ベナマス国王の動き(1)
シス連合国の国主がダンジョン町のクロイツ邸で穏やかに顔合わせが行われている一方で、同じようにシス連合国を既に出国している一団がいる。
「戦闘を経験しとらん腰抜け共が……あんな奴らに連合国が治められるわけがあるまい!全く忌々しい」
怒りをあらわにしながら移動しているこの一団は、Aランカー“血飛沫のミーシャ”を輩出した事を誇りとしているベナマス王国の国王を含めた一行であり、目的地は同じく国家として新たに生まれ変わったばかりのナスカ王国。
「せっかく長期的に土地を貸していたのに支払いが滞っているなど無礼千万。そもそも先代、いや、先々代から国王が様変わりしたからだか何だか知らんが、国家として賃借料を納めていないのだから、国王が変わろうがその義務が発生するのは当然だ!」
ベナマス国王は自らの国家が小国である事は認識しているが、武闘派の集まりであり自らが連合国を率いる立場になれば大陸中の覇権を握れると考えている。
その一歩として、先ずは資金を集めるべく正当な権利を主張しにナスカ王国に向かっていたのだ。
現国王であるメバリアは知る由もないのだが、クロイツ達の父であるヨド・ナスカの時代から継続してリーナの<傀儡>の影響下にあった先代国王ドレアの時代にも、赤の紋章を保管する場所としてベナマス王国のとある土地を長期的に賃借する契約を結んでいたのだが、国王がメバリアに代替わりする少し前から闇の奴隷商としての活動が出来なかったためにその土地を使用する事も、そして賃借料を支払う事も出来ていなかった。
ベナマス国王は自らの国家を貶すのもなんだが、これほど辺鄙な所を大国が借りる等は通常では有り得ないので貸した土地の使用用途は碌なものではないだろうとは思っており、事実どう見ても真面な状態ではない人々が時折運び込まれて、いつの間にか運び出されている事を把握していたのだが、当時は賃貸料の支払いが相当良い実入りになっていた事、更には大国の機嫌を損ねる事を恐れて黙認していた。
当時ヨド・ナスカ達は闇の奴隷商を立ち上げて活発に活動していた事から、未だ十分な力のない闇の奴隷商では契約を断られると危惧して国家相手の契約とする必要があると考え、表の身分である国王として契約を行っていたのだ。
正直そんな事はベナマスにとってはどうでも良い話だが、貸した土地で良く見る人々が赤の紋章に落とされている事位は把握していた。
「まったく、契約で定められた金銭すら支払わないとは……赤の紋章が市場から消えた事が要因だろうが、そんな事は余の知った事ではない」
この情報を仕入れたリージョは、この一行の速度であればナスカ王国まではまだまだ相当日数が必要な事から、一先ずクロイツにこの件を報告する為にこの場から消えて行く。
クロイツの家ではシス連合国からの来訪者達と楽しい食事会が行われていたので、リージョの存在にいち早く気が付いたクロイツが折角だからと各自に“黒套のリージョ”を紹介する。
「我がダンジョン町の精鋭の一人、“黒套のリージョ”が所用から戻ってきました。良い機会なのでご紹介しておきます」
突然クロイツがSSランカーについて話し始めたので周囲を見回すシス連合国の面々だが、部屋の中にはリトアとエルトネ、リサとクロイツ以外には誰も見つける事が出来ない。
「お待たせしました、師匠。ただいま師匠にご紹介頂きましたリージョです。シス連合国の皆様、お見知りおきください」
クロイツの横から声がすると、徐々にその姿が露わになってくる。
「おぉ、流石は“黒套のリージョ”殿。以前の二つ名“無音のリージョ”が示す通りに全く気配がわからなかった!」
本来シス連合国の護衛の騎士としては悔しがるところだが、隔絶した力を持っている事はこの町に入った瞬間のSランク魔獣ポイズナックを見て嫌でもわかるので、誰しもが尊敬の眼差しを向けていた。
「で、どうしたリージョ」
「はい。できれば早急に報告したい事がありまして……」
突然戻ってきたリージョから状況を聞いていないクロイツは、リージョの一言でリサをこの場に残して一旦この部屋から退出するのだが、リサを敢えて部屋に残したのは、リトアとエルトネの二人の赤の紋章持ちが不安にならないようにする為だ。
「師匠、どうやらナスカ王国としてベナマス王国に土地の賃貸契約をしていたようで、その未払い分を請求しに向かっております。今わかっている範囲では契約としては真っ当ですので、メバリアさんも支払わざるを得ないと思います」
「そうか。その契約の場所はブサ村みてーな使い方だったんだろう?」
「そのようですね」
「……で、契約は当然継続しないとして、どの程度の支払いになりそうだ?今、あの国は色々立て直しが必要だからな。国家としての蓄えなんぞほとんどねーぞ?」
「具体的な金額は調査しきれていませんが、相当長い間未払いらしいので……虹金貨20枚(2億円)以上になるのではないかと」
「その程度なら何とかなるとは思うが、あくまでその予想金額は普通の契約と言う大前提があるだろう?あんなクズ共が後ろめたい用途で契約するんだ。貸す側も相当ボッてくるだろうよ。それに、未払いの違約金も発生する可能性がたけーだろ?」
どの程度の広さの土地なのか、具体的な未払い期間はどの程度なのかを全く掴めていないので、さしあたりベナマス王国が向かっている事、そしてその理由を先行してメバリアに教える事にしたクロイツは、ダンジョン町としても最大限手を貸す事を付け加えて報告するようにお願いする。
「わかりました、師匠。ではメバリアさんに伝えた後、再度ベナマス王国一行を監視しますので、暫く出てきます」
「悪りーな。頼んだぜ」
こうしてクロイツだけが再び部屋に戻るのだが、もちろんリサは二人の会話が聞こえており、黙ってクロイツに視線を向けて頷いていた。




