Sランク魔獣の真実
ここは、とあるダンジョン最深部。
Sランクの最上位と言っても過言ではない強さを持つ魔獣、このダンジョンの支配者が配下の者達からの報告を受けていた。
その報告とは、少し前に大陸の中で最強と言われているダンジョンが攻略されて管理者が屈服した情報が自動で流れてきたので、その状況を正確に把握するべく情報取集をした結果だ。
このダンジョンの支配者もダンジョンが攻略された情報がきた瞬間に他のダンジョンの管理者と連絡を取り合ってみたのだが、どのダンジョンにも同じ情報が即座に流れていたらしく、そして今までにない経験であると誰しもが口をそろえていた。
ダンジョンが攻略された際の自動情報展開すら知らなかった管理者は情報収集が必須と考えて、配下の中でも戦闘能力の高いSランクに分類される魔獣を世に放ったのだが、これはこのダンジョンに限った事ではなく他のダンジョンの管理者も同様の結論に達していた為に大陸中に今迄発見された事のないSランク魔獣の目撃情報が激増する結果となり、人々に恐怖を与えていた。
現実的には、地上で暴れて今回の侵略者に目をつけられて同じように攻略される事を恐れた各管理者は、世に放った魔獣達には情報収集に徹するように厳命しており、人族にはよほどの事が無い限り害はなかったのだが、そんな事を知る方法が人族にはなかったのだ。
ポチですら他のダンジョンに関する情報を持っていないのだから仕方がない。
『申し上げます。やはり攻略されたのはあのダンジョンで間違いなさそうです』
『むぅ~、やはり……流れてきた情報通りか。あそこは、侵入直後に我がダンジョン最深部にいる魔獣が闊歩しているのだったな?』
『ご指摘の通りです』
『であれば、やはり最強ダンジョンで間違いない。そこを攻略する者が地上に存在……いや、まだそうと決まったわけではないな。同じ管理者の手下、場合によっては管理者によるものかもしれん。そうだとすると、何時ここに攻め込まれるかもわからない状況か。引き続き、攻略者の情報を集めろ!』
どこのダンジョンでも同じようなやり取りがなされ、日を追うごとに地上に配置されているSランク魔獣の動きが活発になって行ったのだ。
どう考えても自分のダンジョンよりも遥かに各上であるダンジョンが支配されたと判断できる状況であり、真の敵となり得る存在を少しでも早く仕入れたいと思い活動を命じている各ダンジョンの管理者達だが、思い通りに事は進まなかった。
『遅い!いつになったら報告が来るのだ!』
『じ、実は……少し前から第一部隊との連絡が途絶えてしまったのです』
『なに?我がダンジョン最強部隊だぞ!連絡が途絶えただと?そんな事があってたまるか!しっかりと調査しろ!』
管理者に怒鳴られる配下の魔獣だが、事実を言っているだけだ。
全てのダンジョン管理者達は今回の調査を二つに分かれており、攻略した者の情報を集めるために大陸中に配置したSランク魔獣と、戦闘になる事を防ぐため、所謂捨て駒としてクロイツが制したダンジョンを見張らせている部隊に分けている。
このクロイツのダンジョンを見張らせている非常に弱い魔獣の部隊から、驚くべき報告が上がってきた。
なんと、ただの人に見える存在がどう見ても自分達のダンジョンよりも遥か格上のダンジョンの管理者と共に1階層に突然現れたと言うのだ。
ダンジョン内部で突然現れる……つまり転移が使えるのはダンジョンを管理している者だけである事は自分がその立場にいる事から理解している管理者達。
つまり、その者を従えている人こそが攻略者だと言う結論に達する事が出来ていた。
その後の調査対象はダンジョンではなくその人物、クロイツに絞られるのだが、場合によっては地上に出しているSランク魔獣を向かわせる可能性もある事から現場待機を指示していた。
こうして起きた現象は、最終的にリサとリージョ、時折クロイツによるSランク魔獣の一方的な狩りとなって終わりを迎える。
あまりに弱い情報収取だけの為に配置した魔獣は三人の標的になる事が無かったので、かろうじてその真実を持ち帰る事が出来た各ダンジョンの管理者は、有り得ない強さ、どう見ても自分よりも絶対的に強いだろうと言う戦闘結果の報告を聞いて、地上に出る事なく現状のままで只管耐え忍ぼうと固く心に決めていた。
未だ情報収集のための雑魚とも言える魔獣を回収していないのだが、追加報告によれば対象の人物達はダンジョン攻略に全く興味が無いようで、直近で最も多くダンジョンに潜って活動しているリサと呼ばれている人物でさえ目的の物を採取するとさっさとダンジョンから出て行く事が確認され、全てのダンジョンの管理者が安堵していた。
このまま継続して行われている情報収取だが、ここでクロイツと呼ばれている人物が転移を仕える事が明らかになる。
明らかに人の領域を軽く踏み外している能力であり、更に得た情報では赤い紋章を持つ者を必死で救っていたと言う事も理解できた。
どうやら最近では保護対象としている赤の紋章を見つける事が出来ずに積極的な活動はしていないようだが、実は何人かのダンジョンの管理者は、人族のどのように扱っても良い小間使いとしてダンジョンに侵入してきた冒険者が連れていた赤の紋章を持つ者を使役していたのだが、慌てて奴隷契約を破棄してクロイツが治めているダンジョン前に放置していた。
これがいつの間にかクロイツのダンジョン前に赤の紋章持ちが放置されていた本当の原因だが、クロイツの報復を恐れた各ダンジョンの管理者は赤の紋章持ちのダンジョン内部での事は記憶から消す事に成功していたので、一先ずは安心だと思いつつも継続して引き籠っていた。
クロイツとしても、赤の紋章を受けて惨い扱いを受けた事から無意識で記憶を飛ばしているのだと判断した為に無理に詳細を聞こうとしなかった事がダンジョンの管理者の命を繋げた結果になった。




