リージョ昇格(2)
少し前から良く目撃されるようになっているSランク魔獣の素材……対応した受付には相当な特別報酬が与えられる事は間違いない。
どう見ても別格の強さを持っているクロイツ一行であれば、その素材の状態は極上である事は誰しもが疑っていなかった。
その期待を裏切らず、リージョが収納袋から取り出したポイズナックはまるで生きているかのような姿を曝け出しており、何が致命傷になったのかは受付でさえもよくわからない。
「その、リージョ様……このような事を聞いて良いのかはわかりませんが、素材として使用できなくなっている箇所を把握したいので、ポイズナックがダメージを受けた場所を教えて頂けますでしょうか?」
通常納品される魔獣は攻撃の痕が色濃く残っているので、解体する際にその部分周辺を大きく取り除いた残りを素材にするのだが、今回のポイズナックはあまりにも綺麗である為に破壊されている部位がわからなかったのだ。
Sランク魔獣をあっという間に始末して戻ってきたリージョの話を聞いた冒険者達、そして何故か受付の職員も全てが裏手の素材納品場所に移動しており、対応しているミリアの言葉に大きく頷いている。
「ここですよ」
その問いかけに対して、リージョはポイズナックの眉間を指し示す。
解体師が指定された箇所にある多少の体毛をかき分けると、小指よりも小さい穴が開いていた。
「正面から一撃……か」
思わず漏れた解体師の一声が示す通り、無防備になっているポイズナックの正面から脳天に暗記を突き刺して一撃で仕留めたのだ。
「すげーな……流石は“黒套のリージョ”。これなら素材は使いたい放題だ。魔核も極上!ミリア、この素材は調べるまでもなく特級だ」
解体師の言葉に一気に沸き立つこの場の人々。
「すげーぞ、Sランク魔獣が特級で納品される……くっそ~、俺ももっと頑張らねーとな」
周囲の冒険者は相当興奮しているが、ミューテルは今回の特級判定されたSランク素材の報酬がどれほどになるか……しか頭になかった。
決して自分の懐には入らないのだが。
「では、今回の依頼達成を持ちましてギルド総本部にSランク申請をしますので、遅くとも明日にはSランカーです。リージョ様、おめでとうございます!」
……パチパチパチ……
周囲の冒険者は妬むような事はなく、祝福の拍手を送っている。
これだけ隔絶した実績を見せられては、妬む要素が一つもないのだ。
「よっしゃ、じゃあ今日は前祝だ。今日は俺達の驕りで飲み明かすぞ!」
「「「「「うぉ~!!」」」」」
クロイツの一言で、今日一番の盛り上がりを見せる納品所。
その後はギルド併設の食堂兼酒場に移動して、夜通し飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎに発展した。
「お兄ちゃんは流石です。もちろん師匠もですよ!」
「ありがとうリサ。でも、リサの言う通り師匠の力のおかげですね」
「んぁ?いや、まぁその部分があるのは否定しねーが、結局努力はしていただろ?そこまで否定する必要はねーぞ?」
三人は一つの席に固まって座っており、時折周囲の冒険者や受付が祝杯をあげに来る。
「ですが師匠、周囲の人達とこれほど楽しく過ごせるなんて夢にも思っていませんでしたよ」
「あ、私もです!お兄ちゃん。でも、一人で修行をしている時、色々な人に出会って楽しく過ごす事が出来ました。本当に良い経験です」
リージョとリサの言葉に微笑を返すクロイツだが、その視線は二人の少し背後にいるミリアに向けられている。
少々ほろ酔い気分の為、“彼女欲しい病”が発症してしまったのだ。
いくら酔っているとは言え、その程度はすぐに看破できるリージョとリサ。
リージョは少し苦笑いをしつつも他の冒険者に挨拶をする体で席を立ち、リサも席を立ってクロイツの視界に入るように移動する。
当然リサと視線が合うクロイツは、ミリアを視線で追っていた事がバレたと把握してご機嫌取りに移行する。
「リ、リサ?こ、これなんかどうだ?美味いぞ。俺的にはきっとリサが気に入ると思うんだよな~」
「し・しょ・う?」
クロイツにとっては多少恐怖を感じる時間ではあるが、こうして楽しい時間は過ぎて行く。




