メバリア即位(3)
「ふ~、緊張するな。いや、しますね」
「ハハハハ、メバリア。今更取り繕っても仕方がね~だろ!なぁ?リサ、リージョ」
「し、師匠。一応即位式ですから、ギルドマスターなら許される言葉使いも今回は控えるのが正しいかと思いますよ?」
「私も、お兄ちゃんに賛成……かな」
いくら“師匠大好き病”であったとしても、やはり格式は重要であると知っているリサもリージョの言葉を肯定する。
「うっ、まぁそうだよな。悪かったな、メバリア。そういや俺も、確かに昔は相当な猫を被って生活していたぜ」
実質国王として政をしている為に、形だけと言え間もなく即位式であるので緊張した表情を崩す事が出来ないメバリア。
今まで己の力だけで生活してきた為に、このような格式高い行動をとる必要が無かった事が災いし、必要以上の緊張に襲われていた。
「くっ、これならSランク魔獣と闘えと言われた方がよほど緊張しないのに~!」
「……気持ちはわかるが、メバリア!落ち着け。その格好で各国の王族がいる中を歩いて眼下の観衆に共に手を振るだけだろ?」
「うっ、そうなのだが、手の振る速度とか、指の位置とか、国家の品格を疑われないようにしなくてはならないのだ!ナスカ王国の国民に対する視線がこの一瞬で決まるのだぞ!緊張するなと言う方が無理だろう!」
徐々にその時が近づいているので、冷静に考えればどうでも良い事すら非常に気になり始めているメバリア。
「め、メバリアさん!観衆は全員ゴブリンだと思ってみてはいかがでしょうか?」
「リサ殿!ありが……いや、そう思ってしまったら襲い掛かりたくなるから、他の案でお願いできないだろうか?」
戻冒険者らしい返しをされて、どうしたものかと真剣に悩んでいるリサとリージョ。
「おいおいメバリア、大丈夫だ。それに悩む時間なんざね~よ。ホレ!」
クロイツが示す先には、メバリアを迎えに来た者が姿勢正しく待っていた。
「う、こうなれば破れかぶれだ。一世一代の猫を被りとおしてやる、見せますわ!」
こうして出口に向かうメバリアを見てクロイツはリージョに目配せすると、リージョは黙って頷いて気配を遮断した後にメバリアの後を付いて行く。
当初の予定通りにメバリアの護衛として人知れずに同行しているのだ。
「じゃあ、私も少し観衆の様子を見ておきたいので先に行っていますね、師匠」
「おう、頼んだぜ。俺も来賓の元に行くか」
三人がこの部屋から消えて各護衛箇所で仕事を始めると、最初に異変に気が付いたのはリサだ。
観衆の中にどう見ても攻撃用の魔道具を持っている者が数人おり、更には異常に目を見開いているミーシャの姿を見つけたからだ。
普通の冒険者ではこれほどの大観衆の中の僅かな異常を見つける事は難しいし、そもそもミーシャを瞬時に発見できるなど夢のまた夢なのだが、異能の育成によって力を上げ続けているリサにとってみれば朝飯前だ。
『報告……は態々せず共、あの二人ならば気が付けますね。では、私は早速対処しましょうか』
同格のリージョと遥か格上である師匠であれば、自分が見つけた程度の異常は即座に察知できるだろうと確信しているリサは、連絡する事なく異常を排除するべく即座に行動を始める。
手始めに、魔道具を持っている者達からブツを奪い万が一にも観衆の中で起動しないようにするのだが、リサ程の力が有ればたとえギチギチの観衆の中にいる数人に対してでも難なく完遂する事が出来る。
「これは……爆発ですか。祝砲と同時に空中で爆発させれば問題なさそうですね」
この魔道具を持っていた面々も祝砲に合わせてメバリア達がいる壇上に爆発の魔道具を投げ込もうとしていたのだが、未然に凶行は防がれる事になった。
「とりあえずあの人達には、ロロ、マーキングだけお願いね!」
「ワンワン!」
どう見ても爆発の魔道具以外の力は何も持ち得ていない一般人なので別途捉えるためにロロにマーキングだけ頼んでミーシャの対応を始めると、観衆が一気に湧き上がりメバリアと各国首脳が壇上に現れた。
……ドンドン……
同時に祝砲の音が大きくなり、合わせるようにミーシャから視線を外さずに奪った爆発の魔道具をはるか上空に投げつけるリサ。
互いが上空でぶつかるように投げたので、その衝撃で祝砲に合わせるように大きな音を立てて爆発して消えて行く。
一方、爆発の魔道具を投げ込もうとしていた数人はどこを探してもその物自体が無くなっている事に気が付いてオロオロしており、その姿を見たミーシャの目も怒りからかより赤くなって何かを叫んでいる。
観衆の大歓声と祝砲があってもその言葉を聞き取る事が出来るリサ。
「早く始末しなさい!何をグズグズしているの!」
今回の凶行の首謀者が自らの犯行を自白している声がしっかりと聞こえたのだ。




