ベナマス国王の動き(2)
「やっと見えたか。全く、余にこれほどの長旅をさせるとは……だが、しっかりと資金を回収するためだ。覇道の一歩と考えれば止むを得まい」
ゾロゾロとナスカ王国に入国しているベナマス一行は、人々が活発に復興作業をしている様子を見ている。
以前の混乱期に建屋も少々傷み、農地も荒れ果て……と言った状況だったのでやる事は山ほどあるのだが、誰しもが不満そうな表情は一切なく楽しそうに作業をしていた。
「フン。見かけは楽しそうに見えるが、所詮は覇道を知らん無能・無知の集まりよ。搾取する側、される側を理解できずに必死に這いつくばっているが良い」
人々の様子を確認したベナマスはつまらなそうに吐き捨てると、そのまま王城に向かう。
リージョから事前に情報を得ていたメバリアは、契約書なるものを配下と共に必死で探していたのだが見つけられず、さしあたり今自由に動かせる金額……リージョが予想していた金額である虹金貨20枚(2億円)をかき集めて待機していた。
「お初にお目にかかります。シス連合国を構成するベナマス王国のベナマスです、メバリア陛下」
「こちらこそ、遠路遥々ようこそ我がナスカ王国にお越しくださいました。今日は……土地の契約についての話と言う事で宜しいですか?」
メバリアもギルドマスター時代の話し方ではなく、王族としての態度で接している。
「なるほど、直系ではなくとも一族であるので契約についてはご存じのようですね。それならば話が早くて助かります」
メバリアが妾の子である事をそれとなく匂わせる不敬な態度のベナマスだが、今の時点であれば国力も財力も自分達が上であり、更には契約に対して非があるのはナスカ王国である為に少々強気の姿勢を崩さない。
たとえメバリアの近くにいる護衛の騎士達の視線が厳しくなっていようが……だ。
対してメバリアは、この程度の煽りは冒険者時代やギルドにいた時代に散々受けた事があるので、一切意に介す事は無く淡々と事務的に会話を進める。
「確かに契約についてはとある情報筋から仕入れて知っているのだが、恥ずかしい話、こちらで契約書が見当たらなくて困っていたのですよ。今回、未払いについてのお話でしょうから契約書も当然お持ちでしょう。一度見せて頂けないでしょうか?」
「……良いでしょう」
自分の予想とは違って契約についての詳細を知らないと言っているメバリアが嘘を言っているようには見えず、こうなると、契約についての情報を仕入れたと言っている情報筋が気になるベナマスだが、一先ず契約書の写しをそのまま開示する。
「失礼する」
その契約書を手に取って読み進めるメバリアの表情に変化はないが、額に汗が浮かんでいるのを見逃す事は無いベナマスは、さしあたり相当な金銭と無理な要求を伝える事が出来そうだと内心歓喜する。
『どうやら、本当に契約の中身を知らなかったようだな。通常の金額の10倍以上の賃貸料、まさか一月虹金貨1枚(1千万)とは思うまい。それに……クック、遅延金の項目までは読み進んでいないようだが、そこを読んで表情を取り繕えるかな?』
ベナマスが期待しているのは、新国王であるメバリアの狼狽だ。
契約書の最後に記載されている遅延金については、一月当たり更に10倍の金額を支払うとあり、一月だけで虹金貨10枚(1億円)の支払い義務が発生する事になっている。
メバリアはその契約書の金額に驚きつつも表情に変化が無いように取り繕っていたのだが、最後の遅延金の項目を読んで絶句しつつ内心で叫んでいる。
『こ、コレは酷いだろう。こちらに契約書が無いのだからこの記載が本物かどうかは……いや、そこまで改ざんする余裕はなかったはずだ。だとすると、本当にこの支払義務があるのか!そもそも何時から払っていないかなどわかりようはないが、そこを伝えてしまうと都合の良いようにやられてしまう……どうするか』
ベナマスはメバリア率いる新ナスカ王国が契約書を持っていない事を知らない様子だったので、いくら写しとは言え契約書の金額を変更する余裕はなかったと判断したのだが、そうなるとこの契約書は正式な契約となり……膨大な遅延金が発生する。
その期間がどこからか不明なため、どう見ても真面な対応をする様な男に見えないベナマス国王に対して弱みを見せる事が出来ないメバリアは、一旦この案件を持ち帰る事にした。
「ベナマス殿、この契約書は写しだろう?これはこちらの控えとして頂けないだろうか?」
「それは構いませんが、ご存じの通り我がベナマス王国はシス連合国の一国と言う立場なので、少々入用なのですよ。ですから、早急に遅延金を含めて未納分もお支払いいただきたいのですが」
何故連合国の一国と言う立場で金銭がいるのかは不明だが、誰がどう見ても非はナスカ王国にあるので咎める事は出来ない。
「確かに言い分は尤もだが、ご存じの通り私も元首になって間もない上に契約書も今初めて見たので、申し訳ないが少々時間を頂けないだろうか?」
「……良いでしょう。ですが、私も忙しいので待てるのは数日。当然その間の滞在を含めた経費は持っていただきますよ?」
「……承知した」
その後ベナマス一行は王都の最高級宿に泊まって無駄に豪遊しつつも、明るい未来を想像して羽目を外していた。
「アハハ、見たかあの面!あの様子だと未払い期間も把握していないだろう。これでナスカ王国は余の傀儡になったも同然よ!先代……ドレア国王には感謝しなくてはならんな!」
「仰る通りです。ここを足掛かりに……いっその事、連合国を離脱してここに拠点を移すのもありかもしれませんね」
「確かにな。夢が膨らむぞ。ハハハハハ」




