ミューテル(3)
クロイツの真の狙いは、リージョの叔母であるミューテルが今目の前にいるミューテルと同一人物なのかを確認する事だったのだ。
そのような意図があるとはわからないミューテルは、機嫌よくペラペラとまるで自慢話のようにグアトロ王国の事を話し始めた。
既にクロイツを始めとした三人の受付の立場は勝ち取ったとばかりに、ミューテルは横にいるミリアにも聞こえるように故郷であるグアトロ王国の話を続ける。
「……それと、ご存じかと思いますが、私の故郷であるグアトロ王国はポーションの名産地です」
「へ~、故郷か。詳しいはずだな。グアトロ王国に住んでいたのか?」
「はい。あまり長くはおりませんでしたが……実は、グアトロ王国には商人であった兄夫婦も住んでいたのですが、何者かに襲撃されてしまい攫われてしまいました。そのような悲劇が起こった場所に居続けるのは少々辛かったのです」
敢えて同情を誘うような言い回しをしているミューテルだが、クロイツの表情には一切の変化はない。
ミューテルは目ざとくクロイツの表情の変化がない事を確認し、この程度の話ではクロイツ達の同情を勝ち取れていないと判断して、もう少し別の話をしなければならないと思い、何かないかを必死で考える。
「……そ、それで、そうです!実は兄夫婦には子供がおりまして、男の子ですが行方不明になってしまいました。それにお義姉さんのお腹には赤ちゃんがいたのです。ですが兄夫婦は攫われてしまったので、甥もそうですが未だ行方はつかめておりません。私がギルドの職員になったのも、兄夫婦や甥の手がかりを少しでも手に入れられればと思ったのです」
漸く思い出したこの件だが、甥のリージョと言う名前は興味がなかったので思い出せなかったミューテル。
ここまで言えば少しは同情するだろうと思っていたが、横で聞いていたミリアは涙ぐんでいるが、クロイツには未だ変化がない。
その後ろにいるリサとリージョはフードを被っているので表情は読み取れないが、何となく同情だけはしていなさそうだとは感じていた。
ここまで言ってもダメなのは、クロイツ達程の有り得ない高ランカーにもなればこれ以上の経験をしているからだろうか……と勝手に判断して、この話は続けても益はないと思い終わりにする。
少しの沈黙が流れた後にクロイツが口にした言葉は、ミューテルが全く予想していなかった言葉だった。
「良くわかったよ。ありがとさん。じゃあ今日の依頼の受付を頼むぜ、ミリア」
突然こう言われたミリアもミューテルの同情を引く話を信じ込んでいるため、まさか自分に話が来るとは思っておらずに反応が遅れる。
クロイツ達からしてみれば、ミューテルの話の出来事の原因は全てミューテル自身にあり、行方不明者を探そうとしているなどと言う話は完全な嘘だと分かっている。
目の前のミューテルがリージョの叔母のミューテルで間違いないと確信したクロイツ達は、ミューテルに対して嫌悪感しかなかった。
唯一クロイツが感心していた所は、今までの話を総合するとミューテルはある程度年齢を重ねているはずなのだが、そうは見えずに外観だけは綺麗だ……と言った所だろうか。
「え?クロイツ様、私……ですか?」
「あぁ、そうだ。いつもの通りに頼んだぞ」
念を押してきたミリアに肯定の意を示すクロイツ。
冒険者側から指定された受付に対して文句を言えない事は誰もが知っているので、ミューテルはポカンとしたまま動かず、ミリアは申し訳なさそうな表情をしながらも一般の冒険者では到底達成できない魔獣対策依頼をクロイツ達に提示する。
最近の流れとしては、クロイツ達が依頼を選定するのではなく受付がクロイツ達に見合った依頼を提示する事になっていた。
出された依頼は、Sランク魔獣の素材入手。
「実はですね、今ちょうど話が出たグアトロ王国のギルドからの依頼なのですが、エクスポーションを作成するための素材が不足しているようなのです。そうなると、薄めて作成できるハイポーションやポーションの在庫も品薄になっておりまして、困っているとの事です」
「あれ?今迄は普通に生産していただろ?なんで突然?」
「それが、少し前のポイズナックの一件でハイポーションを購入する人々が一気に増えてしまったのです。通常であればグアトロ王国内部で素材が賄えていたのですが、今回の需要急増には耐えられないようで、一般市民が欲するポーションすら品薄になっているようです」
「そうか。でも素材にSランクの魔獣とは聞いた事がない様な……」
「通常であれば不要なのですが、この需要急増に対応するにはその素材があれば間違いなく解消できるそうなのです。今迄はSランク魔獣の素材自体を殆ど目にする事もなく当然対応できる冒険者もいない事からこのような話は出てきませんでしたが、何故か最近では魔獣も時折目撃されるようになっており……そのせいでハイポーションが品薄と言う事もありますが、皆様であれば対応できるとの期待の表れでもあります」
「そ、そうか。信頼はありがたいが、Sランク魔獣が見られるようになったって言うのは、どういう事だ?」
「申し訳ありませんが、原因はわかりません」
当人は知らないが、この原因はクロイツがダンジョンを攻略した事による。
何者かに、とあるダンジョンが攻略されてほぼ支配下になっていると言う情報が大陸全土のダンジョンに自動的に流れ、詳細情報収集の為に各ダンジョンの支配者が高ランクの魔獣を外に出している事が真の原因だが、実際に管理を任されているポチですら、ダンジョンが攻略された際にそのような情報が自動で配布されるとは知らなかった。




