうにないのですが……」
「ベンゾン殿とは長くお付き合いをさせて頂きたいのは、師匠と私達の総意ですので当然無償ですよ。それに、この魔核を狙って来る不届きな連中が多くなると思いますので、そのけん制の意味もあります」
「そ、それは嬉しいのですが、確かに道中ガラの悪いのも含めて冒険者や同業、騎士や貴族の方々もよく見かけるようになりましたが、そうなると、私が狙われる確率が高くなると言う事でしょうか?」
「そこもご安心ください。私かリサが対応させて頂く事になると思いますし、場合によってはあちらの魔獣を護衛に着ける事も検討させて頂きます」
おなじみポイズナックを指し示すリージョと、漸く慣れてはきたが未だに少し腰が引けているベンゾンだ。
「そう言う事でしたか。今日は随分と大きくて透き通った魔核だと思ったのですよ。流石にクロイツ様のダンジョンであってもこのレベルの魔核が毎日取れてしまっては問題ですよね?」
ポチが準備して素材置き場に置いた魔核を3階層から持ってきた男性がこう話すのだが、これは誤解であり、このダンジョンの力であればこれでも相当控えめな魔核なので相当数を毎日生み出す事が出来るのだが、その事実を知っているリージョは苦笑いしたまま曖昧な回答を返しておく。
「そ、そう言う事……でしょうかね?まぁ、この魔核が非常に貴重である事は間違いありませんよ。それでベンゾン殿、今日は泊まりでしょうか?」
「はい。流石に今日とんぼ返りは少々きついので、宿泊させて頂こうかと思っております」
この町に入れる外部の人々は、この町の住民と同じような扱いを受ける事が出来るので魔獣に襲われる事は無い……が、一応気が付かれない状態で監視下にはおかれているのだが、当然宿泊等は自由になっている。
「では、明日出立の際に近くの魔獣にお声がけください」
普通の人では魔獣に声をかける等自殺行為以外の何物でもないのだが、この町に慣れてくればこれが普通になってくる。
完全に制御されている高ランクの魔獣であれば人言を完全に理解できるので、メッセンジャーにもなるのだ。
未だ完全に慣れていないベンゾンではあるが、既に何回か経験しているので問題ない旨伝えると、リージョは防壁方面に向かって去って行く。
残されたベンゾンは、この町の男性と納品についての話を再開しており、その後商談が終わると慣れた様子で一つの建屋の中に入って行った。
そこは行商人や今後認めた人材を一時的に宿泊させる為に準備した宿であり、1階はダンジョン内部や地上で作成された食材を使って調理が得意な者が食事を提供している食堂で、通常はクロイツ達も含めてこの町の民が集まって食事を楽しんでいる。
現時点でダンジョン町に宿泊できる外部の人材は非常に限られているので、この状態で一人増えようがあまり食事について変化はないが、二階より上はまさに宿になっているので、維持管理を行う仕事している者以外ではこの町の民が上の階に上がる事は殆どない。
「お、ベンゾンさんが来た。こっちに座ってくれ。一杯どうだ?」
町の住民は、自分達が決めたノルマを達成できれば自由に生活しているので、必ず誰かしらがこの食堂にいる状態になっており、ベンゾンはある程度顔が売れている事から中に入ると住民から即座に声を掛けられる。
ちなみにこの場での食事やお酒は無料であり、もちろん宿泊費も無料だ。
「いや~、今日はとてつもない素材を納品して頂きましたよ。実際に積み込むのは他の素材と共に明朝として頂いて今日は一泊させて頂くのですが……長く商売をしていますが、見た事のない程の素材でした。良い意味でとんでもない町ですね」
「それはそうだろう!なんと言ってもクロイツ様の治める町、そしてSSランカー二人、“白套のリサ”様と“黒套のリージョ”様が守護している町だからね!これで普通の町である訳がない」
「ハハハ、確かにその通りです。これは私が短慮でしたね。何だかこの状況に慣れつつある自分が怖くなってきましたよ。Sランク魔獣に話しかけて連絡をするなんて、今でも信じられませんからね。うっかりこの町以外の魔獣に無防備に近づかないように気をつけなくてはいけません。ですが、最近私はあまりにもこの町が魅力的なので他の場所での行商を一切行わずに、ある意味ダンジョン町専属になっているので、制御できていない魔獣に遭遇する心配についてはそれほど気にしなくても良いのかもしれませんけれど」
「そ、それは確かにそうかもしれない。俺達も町の外に行く機会があれば気をつけなくてはいけないな。言われなければ、すっかり勘違いしていた」
その後は、後からこの店に入ってきた町の住民達と親睦を深めて一泊し、翌朝宿を出て最も近くにいるポイズナックに近づくが、やはり少々腰が引けているベンゾン。
その姿を見て、逆にポイズナックが気を遣ったのか羽を広げて地面に伏せる様な姿勢……いわゆる服従の姿勢をとってくれたのだ。




