クロイツを励ます会!(1)
リージョは、敬愛する師匠であるクロイツと今まで共に行動した経験から“彼女欲しい病”については何となく理解できており、一方で妹であり自分と同格のSSランカーである“白套のリサ”の“師匠大好き病”についても理解している。
兄としては、妹が敬愛する師匠と結ばれるのはこれ以上ない程の誉であり希望なのだが、今はクロイツの心のダメージを癒す事を最優先としている。
リージョやリサは、隠してはいるが身内をダンジョン深層の過酷な労働環境に落とした事で心に受けているクロイツのダメージを軽減させるべく行動していた。
リサは常に楽しい話をし続け、料理も必死で頑張っている。
一方のリージョは、綺麗な女性と楽しく会話してお酒が飲めるお店に連れて行く事……だ。
今までは戦闘・暗殺関連の経験しかなかったが、その際に得た一部の情報を必死で思い出した上で最新情報を態々自ら出向いて仕入れ、一つ目の店で大当たりを引いたのだが……そのままスムーズに事が進むわけではなく、目下最大の壁にぶち当たっていた。
「ふ~、どうやってリサに明らかにせずに師匠を連れ出すか……ですね。我が妹ながら師匠の事に関しては異常に勘が良いので、助かる時もありますが、こう言った時には困ったものですね」
“師匠大好き病”のリサにしてみれば、理由が何であったとしてもリージョが見つけてきた店にクロイツを行かせるなど許容できるわけもなく、相当慎重に行動しなければその第六感とも言うべき異常に発達したセンサーが発動して作戦が瓦解させられる可能性が高い。
「師匠に相談などしようものなら、絶対に感知されますからね」
クロイツは必要以上にソワソワし、その状態をリサが気付かないわけがないので絶対に当人にも秘密にしながら事を進めなくてはならないと固く決意するリージョ。
いつもの通りにゼリア帝国のギルドで依頼の受注……と言っても、クロイツの転移を使わず共異常な移動速度で動けるリサとリージョであれば他国のギルド、特に国王が変わって完全に安定したとは言い切れないナスカ王国の依頼を多めに受けて活動していた。
いつも通りの日常が過ぎている中で、一人未だにクロイツを店に連れて行く事が出来ずに焦りが出ているリージョだが、好機は突然訪れる。
「師匠、お兄ちゃん、明日と明後日でメバリアさんの所で依頼を継続して行うので、今日は帰ってこられません。実は晩御飯も招待されていまして……念のために“深淵の森”を少し深めに調査する依頼なので、私のせいで悪影響が起きないように泊まりで慎重に行動する事にしました」
「お、流石じゃねーか。確かにリサが暴れちゃー魔獣共がパニックになってナスカ王国にどんな影響があるかわからねーからな。じっくりと、安全第一でやってくれ」
「はい!師匠」
急ではあるが、思わぬところから秘密裏に行動できる時間を得る事が出来たと考えているリージョ。
幸か不幸か、明日受けている依頼はクロイツも本気を出せば数時間で終わる依頼であるために、夕方から思う存分クロイツに楽しんでもらえる事は間違いなく、場合によっては泊まりで楽しんでもらっても良いのではないかと思っている。
「じゃあ師匠、お兄ちゃん、行ってきます。私がいないからって羽目を外しちゃだめですよ?」
「ハハハ、悲しい事にそんな伝手がね~からな、安心して行ってこい」
「安全第一ですよ、リサ」
流石に荒波にもまれ続けていたリージョはいつもの通りに淡々と答える事ができているのだが、内心驚愕と安堵の感情に包まれており、その中身は……リサとしては何の気なしに釘を刺したつもりだったのだが、自分がこれから行おうとしている事への忠告に聞こえた事による驚愕、そしてクロイツには未だに事情を説明していないので動揺する事なくリサに返事が出来ている事への安堵だ。
「少し前まではリサも一人で行動するのを嫌がっちゃいたが、俺と離れて一皮むけたな。頼もしくなりやがって、嬉しいじゃねーか」
「喜んでいる所に申し訳ないですが、師匠」
「うん?どうしたリージョ」
「実はですね、師匠の為に楽しく過ごせるお店の調査を済ませておりまして、リサがいない今日にでもご招待したいのですが、如何でしょうか?私もそうですが、師匠の依頼も本気を出せばそう時間はかからずに終わらせる事ができると思いますので、互いに依頼終了後グアトロ王国の門から少々離れた場所にて待ち合わせで如何でしょうか?」
「な、なに!?そんな事をしてくれていたのか!?でかした!良し、んじゃー依頼はさっさと片付けてくるぜ。直接グアトロに行きゃー良いんだな?」
「そ、そうですが師匠、あまり早いとお店は開いていないと思いますのでそれ程急がず共良いと思いますが……師匠は転移もありますし、想像以上に早く到着されても申し訳ないと言いますか、何と言いますか」
「そ、そうか。そうだな、悪かった。焦っちまったよ。しかしリージョ、リサがいなくなるこのタイミングで伝えてくるとは考えているじゃねーかよ。流石はSSランカー“黒套のリージョ”だ」
「ありがとうございます」
傍で成り行きを黙って見守っているポチとしては、今の一連の流れの中でどのあたりが流石なのかはよくわからないが、クロイツが今迄にない位にワクワクしているのだけは理解できたので嬉しそうに聞いている。
「よっしゃ、じゃあそう言う訳でよ?俺達も今日は戻らねーかもしれねーが、よろしく頼むぜ?ポチ!」
『えっと、どう言う訳かわからないけど、わかったよ』
もうすっかり夜通し遊ぶ気持ちでいたクロイツは、この時点でリサの“師匠大好き病”の威力については頭の中からすっぽりと抜け落ちていた。




