闇の奴隷商幹部(2)
闇の奴隷商幹部であり、自らの実兄を犠牲にしてまで幹部の座を手に入れたミューテルは、今回の急な幹部招集では昇進の話が出るのではないかと期待に胸を膨らませていたのだが、蓋を開けてみればクロイツを始め二人のSSランカーが突如として現れて闇の奴隷商の糾弾を始めてしまった。
「お前等が知っている通り、お仲間のミュラやベータもそこにいるから、寂しくはねーぞ。まっ、随分と人相は変わっているだろうがな」
彼らの実力は嫌と言う程身に染みているミューテルは、まともに戦っては勝てる訳もないので、クロイツやリサとは長い付き合いでもある事からシラを切りとおして逃げる事にした。
「私にも何が何だかわからないのですよ、クロイツ様。ナスカ王国に来れば美味しい食事が振舞われるので、ギルドでの功績を認められた慰労会かと思っていました」
他の幹部やリーナも何を言っているのだと言う気持ちではあるのだが、闇の奴隷商の中でも相当力を持っているミュラが捕らえられていると聞いては諦めの境地になっており、ほぼ全ての者達がミューテルの言葉に何かを言う気力すら残っていなかった。
中には涙を流す者や、ブツブツ何かを呟いている者、唯一気力が残っている者は、腰が抜けているが助かる術がないかを探している。
周囲の幹部達から何かを言われる事が最大の壁だと思っていたミューテルは、予想と反して誰一人として何も言ってこない事に安堵し、且つこの状況であれば自分の言葉に信憑性が増したと思い安堵する。
ここで初めてクロイツはミューテルと視線を合わせるのだが、どう見ても助けてくれるような視線には見えないので、もう一押し必要かとどうすればよいかを必死で考えるミューテル。
少し前にギルドで似たような状況になり、お涙頂戴の話をしても一切靡く事がなかった経験を生かせていない。
「思った以上に反撃する余力がなさそうだな。これなら問題ね~だろ。めんどくせーからこの場であいつは引き渡すぜ、リージョ、リサ!」
何故自分だけSSランカーに引き渡されるのかがわからないミューテルだが、ひょっとしたら助かるのかと視線をクロイツの横にいる黒い外套を羽織ってフードも被っているリージョに向ける。
「ありがとうございます、師匠。ミューテル、久しぶりですね。と言っても、貴方には私の事は分からないでしょうが」
言葉と同時にフードをとるリージョだが、やはりミューテルには誰なのかはわからずに、うかつな事を言う訳にはいかずに黙っている。
「やはりわからないようなので、自己紹介しましょうか」
「え?史上初のSSランカーであり、クロイツ様の弟子でもある“黒套のリージョ”様ではないですか?」
受付としての知識のままを披露するミューテルだが、言われたリージョの表情は変わらない。
「その程度の認識でしょうね。私の父と母の名前、つまり、リサの両親でもある二人の名前を教えてあげますよ。父の名前はルイフェ、母の名前はリベリア。これで思い出せますよね?叔母のミューテル!」
「……」
言葉を発せずにガタガタ震えだすミューテルは、目の前の男が兄の息子で名前すら憶えていない存在だったリージョであると理解し、もう絶対に助からないと思い知らされた。
あれほどの事をした以上、言い訳すらできる訳もなく唯々震えている。
「私とリサの苦しみに対して、相応の罰を受けてもらいますよ」
あまりの殺気に、ミューテルの周囲にいて腰を抜かしていた闇の奴隷商幹部達も這いつくばりながらミューテルから距離を取るほどだ。
「そんじゃあ、全員の処遇が決まったな。お前を除く全員は、ミュラ達と同じ場所に送ってやる。そこで一生を過ごすんだな。俺は先に行っているから、好きにすると良い。リサも……な」
「ま、待て!俺が、俺達王族が誰一人として不在になれば、このナスカ王国は崩壊するぞ!お前が今更統治できるのか!」
唯一、一応現時点では闇の奴隷商ではないドレアが喚くが、クロイツにとってみればこれも想定内だ。
「安心しろ。テメーが心配する事なく、きっちりと王族の血を引く俺以外の適任者が国を治める事になっている。最後だから紹介しておいてやろう」
ここで漸く自分の出番かと思ったメバリアは、厳しい表情のまま一歩進み出る。
「いまクロイツ殿から紹介頂いた、メバリア・ナスカだ。ゼリア帝国の帝都のギルドマスターをしていたが、クロイツ殿の後押しもあって祖国の復興を行う事を決意した。二度と会う事は無いだろうが、後の心配は不要だ!」
「ば、バカな……そんな事が!」
愕然としているドレアだが、その間にいつの間にか一纏めにされた闇の奴隷商幹部、商会長であるリーナや、次期商会長と浮かれていたドレア、近衛騎士達全てを含めて一気に転移するクロイツ。
どの道この面々は二度と地上に出る事は無いので、少々異能を見せても問題ないと判断していた。
直接ダンジョン内部には飛べないのでダンジョン前に来るのだが、その一瞬の景色を見てここがゼリア帝国のダンジョン前だとわかった人物が数人いるが、逆にそれ程の有り得ない力を持っている人物に捕らえられている以上、何をどうしても逃げる事は出来ないと絶望の淵に叩き落されるだけだった。
「今度は……随分と大量に」
転移先で彼らを迎えたのは、元幹部のミュラだった。




