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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
第一章 94盗難事件
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指紋採取

「探偵部?」

 怪訝な気持ちを眉に出しながら聞く。


「そうです。この学園で起きた事件の解決は探偵部の仕事です。本当なら部長に依頼してから動くのですが、このままスポーツブラで居続けるのは祥子の胸にもよろしくないので、探偵部の一員の、私の独断で動かさせて貰うです」

 そう言うとズバッと指をさした。

「さあ、覚悟するです。探偵部が動くいじょう、全ての悪事は白日のもとに晒されるです」


「いや、かっこよく決めたところ悪いんだけど、まず、俺は犯人じゃないし、学生の悪のりで作ったような部活が何をするって言うんだよ」


「悪のりなんかじゃないです。十二年前に学園に渦巻く謎を解明するために作られた由緒正しき部です。何をするかどうかはその目で確かめるといいです」

 日向は自分の机に向かうとレザーのリュックを二つ持ってきた。デザインは似ているが光沢の違いから、片方は本革で片方はフェイクレザーのようだった。


 フェイクレザーを開けると、鑑識が使うような白い手袋を取りだし、化粧ポーチを出す。


「さあ、始めるですよ。こっちのピカピカのバックが祥子のです」

 高そうな本革のバックを指差す。

「祥子はブラをこのリュックに入れた。間違いはないですか?」


 ちびっこ鑑識官の質問にハイと金井は答えた。


「最近誰かにこのリュックを貸したり、ファスナーを開けてもらったりはしてないですか?」


「買って一月ですが、私以外誰も開けてはいないですね」


「着替えをする際、リュックのファスナーは開いてたですか? 閉まってたですか?」


 聞かれ金井は少し考える。

「閉まっていましたね」


「つまりです、このリュックが閉まってたと言う事は祥子が閉じたもしくは祥子以外の誰かが、開けたあとに閉めたと言うことになります」


 誰かと言いながらも視線はしっかりと俺に送られていた。


「誰かが閉めたのなら、リュックのファスナーに指紋がついているはずです」

 今度は視線をリュックに向ける。


「指紋って、警察にでも連絡するのか?」


 聞くと、日向はイイエと答えた。


「指紋を採取と言うと、鑑識を呼んだり警察に連絡しないとと思う人も多いと思うですが、実は以外と簡単にできるです。女の子ならだいたい持っているこれを使えば簡単です」

 横にどけられた机の上に本革のリュックを置くと、化粧ポーチをいじり中から小さな四角い箱と筆を取り出した。

「使うのはファンデーションとメイクブラシです」


 四角い箱を開けるとファンデーションを取り出した。


「まずファンデーションをこんな風につけるです。本当はアルミパウダーを使うのが一番ですけど、今は手元にないので、ファンデーションで代用するです」

 優しくメイクするようにファスナーの引き手に当てると、ブラシで叩き出した。余分なファンデーションの粉を落としているようだ。すると指紋がうっすらと白く浮かび上がった。


「おー」

 と、歓声が上がった。俺も思わず声をあげる。


「引き手の両面にしっかりと着けたら、次はセロハンテープと黒画用紙を用意するです。私の場合は黒のノートですが」

 出されたノートにはインデックスが貼ってあり、クラス事に中が分けられているようだ。


 止め金にセロハンテープを貼ると、優しく剥がし、画用紙に貼った。


「引き手が小さいので指紋全部が写っているわけではありませんが、それでもある程度は誰のものか判断は出来そうです」


 画用紙に貼った指紋を俺が覗き込んでいると、携帯を出すように言われた。渡すと、日向は裏面を綺麗に拭き、親指を当てるように言ってきた。言われた通り親指を当て指紋を残すと、引き手と同じようにファンデーションを着けた。


 画用紙に俺の指紋の写ったセロハンテープを張り付けると、日向はどこから出したのか手に持った大きな虫眼鏡で覗いた。俺も目を細め覗く。


「どうだ?」

 俺の指紋とファスナーに残った指紋の違いがわからない俺は聞き返した。まあ、俺がこのリュックに触れてない以上同じはずはないんだけどな。


「見比べた限りで言えば……違う人の指紋ですね」


 日向の言葉に教室がざわついた。


 みんな犯人は俺だと思っていたようで、指紋がないことに心底驚いている様子だ。犯人だとほんとに思われていたんだ……ショックだな。


 俺の背に暗い影が落ちているなか、日向はノートをめくり、収集済みの指紋とファスナーの指紋を見比べた。

「ふむ。どうやら残された指紋は水澤君でも月城君でもなく、祥子のもののようですね」


「つまり、誰にも盗まれていないと言う事か?」


「そうじゃないです。犯人はよほど警戒心の強い者だと言うことです」


 その言葉に俺が小首をかしげていると、日向は時に水澤君と俺に聞いてきた。


「ハンカチは持ってるですか?」


 何かに使うんだろうかと思い俺はラッキーカラーの青のハンカチを取り出す。

「あるけど」


 すると日向は目をキラリと光らせた。


「フフフ。ついにぼろを出したようですね」


「はい?」


「ファスナーに祥子の指紋しかなかったと言う事は、犯人は指紋を残さないように手袋か何かを使い開けた事になります。しかし今の時期に手袋を持ち歩いているのはおかしい。もし見つかれば犯人扱いされる。そう考えた水澤君は見付かっても目立たないものを用意し代用した」

 俺の手からハンカチを取り、俺の目の前に垂らす。

「つまり、水澤君はこのハンカチを使い、ファスナーを開けた。目立たないようにハンカチを使ったのは普通ならいい選択と言えるのでしょうが、今回はその選択が水澤君を犯人だと教えてしまったですね」


 物的証拠を突きつけた探偵のように自信のこもった瞳を向けてくる。


「どういう事だよ」


「簡単なことです。水澤君がハンカチを持っている事こそが犯人だと言う証拠……」

 そこで日向はまたズバッと指をさしてくる。クラスメイト達がごくりと唾を飲み、次の言葉を待った。その緊張が俺にも伝わり、犯人でもないのに心臓がどくんと跳ねた。

「だって見た目がさつそうなのにハンカチ持っているのは可笑しいです。水澤君は、俺のハンカチはこのズボンだと言って太ももで手を拭く人のはずです」


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