今後の地ならし(2)
「これは?」
突然手紙を出されて、真意が全く分からないギルドマスターであるメバリア。
「これを読んでもらいてーんだが、その前に一つ聞いておきてー事がある。アンタは、ナスカ王国を復興する気はあるか?」
今のナスカ王国は、以前のSランク魔獣であるポイズナックの騒ぎで失態があったおかげかクロイツがいた頃の活気などあろうはずもなく、ギルドの不手際もあった事から冒険者の動きも決して良いとは言えない。
その上に、現国王やその妹を断罪する事になれば国家として立ち行かなくなるので、その対策をメバリアに依頼しようとしている。
異国であるゼリア帝国のギルドマスターであるメバリアに突然こんな事を聞いているクロイツだが、言われたメバリアはフッと笑うと手紙を読まずにクロイツに戻す。
「どうやらクロイツ殿は、私の事を良く知っているようだ。まぁ、立場が元王子ならばそうなのだろうな……確かに故郷であるナスカ王国の惨状は目に余る。しかし今の時点では、このゼリア帝国の周辺にも危険な魔獣が潜んでいる事も事実。ギルドマスターとしてここを対処せずにナスカ王国に戻る事は無いな」
「……確かにその通りだな。アンタは責任感が強いからそう言うとは思っていた。だけどよ?逆に言えば俺が、俺達がSランク魔獣を駆逐すりゃー対応してくれると聞こえたが?」
「そうだな。だが、私一人であの国を立て直す事など不可能だろう?ギルドも根本的な改革が必要だ。理想はあるが、実現するのは……今の私の力では不可能だろう」
相変わらず現状を正確に把握しているのだな、と感心しているクロイツは、自らの理想を語り始める。
「アンタみてーな人材が国家元首であれば、有能な連中は自ずとついて来ると思うぜ?当然俺達も全力でサポートする。で、その国にはアンタも見た赤の紋章持ちを受け入れて貰いてーんだよ。アンタも見ただろうが、あの場所は広いとは言っても閉鎖空間だ。他の人との接触もねーしな。あの場所で心が癒えたら、やっぱり普通の暮らしをさせてやりてー」
いくらクロイツの異能であったとしても赤の紋章を剥奪する事が出来なかったのは実証済みであり、この場で赤の紋章が住んでいる人々がダンジョンの深層だとは具体的には言わないクロイツだが、実際に普通の人達との接触が全くない閉鎖空間で生活している事は事実なので、何とか普通の暮らしに戻ってもらいたい気持ちが強くなっていたのだ。
もちろん無理強いするつもりはないのだが……
「確かにあの紋章があるのは、勝手に契約をされる危険性をはらんではいるが……そこは俺の力でサポートさせてもらおうかと思っている」
流石のクロイツでも広範囲に広がる個人を守る事は難しいので、ポチの力を借りて陰ながら狼の魔獣を護衛につける事になると思っているクロイツ。
「クロイツ殿の力であれば、あの人数であっても可能なのだろうな。だが、そうか。あの方々の為にもナスカ王国の安定は必要か……それはつまり、今の体制が近いうちに崩壊すると言う事で間違いないのだな?」
「まぁ、そう言う事だ。遅くとも二十日待たずにそうなるぜ?」
堂々と国家が転覆すると宣言するクロイツなのだが、その実力をある程度把握しているメバリアは驚く事はしなかった。
「わかった。クロイツ殿の期待に応えられるかはわからないが、このメバリア、祖国の為に一肌脱がせてもらおう」
「助かるぜ。じゃあ今後の動きを少し説明させてもらうが、闇の奴隷商。その商会長は残念ながらあの国の王族だ。って、俺は含まれねーからな。で、手足を全て潰す事は難しいから、幹部連中だけでも潰すべくナスカ王国に集合させるように手を打っておいた。その会合にアンタも参加してもらう事になる。よろしく頼むぜ?メバリア・ナスカ」
これだけ伝えると、目の前からクロイツは消えて行く。
「フフフ、想像通り全てを知っていたか、クロイツ殿。その期待、このメバリアが応えて見せよう!」
取りあえず最大の難所はクリアできたと安堵したクロイツは、いつもの定位置にいる。
ある程度の事情は狼の魔獣から情報を得ているポチは、尻尾で優しくクロイツを撫でながら疑問に思っている事を告げる。
『ねぇ、クロイツ様。あの時に出した手紙って、何が書いてあるの?』
「ポチは興味津々だな。コイツは、クソ親父、先代国王の贖罪なのか?まぁ、早い話が妾に子供を産ませたと暴露した手紙さ。その存在が王妃にバレる事を恐れてゼリア帝国に送った事までご丁寧に書かれていやがる。手紙の中では申し訳ないみてーな事が書いてあるが、誰にも見つからねーような宝物庫の中に隠すように置いてあったみてーだ。これで謝罪して許された気にでもなってたんじゃねーか?本心は知る由もねーがな」
『それだけで、あのギルドマスターが異母姉だってわかったの?』
「まぁ、あのメバリアの能力と行動もあるが、種明かしをするとな、その子供の名前候補が書いてあったんだよ。男ならヨハネス、女ならメバリアってな。つまり、生まれる前か、生まれて程なく母親と纏めて放逐したんだろ。まったく、クズのやる事は意味が分からねーよ」
『ふ~ん、そうだったんだ。で、ここの人達はどうするの?もう説明したの?』
「っと、その事か。まだ何も言ってねーんだよ。自己満足じゃねーけどよ?この場所で幸せそうに暮らしてもらえているとは思っているが、やっぱりダンジョンの中で一生を過ごす事や、子供達も同じように狭い世界しか知らねーってのは問題があるよな?」
クロイツとしては、この場の住民達にはとりあえず祖国であるナスカ王国に巣食っている闇の奴隷商の元締めと、そこに集まる幹部や紋章をつける事が出来る術者の対処をした後に、リサとリージョと共に事情を話そうかと思っていた。
『そっか。わかったよ、クロイツ様。何かできる事があればいつでも言ってね』
「悪りーな、ポチ」
精神的に疲れたクロイツは、優しい尻尾の感触を楽しみつつ眠りについた。




