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1.

 ピンポーン


 チャイムのような音が部屋に鳴り響く。

「あーーー、またお客さんか〜〜面倒臭(めんどくせ)ぇ……」

 俺以外誰も居ないのについつい独り言が出てくるのは、今の不本意な現状に嫌気がさしているからだろう。

 今の魔王様に気に入られ、この魔王城の入り口に部屋をあてがわれたのはもう三百年程前になるか。

 最初の頃は魔王様を守ろうとする気概が幾らかはあったので、やたらとちょっかいかけてくる騎士団やら冒険者やらを十回に一回は撃退していた。

 他の四天王達にも獲物を回さなければいけないので、残りはスルーしていたんだよ。

 それが五年程続いた頃、俺を相手にする者が徐々に減っていった。

 連中の目の前にいるのにも関わらず、まるで居ないかのように相手にされなくなったんだ。

 だから今目の前を通っていく騎士団百余名は、俺に気付く事もなく魔王城へと入って行く。


「俺っていらなくね?」


 というわけで、今まで敵を倒して手に入れた武器防具や道具類をまとめた。

 元々ある程度は拡張道具袋に入れてたんだけどな。

 容量は百メートル四方に高さ二メートルあるから、相当なものだ。小銭入れ程の大きさしかないってのにな。

 それでも武器用が二袋、防具用が三袋、道具用が二袋、食料が五袋ある。三百余年は伊達じゃない。

 それらをベルトとマント裏にぶら下げ、これから使う武器防具を出しておいた。

 前々から城を出る旨を書き記した手紙をテーブルに置く。

 そんで、見た目を魔人の姿に変えるカツラとネックレスを身から外し、人間の服に着替えて装備を身につけた。

 装備は皮の胸当てと長剣・短剣だ。

 城の出入り口に設置してあるセンサー付き監視カメラに向かって一礼し、城門を目指す。


 魔王様に城に連れて来られて三百年余り。

 久しぶりに城外へと出てみると、そこはどこの観光地かという様相。

 武器屋、防具屋、魔道具屋、宿屋、食堂、土産物屋等々、どう見ても魔王城前の光景ではない。

 それが正面の道に延々と続いているのだ。

「え? どゆこと?」

 首を傾げながら道を行く。

 途中で焼き芋を購入、食べながら街の外へと向かった。

 道を行く女性達がやたらとこちらを見てくるが、それらを全てスルーしていると、いつもの脳内アナウンスが聞こえてきた。


【スルースキルがレベルアップしました】


 城の外では上がるのが早いのだろうか?

 ステータスなんてどうやって確認するか知らないので、自分がどの程度の力があるのか分からないんだよな。

 まぁそれはともかく、今日のところは宿でも取って、情報収集でもしようか。

 っつーか、今日でこの街出られねぇくらい、広いんだよな。

 俺が魔王様に連れて来られた頃はただの平原だったんだけど、いつの間にこんな街ができたんだか……


 ともかく、目に付いた貴族の館のような煌びやかな宿の門に入ると、エントランス前で止められた。

「いらっしゃいませ。どなたかのご紹介でしょうか?」

 胡散臭い者を見るような目つきだ。

 うん。この宿は合わないな。

「いや。初めて来た街で目に付いたので……」

「申し訳ございません。当宿は貴族様専用となっております。お引き取りください」

「……解りました」

 やっぱり庶民向けじゃなかったか。

 別の宿は……そういえば冒険者登録は、した方がいいのか?

 そうすれば宿の紹介なんかもあるだろうし。

 近くに露店があったので、串焼きを五本買いながら場所を聞いてみた。

「ああ、冒険者ギルドならあそこだ。あの青くてでかい建物さ」

 指さされた場所は、二十件ほど先にある建物だった。

 行ってみると、普通の店の五軒分はありそうな幅に、三階建てという規模。奥行きも広そうだ。

 定番な台詞を言いそうになるもそれをこらえ、戸の無い入り口をくぐる。



 乱闘中ですが



 熊のような体格の男がこっちに向かって宙を飛んできたので、片手で受け止めて、ついでに暴れ出さないように麻痺を与えて脇に転がしておく。

 今度はローブをまとった男、次は装飾に凝ったフルプレートに大剣を背負った男。

 他にも十名近くが俺に向かって飛んできたので、その都度受け止めて同様に転がしておいた。

 騒ぎの中心を避け、端っこの受付に向かう。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」

「冒険者登録をしたいんだけど、この窓口でいいですか?」

 窓口は十ほど並んでいるのだよ。ほとんどの受付が乱闘騒ぎを見ていて、仕事になっていないんだがな。

 おねぇさんは、この騒ぎの中で普通に対応できる神経をお持ちの金髪美人さんだ。

「はい、冒険者登録ですね。この窓口でできます。発行手数料に金貨五枚をいただきますが、よろしいでしょうか?」

「はいどうぞ」

 これまで貯めていた金貨を出す。数千万枚あるから、なんでもない。

「ではこちらの登録用紙に、お名前、年齢、性別、職業またはスキルをお書き下さい。ただし、職業とスキルは任意で構いません」

「職業? スキル?」

「え? ご存じないのですか?」

「はい」

「ステータスに載っておりますが?」

「ステータス?」

 心底驚いたという表情のおねぇさん。

 それでもすぐに立て直すあたり、対応はさすがだ。

「掌を上に向け、『ステータス』と口にしても念じても、そこに半透明の(ボード)が出てきて表示されるんです」

「なるほど」

 俺は左手を出して確認する。

 おねぇさんの言う通りに念じてみると、半透明のボードが浮かび上がった。


名 前 : ジョセフィーヌ(仮) 【藤嶋(ふじしま) 真和(まさかず)

年 齢 : 359

種 属 : 異世界人(日本人)

職 業 : 自宅警備員(ニート)(魔法使い・賢者・聖者・童帝・主夫)

L V : 863

H P : 10183

M P : 10203040

STR : 30502

DEF : 507028

INT : 205030

MDF : 330745

AGI : 9453290

DEX : 867320

LUK : 85

スキル : スルー Lv9621(2/680946)

      千里眼 Lv68(65049/73201)

魔術

付与魔術: 麻 痺 Lv73(389/281769)

攻撃魔術: 火魔術 Lv42(9620/33289)

      水魔術 Lv38(328/18741)

      土魔術 Lv57(21907/74290)

      風魔術 Lv85(98302/832093)

      闇魔術 Lv127(428898/10982647)

      聖魔術 Lv42(763/37829)

結界魔術: 聖結界 Lv27(2238/7230)

      闇結界 Lv79(55278/639201)


 なんじゃこれ……特に名前と職業とスキル!

 名前は魔王様に連れて来られた時に、面倒臭いからという理由でこんなんつけられたんだよ。

 ああもう! 取り消しだ取り消し!

 (仮)なんて付いてる名前なんざ確定してないんだから、とっとと消えてしまえ!


名 前 : ジョセフィーヌ 【藤嶋(ふじしま) 真和(まさかず)

年 齢 : 359

種 属 : 異世界人(日本人)

職 業 : 自宅警備員(ニート)(魔法使い・賢者・聖者・童帝・主夫)


 って、(仮)だけ消えるんじゃねぇよ! ジョセフィーヌも一緒に消えろよ!!


名 前 : 藤嶋(ふじしま) 真和(まさかず)

年 齢 : 359

種 属 : 異世界人(日本人)

職 業 : 自宅警備員(ニート)(魔法使い・賢者・聖者・童帝・主夫)


 ああ、やっと消えた。一安心。

 とりあえず、ステータスに書かれている自宅警備員と千里眼だけ記入する。

「………………」

「どうしましたか?」

「あ、いえ……珍しい職業ですね。初めて見ました」

「かもしれませんね」

 あとは出された水晶に手を置き、魔力を登録すればカードが発行される仕組みだ。

 カードができる間に、ギルドについての説明を受ける。

 ギルドランクは色と数字で表され、下から白・赤・橙・黄・緑・青・藍・紫・黒・銀・金の色によるランク分けがある。

 そしてさらに、それぞれの色に1から10までのレベルが設定されている。

 依頼を受注し、その達成度や未達成度によってレベルやランクが上がったり下がったりするわけだ。

 他にもいろいろ禁則事項があったが、どれも常識的な事ばかりだった。

 まあ、そんな事も守れないような連中も多いって事か。

「どうぞ、こちらがギルドカードです。

 再発行時には金貨二十枚をいただきますので、無くさないようにお気をつけ下さい」

「はい」

 登録が終わったので、依頼が貼り出されている依頼掲示板に向かう。

 先の喧嘩で俺に麻痺させられた連中が転がっているが、気にしない。

 どうせ一時間もしないうちに麻痺は解ける。

 解除はできるが、またうるさくなったら迷惑だしな。

 騒ぎの中心では未だに言い争いをしているしー。

 どうやら貴族のぼんぼんが、女性ばかりのパーティーに絡んでいるようだ。

 依頼掲示板には色別に貼り出されているので、自分の色のものを探していく。

 締め切り間近のものが数件有るが、俺にとっては簡単に済みそうなものを選ぶ。

「これを受注します」

 先ほどの受付のおねぇさんに、依頼の紙とギルドカードを出す。

「これ……よろしいんですか? やっかいな上に報酬は安いですよ?」

「構いません。ギルドに登録したての俺には実績が要りますからね」

「わかりました。受注手続きをします」

 こうして、初依頼を受けた。


 Gの駆除依頼を。


 少々くたびれた感じの食堂に着く。

「こんにちは。ギルドの依頼を受けてきました」

 店にいる少々ふとましい女性が応対に来た。

「ああ、やっと来たね。アレは簡単に根絶できないから、なかなか受ける人がいないんだよ」

「まあ、確かに根絶は無理でしょうね。俺ならある程度は対処できますよ」

「本当かい?」

 疑わしそうな目だな。それも仕方が無い。何せ相手はGだからな。

「早速始めていいですか? 短時間で終わらせますから」

「大丈夫なのかい?」

「実績はありますよ。巨大な建物でも対応できましたから」

「それじゃあ任せたよ」

 任されたので、早速始める。

 まずは下準備。建物の周囲に、聖属性の結界を張り巡らせる。Gの出入りを止めるためだ。

 次に、建物の床下、一階と二階の天井裏、屋根裏に闇属性の魔力球をそれぞれ三十個ずつ配置する。

 これで、Gは魔力球に集まっていき、触れたとたんに吸収されていくのだ。

 魔法を使ったGホイホイだな。

 俺はこれで、魔王城に巣くうGやネズミを退治していったんだ。

 別の四天王の一人に眷属を滅ぼされたって怒られたけどな。

「不潔だと病気になりますから」

 って言ったら、

「魔力が大きいからそんなのには罹らない!」

 って怒鳴られた。その直後、そいつは食あたりしたけどな(笑)

 ともかく三十分程度、結界と魔力球を維持した。

 Gとネズミの気配が無くなったので、魔力球だけ解除する。

 結界の方は、害虫や害獣は通れないが人間は通れるので、そのまま放って置く。

 後になってまた出たなんて言われてクレームつけられるのは嫌だからな。

「駆除、終わりましたよ」

「何だって?! こんなに早くかい?!」

「ええ。害虫は闇の魔力に引き寄せられるんですよ。だからそれを配置して、退治しました。

 死骸は闇の魔力に吸収されたので、残ってませんけどね」

「そうなのかい?」

 そう言っておかみさんはあちこちの棚を見、倉庫を見て回った。

「普通ならうろついている足音くらい聞こえるんだけど、全然無くなってたよ。

 あんた、たいしたもんだねぇ」

「では、依頼完了って事で」

「こんなに綺麗にされちゃあ、文句なしだよ! ありがとうね!」

 ギルドに貰った依頼票に、サインを貰う。

「それじゃあ、失礼します」

「また何かあったら、依頼出すからね!」

「はい!」

 俺はギルドに戻り、依頼の手続きをした窓口に行こうとしたが、そこは他の冒険者がごっそり列を作っていた。

 美人さんだからなぁ、人気があるんだろうな。

 一番すいている窓口に並ぶ。

 三人目だったので、あっさりと手続きは終わり、依頼料とポイントを貰った。 

 安くて居心地のいい宿を紹介して貰い、ギルドを後にした。

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