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北斗七星のかくしごと  作者: 片山絢森


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第11話 上条くんのお兄さん

「え?」


 今度は綾乃が首をかしげる番だった。


「北斗さんです。上条くんの、お兄さんの」

 よく考えたら、目の前の彼にとっても兄弟なのだから変な話だ。だが、お兄さんはふたたび首をかしげた。


「うちは二人兄弟ですよ。どなたかと、お間違えでは?」

「え、そんなはずは――」

 ない、と言いかけたが、彼の表情を見て口をつぐむ。


 そんなはずはない――と思う。


 綾乃は確かに北斗さんに会ったし、彼は「上条隼人の兄です」と告げた。同姓同名? いや、そんなはずもない。北斗さんの顔は上条くんによく似ていた。

 それに、赤の他人なら、北斗さんが綾乃にあんな頼みごとをするはずがない。


「で……伝説級にモテていて、伝説の後でもモテていたってお話を聞いたんですが……」

「ああ、それは」

 お兄さんが破顔した。


「お恥ずかしい。子供のころの話ですよ。よくあるお遊びの延長です。本当にモテていたのは僕じゃなく、隼人の方じゃないかな」

「え、でも、確かに」

「小さいころは、年上のお兄さんに憧れるでしょう? そういうものだと思いますよ」


 穏やかに笑う彼は、嘘を言っている様子はない。当然だ。そんな嘘をつく意味がないし、すぐにばれる。

「そういえば、同級生にすごく人気のある男子がいましたが。顔も頭もよくて、スポーツ万能でしたよ。バレンタインには山ほどチョコレートをもらってました」

 僕は全然、と苦笑する。


 照れたように笑う顔は、やっぱり上条くんの面影がある。

 そんな事を言ってはいるが、彼も人気者だったのだろう。抜群の容姿を持ち、穏やかで、頭がよくて、多分上条くんと同じように女子にやさしい。そして、運動も得意なのだろう。彼が女子に人気があったのも頷ける。

 けれど、心当たりがないのなら、あの北斗さんは一体――。


「……その、モテていたって人の写真はありますか?」

「ありますよ。しばらく前に同窓会があったので、その時に撮りました。ご覧になりますか?」

「お願いします」


 どうぞ、と見せてくれたのは、整った顔立ちをした青年の姿だった。

 確かに美形だが、上条くんとは似ても似つかない。明らかに別人だ。

 二人そろって、なぜか暴走族の特攻服のようなものを羽織っている。お兄さんを見ると、「よく覚えていませんが、文化祭の小道具だったかもしれませんね」と微笑まれた。


「……じゃあ、親戚に、上条くんによく似た人はいませんか? 上条くんより年上で、でも顔はそっくりで、おうちのことをよく知っている人」

「親戚とは仲が良かったけど、どうだろうな。写真だけならありますが。以前、親戚一同で集まった時のものです」

「よかったら見せてもらえませんか?」


 綾乃のお願いに、彼は快く承諾をくれた。あまりにも必死な様子に、何か思うところがあったのかもしれない。

 どうぞ、と携帯電話を渡される。

 礼を言い、綾乃は食い入るように画面を見た。


「好きにいじってもらって構いませんよ。名前が知りたかったら聞いてください。必要なら、連絡も取りますよ」

「ありがとうございます」


 頭を下げてから、ずいぶん親切だと思う。

 目を瞬くと、彼は苦笑した。


「何か必要があるんでしょう。そしてそれは多分、隼人に関わりのあることだ。だとすれば、あなたに協力しない理由がありません」

「ありがとう……ございます……」

 今度のお礼は一度目とは違う理由だった。


「一応自己紹介しておきます。僕の名前は上条(はる)()です。北斗、と聞き間違えたわけではありませんね?」

「違います」

「父親も母親も、近い親戚にもそんな名前の人はいません。なので、お役に立てるかは分かりませんが……。僕にできることなら言ってください。力になります」


 はい、と綾乃は頷いた。

 十二年前、綾乃の前に現れた北斗さん。

 年齢はちょうど今の綾乃と同じくらい。いや、もう少し若いかもしれない。

 あれから十二年経っているので、今は三十歳くらいだろうか。だとすれば、目の前の陽人さんと同じくらいだ。


 一度だけ会った日の記憶を頼りに、一枚ずつ画像を確かめていく。

 景色が多く、遠目に親戚の人が写り込んでいるものが多い。その中でもたまに人物メインで写っているものがあり、それをじっくりと確かめた。


 いつごろ撮られたものなのか、画像は比較的新しい。

 もしかして、あれは夢だったのだろうか。

 それとも聞き間違いで、北斗さんは赤の他人だったのか。

 もしくは誰かがいたずらで、あんな真似をしたのだろうか。


 どれだけ探しても、それらしい人物は現れない。

 もう駄目かと思った時、一枚の画像が飛び込んできた。


 ――あ。


 似ている、と思った。


「これ……」



 ――そこにいたのは北斗さんだった。



 二人の男性に囲まれて、明るい笑顔を浮かべている。

 くしゃっとした笑顔に、あの日の出来事がよみがえった。


(この人だ)


 見間違えるはずがない。忘れてしまうはずもない。

 あの日の、出会ったままの北斗さんがそこにいた。

 動かなくなった綾乃に、陽人さんが呼びかける。


「……村本さん? どうしたんですか?」

「この……人。この人、誰ですか?」


 意気込んで問いかけると、彼は目を瞬いた。

 渡された携帯を受け取り、すぐに画像を確認する。

 じっくり見るまでもなく、彼は笑った。



「なんだ、これは隼人ですよ」


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