ダンジョン町での生活(クロイツ)
「あ、クロイツ様!」
クロイツが3階層に到着すると誰かがこう叫んで駆け寄ってくるのだが、正直に言えばクロイツは今回この場に来た人々の数が多すぎるので名前を覚えきれていないので、敢えて名前を言わないような言い回しをしている。
「お、元気そうだな。もうここの生活には慣れたか?」
「はい!こうして見ればポイズナックも可愛い顔をしていますよね?」
いまクロイツと話している女性は、夫、子供と共に赤の紋章に落とされてしまっていたのだが、共に同じ場所で仕事をさせられていたので生き別れになる事は無く、そこだけは不幸中の幸いだったと言えるだろう。
ちなみに、ポイズナックを可愛いと言える環境はこのダンジョン町だけ、それもこの町に住む住民限定であり、これが普通と思われては目も当てられないのだが……とりあえずこのダンジョン内部の魔獣は特別だとは言い聞かせている。
「あ!クロイツお兄ちゃん!」
「お~、元気いっぱいじゃねーか。そうそう、子供はそうでなくっちゃいけね~な!」
話している最中に女性の娘が駆け寄ってきたので、笑顔で抱きかかえてやるクロイツ。
クロイツも今では18歳になっているので、目の前の少女……見た目4歳くらいだろうか?子供として扱う事ができる年齢になっている。
抱きかかえたまま女性と共に歩き出す。
「今日は一応4階層も併せて見ておこうと思ってな。って、ご主人はどうした?」
「今日は、畑の方で作業をしています」
クロイツの“彼女欲しい病”が発病しないのは、目の前の女性が既に結婚しているからだと言う事は付け加えておく。
「クロイツお兄ちゃん、私も4階層見てみたい!」
「おぉ、良いぞ。あれ?自由に行って良いって言わなかったっけ?」
「そうなのですが、3階層でも十分以上に広いので迷子になってしまわないかと心配で、私と主人が禁止していたのです」
家族の教育方針に口を出すつもりはないクロイツは、それならば!と、目の前の女性に許可をとる。
「んじゃー、今日は特別って事で俺の視察に同行してもらうって事で良いか?終わったら責任をもって3階層に連れてくるからよ?」
「そんな、ご迷惑ではないですか?」
自分達を助けてくれた大恩人のクロイツにそこまでさせるのは申し訳ない気持ちで一杯の女性。
「いやいや、気にすんなって。俺も道中の話し相手が欲しいからな」
「そ、そうですか?では、お願いしても宜しいでしょうか?」
「決まりだ!よろしく頼むぜ!!」
「うん、クロイツお兄ちゃん!」
こうして子供を肩車しながら3階層を回るクロイツだが、その姿を見た人々が大恩人を見つけると嬉しそうに話しかけてくる。
その様子を見たクロイツは、これならば魔獣には慣れてくれたのだなと判断しつつも、突然守護神の一角の姿が見えなくなった時の不安感をなくすためにリージョやリサは頻繁に外出する事になった事だけは伝えている。
かなりの頻度で人々に遭遇して会話をしながら進んでいるクロイツと少女だが、とある場所に近づいたときに、頭上からこう言われたクロイツ。
「クロイツお兄ちゃん!あっちに私がお世話をしているお花があるの!」
「お?すげーじゃねーかよ。もうお世話をしているのか。見せてもらっても良いか?」
「うん!あっちだよ!」
説明されずともダンジョン内部の情報はポチから貰っているし、夜にも気配を消して視察する時があるので知っているのだが、敢えて少女の指示に従って動くクロイツ。
「ここなの。ちょっとだけ下ろして貰っても良い?クロイツお兄ちゃん」
ゆっくりと少女を地面に下ろすと、目の前に広がる花畑から一輪の花を持ってくる少女。
「これ、クロイツお兄ちゃんに上げる!」
「スゲーな、こんなきれいな花を俺にくれるのか?嬉しいぜ。今度、リサが来た時にも上げてくれるか?」
「うん、いいよ!」
リージョの名前は言わないクロイツだが、個人的にリージョに花……どう考えても似合わないと思っている個人的な考えの元で口にしなかっただけだ。
その後、貰った花を胸のポケットに軽く差して再び少女を肩車し、基本的には独身者が生活している4階層に進む。
「こうなっているんだ!私の所とあまり変わらないね?」
「そうだな。広さも変わらねーぞ。期待外れか?」
「ううん。どうなっているかわかっただけでも楽しいよ!」
ここでも民から話しかけられるクロイツだが、いつもと異なる楽しさを経験する事が出来ていた」




