メバリア即位(1)
クロイツが元弟妹をダンジョン送りにした翌日、二人のSSランカーとSランカーのクロイツは非常に忙しく各国を移動して相当数のギルドと主要各国首脳に会っており、クロイツはゼリア帝国の皇帝アソールと会っていた。
「貴殿がSSランカーを生み出したクロイツ殿か。小生が仕入れた情報によれば、我が国の騎士……ミュラが闇の奴隷商と繋がっていたようだが、今は行方不明になっている。詳細は聞かないが貴殿がきっちりと対処してくれたのだろう。国家の品位を守る事が出来た事に礼を言う。で、今日はどうしたのだ?ミュラの件の礼もあるし、小生にできる事であれば何でも言ってくれ」
皇帝とは思えない程きさくであるが、ミュラの事を言い当てる等しっかりと情報収集を行っている事がわかる。
本来は皇帝自らミュラを排除すべきところだったのだが、闇の奴隷商の力による隠ぺいで正確な情報が掴めなくなっていたのだ。
当時のミュラは騎士隊長と言う立場であったため、情報を収集する責任者と言う立場にあった事がゼリア帝国にとって災いをもたらしたとも言える。
流石に皇帝と話をするので、元王族とは言え普段通りの雑な言葉は少し鳴りを潜めているクロイツ。
「今日は他でもない。二つあるのだが……」
「ふむ、二つ……力になれる話であれば良いのだが」
クロイツの表情が少しだけ影を落としたのを見逃さなかった皇帝アソールは、帝国の恩人であり大陸最強の人材である目の前の男のお願いが自分の力の及ぶ範囲である事を切に願っていた。
「一つ目だが、この帝都のギルドマスターであるメバリア。彼女は諸事情で少し前からナスカ王国にいてもらっている」
「うん?数日前に当人と会っているのだが……」
ゼリア帝国からナスカ王国までは馬車で10日程必要になるので、数日前に会っているメバリアが少し前にナスカ王国にいること自体が有り得ないと思い口に出してしまうアソール。
「そこは、Sランカーの力と理解してもらえるとありがたい」
転移させたとは言えないクロイツは、そもそも今の本題はそこではないので曖昧に納得させる。
「そ、そうか。悪かった。話の腰を折ったな。続けてくれ」
「それは助かる。で、貴殿程の力が有ればもう知っているだろうが、メバリアはナスカ王国の王族の血を引いている」
慎重にアソールの表情の変化を確認しているクロイツだが、やはりアソールは知っていたようで表情に変化はなかったばかりか、しっかりとクロイツの問いに対して肯定して見せた。
「確かに知っている。そもそも、生まれる前に母親と共にヨド・ナスカの書状を携えてこの国に来たのだからな。小生としては生まれた母子共に保護するつもりだったのだが、自分の足で立つと言って助力を頑なに断られた。母亡きあとメバリアを陰ながら支えようとしていたのだが、あの娘は冒険者として立派に活動し、ギルドマスターになるに至った。クロイツ殿には申し訳ないが、あの先代国王の血を引いているとは思えない程立派な存在だ」
しっかりと人物を見ている事を改めて理解し、一応姉と言える存在を手放しで褒められて悪い気はしないクロイツ。
「そう言ってもらえると、メバリアも喜ぶだろう。で、その関係で二つ話があるのだが、一つ目は……正直に伝えると、あそこの王族、ドレアやリーナはもう王城どころか地上に存在していない。恥を晒すようだがお願いをする以上全てを明かすと、闇の奴隷商の商会長だったからな。厳しく対処させてもらった。そうなると、国家を継続するにはと言う話になるのだが」
「なるほど、そこにメバリアを宛がう……と。つまり、一つ目はメバリアがギルドを辞める事、二つ目は国王就任を国家として認める事、かな?」
「ご明察!」
「いやいや、ここまで事情を知っていれば誰でもわかる話さ。しかし、クロイツ殿も苦労したのだな。現国王とその妹はまさしくあの両親の血を色濃く継いだようだが、そうでないクロイツ殿には辛い生活だっただろう」
想定以上に自分の事を理解してもらえてむず痒くなるクロイツだが、やはり悪い気はしないので笑顔で対応する事が出来ている。
「わかった。メバリアであれば賢王になれるだろう。必要であれば文官も派遣しよう。そうそう、当然我が国の赤の紋章についてはクロイツ殿に無条件で全て引き渡す。その代わりと言っては何だが、クロイツ殿?」
願ってもいない条件の後に交換条件を伝えてくる辺りがやり手だなと思いつつ、続きを促すクロイツ。
「大したお願いじゃないさ。最近は全く見なくなったSランク魔獣だが、次に目撃情報があった際にはクロイツ殿ではなくとも構わないので、SSランカーを派遣してくれるとありがたい。はっきり言って、我が騎士や領土の冒険者では太刀打ちできないだろう。無駄に危険な相手と戦って命を散らせたくないからな」
「ふっ、貴殿は俺の想像以上に素晴らしい皇帝だ。わかった。約束しよう!その場合には最優先で俺かリサ、リージョの誰かが対処する」
「助かるよ。誰かおるか!」
騎士がこの部屋に入ってくると、皇帝アソールは少し話し方を変える。
「余《・》は、ナスカ王国の新国王であるメバリア国王と友誼を結ぶ事を決めた。この旨、ゼリア帝国の皇帝アソールの名で各国に即通知せよ!」
「承知しました」
大国であるゼリア帝国の認証があれば、新国王が一気に認められる事になるのだ。




