今後の地ならし(1)
商会長からの招集の手紙を読んだミューテル。
「何かしら?表の身分でないとナスカ王国に幹部が集合する事は出来ないでしょうけれど、作戦が失敗した状態で態々そこまでして全員を集める必要って……次の商売の事かしら?だとしたら、私の受付としての技能が評価されて!まさか昇進!?あるわね。フフフ、不幸の後には幸福が来るのが世の常よね~」
勝手な妄想で機嫌が良くなり、手紙を燃やすとニコニコ顔で受付に戻ったミューテルを見て、あまりの変わり身に怯えたこの場にいた冒険者はミューテルを避けて列を作るのだった。
手紙に書かれているのはクロイツの指示によって一月後に召集となっているのだが、これはドレア達が移動して再びナスカ王国に戻る時間を少々多めに見ているだけでそれ以外の意味はないのだが、ミューテルの妄想は膨らむばかりだ。
「この一月の間に、次の商売について何か構想を練っているのね。私としても幹部としてしっかりとした案!それも私が必要になる案を考えないと!」
副商会長昇進も夢ではないと思っているミューテルの気分は鰻登りのままだ。
その後“黒套のリージョ”と“白套のリサ”がSSランカー認定されて大々的なお祭りが行われる事があったのだが、それ以外は特に大きな事もなく日は過ぎて行く。
クロイツ達も時折依頼を受けに来るのだが、もうクロイツ達から得られる報酬についてはどうでも良くなっているので、ミリアを睨みつけたり妬んだりする事は一切なくなっているミューテル。
「あっ、私は明日から少々長期休暇を頂きますので、よろしくお願いしますね。ご迷惑をおかけします、ミリアさん」
ギルドにて、商会長指定の日の12日前に受付でにこやかに告げているミューテルを見て、今の所は問題なく事が進んでいると確認したクロイツ。
そもそも問題があれば狼の魔獣からポチを通して連絡が来るはずなのだが、一応自分の目でも状況を簡単に確認したのだ。
「流石にリーナも言われた通りに動いているみてーだな」
「では師匠、私達は当日まで他国からの依頼を受けていれば良いでしょうか?」
クロイツは独り言を呟いたのだが、律儀にリージョが反応してしまう。
「……そうだな。なんだか知らねーが、Sランクの魔獣がうようよしているみてーだからな。適当に依頼を受けておいてくれ」
「じゃあ、私も依頼を受けてきますね、師匠!お兄ちゃんとは別の依頼を受ければ、効率も良いですし……現場に集合で大丈夫ですか?」
詳細はこの三人にしかわからない会話だが、何故か最近増えているSランク魔獣に対して個別に対応した後にナスカ王国に集合すると言っているリサと、その意味をしっかりと把握しているクロイツとリージョ。
「そうだな、そうしてくれ」
Sランカーのクロイツは、最早家となっているダンジョンがあるゼリア帝国ギルドの依頼を担当し、SSランカー“黒套のリージョ”はリベラ王国、同じくSSランカー“白套のリサ”はグアトロ王国の対応を行う事になって解散する。
クロイツとしては、依頼遂行場所は転移の能力があるのでどこでも構わないのだが、少しだけ調べたい事があったのでこのゼリア帝国を担当する事にしていた。
特段何を説明するでもなく二人の弟子が他の地域を担当すると言ってくれたおかげで、余計な説明の手間が省けた事を喜んではいるのだが……
「邪魔するぜ?」
「うぉっ、相変らずだな……まぁ、座ってくれ。今回は弟子の二人のSSランク昇格おめでとう、クロイツ殿」
ここはゼリア帝国の帝都のギルドマスターであるメバリアの部屋……少し前にナスカ王国のギルドに取り残された二人の女性、リトアとエルトネを助け出す依頼を出したギルドマスターの部屋だ。
相変わらず突然現れたクロイツに驚きつつも、しっかりと対応してくれるメバリア。
「あぁ、ありがとう。俺としちゃー、弟子がしっかりと実績を出せて嬉しい限りだ」
「そうか。で、今日は、二人はどうしたのだ?」
「今大陸中でSランクの魔獣共が目撃されて依頼が出ているだろう?その対応に散ってもらっている」
「それは助かる。少し前までは幻と言われていたSランク魔獣が何故これほど頻繁に目撃されるようになったのかは不明だが、Aランカーの“爆炎のハロルド”ですら死亡する相手だから、普通の冒険者では歯が立たない」
しっかりと生死の確認ができていない、現時点では唯一のAランカーである“血飛沫ミーシャ”が死亡したとは口にしないメバリア。
改めて相当な経験と知識を基にしっかりと情報収集して行動していると判断したクロイツは、自分の考えが恐らく正しいと思いここに来た目的を告げる。
「あいつ等ならSランク魔獣なんぞ相手にはならねーから、大陸も間もなく以前の様子が戻ってくるさ。で、ギルドマスター……俺がここに来たのは他でもない。アンタの事が知りたくてな。そう長い付き合いじゃねーが、アンタの能力は元冒険者のギルドマスターにしては頭一つどころか、相当突き抜けている。それと、少し前にナスカ王国の職員二人の救出依頼を出していたが、冷静に考えれば距離のあるナスカ王国の事をギルド本部からの情報があったとしてもあれほど具体的に知り得ているとなると、自分で調査し続けていたとしか考えられねーよ」
メバリアはクロイツの言葉の真意を量るべく、今の所は態度や表情に変化がないまま黙って聞いている。
「でな、俺の祖国、元俺の生家でこいつを見つけたんだよ」
ナスカ王国王城の宝物庫の見つかり辛い場所にあった手紙を取り出すクロイツ。




