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元王子クロイツとその弟子達の軌跡-史上初のSSランクを従える男-  作者: 焼納豆


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闇の奴隷商幹部(3)

 既に死亡したと考えられていた元闇の奴隷商幹部候補であり、ゼリア帝国の騎士隊長でもあったミュラがこの薄暗い空間で出迎えた事から、クロイツがナスカ王国の王城で伝えてきた事は全て事実だと把握したこの場の面々。


 つまり二度と日の光を見る事が出来ないと絶望しつつも、現状を把握するべく黙ってミュラの言葉の続きを待っていた。


「皆さんがこの場に来たのは、闇の奴隷商、赤の紋章絡みだからでしょう。メンバーからそれ以外に考えられませんから。ここには、同じく赤の紋章絡みの関係者が日々作業しています。期待を持たせてしまっては申し訳ないのではっきり申し上げますと、労働は過酷で休みもほぼ有りません。食事と睡眠は最低限。甘い考えは持たない方が良いでしょう」


 元闇の奴隷商幹部候補であるミュラが相当な戦力を有していた事を知っている他の面々は、まさか当人からここまで絶望的な事を言われるとは思っていなかったようだ。


「ここは、あの“爆炎のハロルド”が一階層を数分しか潜れずに撤退したダンジョンなのか?」


 転移の繋の際に目ざとくこの場所がどこなのかを把握していた一人がこう告げるのだが、長くこの場にいたミュラには何のことだかわからないので、代わりにクロイツが口を開く。


「あぁ、そうだ。そのダンジョンの深層だ。上に行きたきゃ行ってもいいぞ。その場合は命の補償はしねーよ。下に行くのも止めねーが、下はもっと厳しいだろうよ。だがよ?きっちりと制御しているから、自殺願望で上下階層に向かっても苦しむだけだぜ?」


 人によっては、この地獄から解放されるためにわざと強い魔獣のいる下層に向かう者がいるはずで、先にそのように楽には死ねないと牽制するクロイツ。


「皆さん、甘い考えは捨てた方が良いです。さっきの話は全て事実です」


 こう言ってミュラは自らの腹についている大きな傷を見せる。


「死なない程度に回復はされましたが、罰として作業ノルマは増えた挙句、体を動かす際に傷が痛む状態が続いています。このような状態になるのであれば、無謀な事はしなかったと後悔している所です」


「説明はそんなモンで良いぞ、ミュラ。で、テメー等には男女年齢関係なく一定のノルマを課す。まっ、自分のノルマが終わって他人を手伝ってやるのは自由だが、そんな気概を持つ連中が赤の紋章を作る訳はねーな。そうそう、お前、お前もだな。この場で赤の紋章をつけてやろうと思っている様な表情だが、テメー等の能力は二度と使えねーぞ。甘い考えは捨てるんだな」


 実際この場に幹部と共に送られた奴隷紋を打ち込める術者達は、たいして報酬を受けていないのに何故自分達がと言う思いが強く、いっその事幹部達を赤の紋章に落として自分のノルマをこなさせようと考えていたのだが、脆くもクロイツに見ぬかれた挙句に能力が使えなくなっていると言われてしまった。


 この場で初めてその現実を突きつけられて、確かに自分の中にあったはずの何かが失われている感覚を覚え、術を発動しようにも何をどうしてもできない事に気が付いた。


「バカな!」


「何故俺達がここまでされなくてはならない!幹部連中は今迄良い思いをしてきただろうが!」


 二人目の男の言葉はクロイツの言葉を肯定するようなもので、この場の幹部達にしてみれば、自分達に赤の紋章を打とうとしたと自白していると同義になるので殺気立つのだが……


「その辺りにしておきましょう。どの道ここで争っても自らの体力が奪われるだけです。ノルマはそんな状態で達成できるものではありませんよ。無駄な体力は少しでも使わないようにするべきです。そう、怒りすらノルマ達成のために使うべきなのですよ」


 長くこの場にいて、当然脱走を企てた経験やノルマ未達成の実績もあるミュラは、全てを達観したかのような表情で思った事をそのままこの場の面々に告げる。


 あまりのミュラの変わりように、本当に1%の可能性すらなく一生この不気味な空間から逃げられないのだと漸く悟る。


「さっ、皆さん。向こうで作業する事になります。私もあまり皆さんへの説明に時間をかける訳にはいかないので、迅速に移動をお願いしますよ」


 最近は従順になっている事、作業員が増加している事、今後は地上で護衛の立ち位置で必要になる事から、ポチから狼の魔獣は新たに配置されていないのだが、Sランク魔獣と言われている魔獣は数体視認できる位置に存在している。


「ひぃぃ、ぽ、ポイズナック!」


 誰かが最近地上で最も有名になったSランク魔獣の存在に気が付いて悲鳴を上げるのだが、その悲鳴に焦る事無くミュラはこう告げる。


「アレは私達を監視しているだけで、きっちりとノルマを達成すれば何もしてきませんよ。逆に言うと、ノルマが未達成であれば致命傷直前に調整された攻撃を受ける事になりますね。そのまま痛む体で作業を続けざるを得ないので、何が何でもノルマは達成する必要があるのです」


 だんだんと恐怖がよみがえってきたのか無意識で早口になっているミュラだが、周囲の面々はこれ以上ない程絶望の淵から更に叩き落された気分になっており、一刻も早くそのノルマをこなそうと早足になる。


 その道中に、支部の村民やベータを見つける面々だが、誰しもが新入りである自分達に興味を示さずに一心不乱に、必死に畑仕事をしている姿を見させられていた。


「ここが皆さんに割り当てられている場所です。この線が見えますね?この線で囲われた範囲を各自が完全に耕せば僅かですが食事と数時間の睡眠をとる事が出来ます。道具はこちらにある好きな物を使ってください。では、私もノルマがありますのでこれで失礼しますよ」


 これ以上は相手にする時間は無いとばかりに、小走りでこの場を後に知るミュラを見送った面々は、嫌でも視界に入るポイズナック数体を見て焦りつつ慌てて道具を手に取り、各自が必死で境界の中を耕していく。


「くっ、なんでこんなに……」


 数多くの石や岩もあるのでそう簡単に作業が進むわけもなく、この場に来てから8時間が経過した今でも誰一人としてノルマを達成している者はいなかった。


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