クロイツを励ます会!(2)
「師匠、お待たせしました」
「ん?いやいや、そんなに待っちゃいねーよ」
ここはグアトロ王国の門から少々離れた人目が無い場所。
互いに依頼を終わらせて夕方に待ち合わせとしたのだが、セリフとは異なり実はクロイツ、楽しみすぎて依頼を即終了させて数時間前に到着し、グアトロ王国の中に侵入の上で軽く店の下見……と言っても店が開いていないので中に入る事は無かったのだが、周辺の店の密集具合や外観をしっかりと観察済みであり、期待が膨らんでいる。
下見中からクロイツも一応少しだけ変装しており、リージョと共に本人だと知られてはゆっくりと楽しめないと思っての行動だ。
リージョはクロイツの言葉を真に受ける事はしていないが、そこを突っ込んでも意味がないので早速店に向かう。
クロイツは下見した事は恥ずかしくて言えないのだが、リージョがどの店に連れて行くのかは気になっていた。
下見時には煌びやかな店、落ち着いた店、少々怪しい店と色々な店があったので、リージョが言う事前調査の結果どの店が選択されたのか非常に興味があった。
「ここです、師匠」
リージョが選択したのは落ち着いた店で、店内はやや暗い中にも淡い赤い光が照らされている店だ。
「“龍と高ランカーの集い”か。名前はスゲー店だなリージョ……いや、店では互いに本名は言わねー方が良いだろうな。師匠呼びもやめた方が良くねーか?」
「いいえ、大丈夫だと思いますよ。実はこのお店、師匠や私達のファンがたくさんいるお店なので、本人のふりをしていると思われる程度で済むはずです」
本当の名前を呼べない制約があっては楽しく酔う事が出来ないと考えていたリージョは、互いを今迄通りに呼んでも何ら問題ないとクロイツに告げる。
「そりゃー助かるな。気を張らなくて良いのは楽で良いからな。だが、俺達のファンか……ちょっとむず痒いが、それも楽しみの一つか。ありがとうな、リージョ」
「いえいえ、実際に楽しんで気に入ってもらえると良いのですが」
軽く話をしながらも、店で本当に楽しむために周辺の気配察知を敢えて行わずに店に入って行く二人を迎えたのは、リージョがこの店に以前来た時に対応した女性だ。
「あら、久しぶりですね。忘れられちゃったのかと思いましたよ、リージョ様のファンの方ですよね。今日もすっかりと成りきっているみたいで素敵です。そして、そちらはクロイツ様のファンの方ですか?よく似ていますね。さ、こちらへどうぞ」
この界隈だけではなく、どこに行ってもSSランカーに肖ろうと黒套や白套を羽織っている者はごまんとおり、更に最近ではクロイツの姿も公知になっている事からその見掛けを真似する者が増えている。
そのせいもあってか、本人なのだが真似をしていると勘違いしているまま接客を始める女性は、以前とは違ってカウンターではなくテーブル席に案内するともう一人女性が流れるように座る。
「あら、お二方は相当決まっていますね。私もあの三人の大ファンなのです。さっ、今日は楽しみましょう。お二方からは凄い熱意が伝わってきますわ。フフフ、接客ではなく本心から楽しめそうで嬉しいです」
本人とは気が付かずに、二人がクロイツとリージョの真似をする程のファンだと思っている女性二人は、思ったままリサを含めた三人の素晴らしさを話し始める。
突然の称賛に恥ずかしくなっているクロイツなのだが、悪い気はせず酒の力もあってか徐々に心から楽しめるようになっていた。
「でな?俺は言ってやったのよ。視野を大きくするべきだっ……てな」
今は、リサとは別に行動するべきだと思い悩んだ末に行動した所を楽しそうに話しているクロイツ。
「そこまでご存じなんて、どれほど良くクロイツ様を調べていらっしゃるのかしら!もっと他のお話はありませんか?」
「確かに、そのお話は信憑性がありますね。あのリサ様が自ら望んでクロイツ様の元を離れるような行動をとるとは思えませんから。ですが、流石はクロイツ様ですね。そこまで考えて敢えて弟子と別れるとは……」
実体験を話しているクロイツだが、女性二人には一ファンとして必死で調査した事を披露していると思われおり、そのまま楽しい夜は過ぎて行く。
クロイツもどれほど本当の事を話そうが本人であるとは思われていない事に気が付き、これならば変に気を使う事なく楽しめると酒のピッチが上がる。
「リージョ……スゲー良い店を見つけたじゃねーかよ。流石の情報収集能力だぜ。脱帽だ!」
「お褒めに与り光栄です」
しっかりと返しているリージョだが本人も楽しさから相当に酔っており、まさか自分がこれほどまでに素晴らしい師匠を得られ、更には共にこれほど楽しい一時を過ごす事が出来るなんて……と少しまでの自分では考えられなかったなと思いつつ酒を口にする。
やはり別格の力を持っている二人は、明け方まで意識は保ちながらも酒を飲み続けてグアトロ王国を後にする。
「いや~、リージョ。またあの店に行こうぜ?」
「もちろんです!是非ともお供させて頂きますよ」
自分の話を楽しく聞いてくれるし、逆に話は面白い店の女性達……特に全員がセミロングかロングと言うクロイツ好みとも合致しており、楽しい一時を過ごす事が出来ていた。
すっかりと元気になったクロイツを見て、本来の目的であるクロイツの悲しみを少しでも取り除く事が出来たのではないかと安堵するリージョだが、この日の夕方に帰ってくるリサによって大惨事が起こされるとは夢にも思っていなかった。




