シス連合国(1)
しっかりと門の外に転移して戻ってくるのは、門番としての機能が働いているか確認する意味もあるし、直接家に転移せずに街中を歩けば自分の存在を町民達に視認してもらえて、少しでも安心してもらえるだろうと言う思いがある。
転移はできないが、同じように完全に町民に認識されずにこの家まで戻って来られるリサやリージョも、同じようにしっかりと門から入って歩いてこの場所まで戻ってくるようにしている。
「戻ったぜ!」
「「お帰りなさい」」
町の端、3階層まで直通の入り口の近くの建屋に入るクロイツを出迎えたのは、この建屋に住むリサとリージョだ。
『お帰りなさい』
時折ポチもダンジョンから出てこの家で寛いでいるのには理由があり、既に3階層と4階層にダンジョン内部の町を移設しこの場所がダンジョンと説明したのだが、防壁に囲われている状態であれば……との事で全員が地上の町で生活をしており、必然的にクロイツ達も地上で生活する事が多いので、寂しくなって地上に出てきている。
因みに、普通に1階層に繋がる岩の切れ目にある入り口は防壁の外になるように町が作られ、今の所は間違っても第三者が直接3階層に侵入する事は絶対に無い状況になっている。
少し前に町の人々に事情を説明して、狼の魔獣と同じく自分達を守ってくれる存在だと説明した上で3階層、4階層の魔獣を紹介したのだが、やはり見た目だけでも相当な強さとわかる雰囲気を曝け出している魔獣多数を前にして失神する者が続出したのは良い経験……だろうか。
クロイツ達にとってみれば雑魚であるので普通の人達との意識が大きく乖離している事をすっかり忘れていた結果なのだが、この時の事を反省して一体ずつ日を置いて紹介し、且つ魔獣側には絶対服従の姿勢を保持してもらう事で、少々時間がかかったが今では地上で直接的に町の安全を確保するべく徘徊しても誰も怯える事は無くなっていた。
逆に、時折力仕事などを頼んだり幼い年齢の子供と遊んでいたりする時もある程に慣れている状況だが、間違っても防壁の外に出る事が無いようにきっちりと指示をしている。
少し前に皇帝アソールにSランク魔獣を目撃する事は無いだろうと言い切った傍から、それ以上の脅威になり得る存在を世に放つ事と同義になるからだ。
「ところでよ?シス連合国って知っているか?」
クロイツは皇帝アソールから聞いてきた国について何か情報を持っているのかを聞くのだが、その視線はリージョに向けられている。
この中で情報収集と言えばリージョが最も長けているので、同じようにリサやポチですらリージョを見る。
「あの周辺は、丁度ここからですとゼリア帝国と真逆の位置にある小国が纏まった国家ですね。昨日シス連合国建国の宣言をしたと聞いています。小国のそれぞれの立ち位置や国王に関する情報は掴んでいませんが、新たな火種にならなければ良いのですが……そう言えば、ミーシャもあの小国の内のどれかの出身と言っていましたね」
「ミーシャか。いたな、そんなの」
「そうですね、師匠。なんだか良くわからない人でしたけれど、二つ名だけは物騒な名前でしたよね。確か、“血飛沫のミーシャ”でしたっけ?」
『そうだよ~、リサ様。今もあの階層で畑を耕す時にレイピアで凄い勢いで耕しているよ。流石はAランカーだよね。他の誰よりもノルマ達成が速いから、休憩できる時間が長くなっているよ』
本当に何の糧にもならない情報をポチから貰ったのだが肝心の情報はこれ以上ないのでゼリア帝国と同じく隣国と言う事なので、安全上、情報収集をする事にした。
クロイツとしては小国が多数ある場所へダンジョン町の自治国家建国……町の設立の挨拶については、町の名前が今日決まったので数日以内に各国を簡単に回ろうかと思っていたのだが、巨大な一国になったのであればきっちりとするべきだろうと元王族らしく判断する。
「じゃあよ、向こうの国王が好みそうな手土産も含めて調査してきてもらえるか?リージョ」
「承知しました。早速、行ってききます」
そのまま普通に家を出て門の外までは隠密を一切使わずに出て行くリージョ。
「じゃあ俺は、久しぶりに例の階層の様子でも見てくっかな。ポチ、頼んだぜ。リサはどうする?」
「せっかくですから、昨日ポチさんがダンジョンから持って来てくれた資材をメバリアさんの所に持って行こうかと思います。ついでに連合国の情報が無いかも聞いてきますね」
メバリアは元ゼリア帝国のギルドマスターであり、敬愛するクロイツの異母姉、更にはクロイツの祖国の立て直しの為に必死で政務を行っている現ナスカ王国の国王だ。
リサはクロイツとの関係が深いメバリアとあっという間に仲良くなり、暇があれば時折こうして大量の手土産と共にナスカ王国に出向いてメバリアと語り合い、時にはサポートして帰ってくる状況になっており、少し前のリージョと同様に家を出て歩いて門から出て行く。
残ったクロイツはポチと共に3階層直通の入り口に入ると、即ポチが転移して薄暗い深層に到着する。
「お~、全員きっちりと仕事しているじゃねーか。地上にいる時もこれくらいしっかりと仕事をしてりゃーこんな事にはならなかったのによ」
本当に久しぶりにこの階層に来たクロイツは、全員が黙々と指示されているであろう作業を行っている姿が目に入っていた。
「これなら、飯はもう少し増やしてやっても良いぞ。ま、少しだけだがな」
今の自分は、渇望していた家族とも言える存在が出来た上に楽しく生活できている事から、少しだけ幸せのおすそ分けをしてやろうと思ったクロイツだ。




