SSランカー
「私も師匠のおかげですっかり初見の魔獣ですら苦も無く始末できるようになりましたね。これほどの力を下さる師匠よりもランクが上と言うのは納得いかないですが、師匠がランクに興味が無いと言っている以上は仕方がないのですかね?」
ぶつぶつ言いながらも、Sランク魔獣の群れの中に入り暗殺宜しく只管始末している“黒套のリージョ”だが、狩られている魔獣の方は突然仲間がバタバタ倒れるのだから混乱の極致にいる。
しかし混乱するのも長くても十秒程度であり、その後は他の魔獣と同じように意識が無くなっている。
「今回も全く歯ごたえが無く終わりましたね」
収納袋に只管綺麗な状態のSランク魔獣をしまっており、流れ作業のようになっている。
「少し早いですが依頼は完全に終了ですね。リサとの約束の時間には少し早いですが、リベラ王国のギルドに依頼達成の報告・納品の後にナスカ王国に向かいましょうか」
リージョとリサは闇の奴隷商の商会長であるリーナや幹部達、その影響下にあるドレアを含めて一掃する為にナスカ王国でクロイツと落ち合う予定になっていたのだが、その時の対応について二人だけで少し早めに話をしておこうと決めていた。
当人は縁を切って赤の他人と言い切っているのだが、敬愛する師匠の血の繋がった身内を断罪するのだから、どう行動すべきかを考える必要があったのだ。
同時刻、“白套のリサ”もリージョと同様にさっさとグアトロ王国の依頼を完遂して同じくナスカ王国に向かっていた。
両国家共にSSランカーの成果に沸き立ち、住民達や冒険者も今後再び安定した生活を送れると喜び国家元首も国家上げての感謝祭を提案したのだが、その申し出を二人のSSランカーは迷う事無く断っていたのだが、全ての実績は師匠によるものだと言う言葉だけは忘れずに伝えている。
何故かクロイツが担当しているゼリア帝国では、他の国家と比較してSランク魔獣の目撃情報が非常に少なくなっており、その実力もあってか既に完全に対処済みのクロイツ。
納品は収納魔法にしまっている以上は劣化も無いので気が向いたら納品しようかと思ってはいるのだが、あまり時間をかけると住民達やメバリアもSランク魔獣が未だ存在していると勘違いしてしまい心労をかける事に繋がるが、逆に早いと自らをSSランクにさせるべく推薦すると言われかねないと思い様子を見ている。
クロイツとしては心底ランクには興味が無いので騒がれたくなかった為に、少し前のメバリアとの面談時にもSランク魔獣に対処済みだとは一切言わなかった。
その日の夕刻……早くもナスカ王国に到着しているリージョとリサは、さっさと王国内部に潜り込んで共に夕食を食べている。
周辺の人々と同様に白と黒の外套を羽織るとともにフードを被っているので、本物のSSランカーとは思われておらずに騒がれる事も無い。
「お兄ちゃん、まだ対象の人達は到着していないようですけど、師匠はどう対処すると思いますか?」
「難しいですね。情報によれば、私達が対処した魔獣討伐に向かったこの国の騎士や国王ドレアが間もなく戻ってくるそうですよ。当然ですが、成果はなにも無し。無様ですね。随分とイライラしているでしょうから、会合時には荒れていると思います。……あれ?そう言えば、無能国王は実の妹が闇の奴隷商の商会長であると知らないのですよね?となると、会合には不参加なのでしょうか?どう思いますか?リサ」
「え?確かに厳密に言えば国王はあの商会の関係者ではないですかね?う~ん、でも妹の商会長の影響下にあるはずなので、参加させるのではないでしょうか?」
有り余る力を持ってはいるがクロイツ程頭脳が回る訳ではない二人は、あまり根拠のない想像で話を進める事しかできずにいたが、クロイツの性格を良く知っているので、師匠であればその場で厳しく断罪とする事は無く、ダンジョンのミュラやベータがいる労働階層送りにするだろうと判断した。
「そうなると、その作業は私達二人で実行した方が良さそうですね」
「お兄ちゃん、そうかもしれないですが、正直師匠の転移の方が一瞬で作業が終了するので彼等との接触時間が少なくて済むのも事実ですよ?」
「確かに、私達が移動させては師匠の心に負担がかかる時間が多くなりますね。では、移動は師匠にお任せするとして、その後のフォローをどうするかを考えた方が良さそうです」
「最近師匠は何かを欲しがる事もないし、どこにも行きたがらないのですよ。時折寂しそうにしているし、あの崖から住民達を見ている視線も時折潤んでいるの……気が付いていますよね?」
リサの言葉に黙って頷くリージョ。
クロイツの異能によって育成された力がある為に、細かい変化も直接見なくとも感じる事が出来るようになってしまっていた。
「わかりました。その後のフォローは責任をもって私がして見せますよ、兄弟子!」
自分よりも師匠との付き合いが長いリサが少々落ち込む姿を見て、妹と師匠二人を励ますには自分が一肌脱ぐ他ないと覚悟を決めるリージョだが、行える事と言えば限られている。
そもそもリサやリージョが知っている師匠の欲しい物……は綺麗な女性と仲良くしたいと言う願望・欲望だけであり、リージョとしてはこの部分を叶える他ないと思っているのだが、今気落ちしているリサはそこまでは気が付かなかった。
この意識の差が後にダンジョンを完全破壊するのではないかと思われる程の大騒動に発展するのだが、リージョは敬愛する師匠の為にと言う一心である程度そう言った店の情報を集めようと考え始める。
『フム、私が知る限りでは、そう言った店が最も多く出店しているのはグアトロ王国であったはず。そこに師匠をリサにバレずに連れて行くには……どう言いくるめるのが良いのでしょうか?』
リージョはリサに対してこの件は明かせない事だけはしっかりと理解できているので、一人必死で策を練っていた。




