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目が覚めたら魔王でした。戦いたくないので世界平和を目指します。  作者: ハルヒ


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ep7 ガレオンの休日の過ごし方

翌朝、リリアが眉間に皺を寄せながら告げた。


「ガレオン。あなたも休暇を取りなさい。交渉窓口開設のたたき台ができるまでは、特にやることもないでしょう」


「え、僕、暇なんですか?」


「暇です。休みなさい」


そうしてガレオンは、何年かぶりの休日を与えられた。

しかし当の本人は、その使い方が皆目分からなかった。


気づけば、ザークの執務室の扉の前に立っていた。


「……ガレオン、何をしている」


「いや、その、休みなんですけど、何していいか分からなくて。ザーク様は今日何を?」


「城下町の下見でも行こうかとおも

「着替えてくるー!」


「え、いや、別に今のままで……」


声が届く前に、ガレオンは廊下の向こうへ駆けていってしまった。


十分ほどして戻ってきたガレオンを見て、ザークは思わず言葉を失った。いつもの武骨な防衛部隊の装備ではなく、柔らかい生地のワンピースに、軽く羽織りを合わせただけの、休日らしい格好だった。


(……あれ、可愛いやんけ)


場違いな感想が、思考の隙間からするりと出てきた。


――《心の動揺と高鳴りを確認しました。新しいスキル「高鳴り」を習得しました》


フォン、と間の抜けた効果音が、頭の中だけで響いた。


(どこで使うねん)


ザークが内心でツッコむのと同時に、ガレオンが不思議そうに顔を覗き込んできた。


「あれ、ザーク様、顔が赤いですか?」


――どきっ。


「……よけ赤くなるわ」


誰に対する言い訳なのかも分からないまま、ザークはそう小さく呟いて視線を逸らした。


断る理由も見つからないまま、結局二人で城下町へ向かうことになった。


――《この状況、外部から見ると魔王と防衛部隊長のお忍びデートにしか見えないと分析します》


「うるさいっ」


「あ、今何か仰いましたか?」


「いや、何でもない」


城下町は今日も賑わっていた。屋台を覗くガレオンは、休日らしいはしゃぎ方で、ザークの分まで串焼きを二本買ってきては半ば強引に手渡してくる。

土産物屋の前では、木彫りのスライムの置物を手に取り

「これ、僕に似てません?」

と真顔で聞いてくる始末だった。



そのうち、当たり前のようにガレオンがザークの腕に自分の腕を絡めてきた。


「な……」


「歩きにくいので。こうするー。」

(余計に歩きにくいのだが…。)


理屈になっているようでなっていない。ザークは反論しようと口を開きかけたが、ガレオンの体温と、腕に押し当てられた柔らかい感触に、思考が一瞬止まった。


――胸が。胸が当たっている。


ザークは視線を泳がせ、それから小さく息を吐いた。

――《フォン!スキル アオハルを習得しました。》

(どんなスキルやねん。)

(……でもこのままにしておこう)


論理的な判断ではなかった。

ただ、振りほどく理由も見当たらなかった、というだけの話だった。とゆう事にしてください。

――《フォン スキル Dirty mindを習得しました。》


(なんですかそれ?)


――《すけべ心です。》

ズコーーッ

(俺が悪かったです。ごめんなさい。)


そうして二人が屋台通りを歩いていると、道の向こうから、明らかに不自然な人影が近づいてきた。

フードを目深に被り、いかにも「変装しています」という空気を全身から放っている。


「……なあ、ガレオン。あれ、また来たぞ」


「セレスティーナ様ですね。」


声をかけられる前に、二人の視線に気づいたセレスティーナがビクッと肩を跳ねさせた。

屋台通りに現れたセレスティーナの格好を見て、ザークとガレオンは同時に固まった。


前回は角だけだったが、今回はイナヅマの形をした角

サンダーホーンとかいう魔獣の角を、リボンでもなく今度は頭に固定具付きでガッチリ装着している。

おまけに、腰の辺りにはふさふさとした尻尾らしきものまで揺れていた。


「あいつの魔族の定義は一体なんなんだろう」


「……なあ、ガレオン。あれ、もう仮装大会だよな」


「間違いなく仮装ですね。あの尻尾、絶対余計です」


声が聞こえていたのか、セレスティーナの肩がまたビクッと跳ねた。


「な、なぜバレた!?」


「いやいや」


「クオリティ」


「あと、名札」


三段構えのツッコミに、セレスティーナは半ば涙目で自分の胸元を見下ろし、また絶句した。

名札は今回もしっかり胸なついている。


「……仮装用に、わざわざ野営地の近くで角を買ったんですよ。サンダーホーンっていう魔獣の角らしくて、イナヅマみたいでかっこいいと思って」


「もう仮装言うてるやん」


「その発想が既に変装向いてない」


「もう ……今日は、からかわれに来たわけじゃないんです。国王側の動きについて、あなたにお伝えしたいことがあって」


その一言で、空気が変わった。ザークとガレオンも表情を引き締める。


「立ち話するような内容でもなさそうだな。城まで来てくれ」


「はい。……そ、その、今日もコーシーは?」


「あ、ああ出してやるから」


「僕もコーシー飲みたいです!」


呆れるザークの横で、ガレオンだけが便宜的に便乗していた。


城に戻り、応接間でコーシーを一口飲んだセレスティーナは、やっぱり美味しいとコーシーを堪能。


「ところで話と言うのは?」


「国王側が、動きます。魔獣の森を迂回して、鉱石や魔石が採れる洞窟に無断で採掘団を送り込む計画が今夜決行されます。」


「魔晶窟へ?」


「はい。魔獣が多くて、魔族の方でも簡単には採掘できない場所だと噂で聞いています。……国王は、そこに目をつけたみたいです。魔王領地の洞窟だからといって魔王軍だけ独占するなど許せん。魔王軍が気づかないうちに、こっそり資源だけ奪ってしまえばいい、と」


ザークは眉を寄せた。


「魔晶窟は魔族でも採掘する時一部隊を率いて行くほど危険な場所なんだぞ。」


――《先の資料より座標を確認。当該洞窟は魔獣の生息密度が周辺の約十倍。危険度、極めて高いと分析します》


「……採掘団だけで行くなら、まずただじゃ済まない」


「国王様はそれほど危険な場所とは考えておりません。」


「なんて浅はかな。」


前世でもそうだ。真っ先に危険な目に遭うのは末端のものだ。

人の命をなんだと思っている?


「教えてくれて助かった。ありがとう、セレス」


その瞬間だった。


パァン、と、まるで拳銃で撃たれたかのような乾いた音が、どこからともなく響いた。


「……なんだ、今の音」


ザークがキョロキョロ辺りを見回す。この世界に、銃なんてものは存在しないはずだった。


だが、音の正体を知る者は、この場に一人だけいた。セレスティーナ本人である。


(――胸が。今、胸を撃ち抜かれた……!)


「セレスティーナ」ではなく、「セレス」。略して呼ばれた、顔が真っ赤になり足がガクガクと震えていた。


(な、なんで、こんな……いや、分かってる。分かってるけど……)


(まぁ、顔はイケメンだし……魔王のくせに、優しいし……)


(でも私は勇者だし相手は魔王だしーまさか禁断の恋…)


内心でぶつぶつ呟いていると、追い討ちをかけるように、ザークが言葉を続けた。


「――セレナ」


「はひっ♡」

(セレスを飛び越えてまさかのセレナ♡ヤバイどうにかなりそう)

即答だった。今までの凛とした態度はどこへやら、蕩けたような声が漏れる。


「……どうしたんだ、急に顔を赤らめて」


数秒前まで凛と勇者らしい態度をとっていた相手が、今度は頬を染めてまるで乙女のように瞳を潤ませている。

あまりの豹変ぶりに、ザークは思わず一歩後ずさった。


その様子をガレオンが嫉妬むき出しの目で睨んでいる。

(おー怖)


――《憶測ですがこの世界では名前を短く読んだりする事が何か特別な意味があるんかもしれへんな。知らんけど》


お前その言葉なぜ関西弁?


――《俺はAIやから日々学習してる。ザークの話し方に近づけてみたんやけど親しみやすくなったかな?もしこうして欲しいとかあれば出来るだけ合わせるようにするから言ってね。例えば――》


(いきなりめっちゃ某AIみたいなってる。しかも君女性の声で俺って)


(なんか嫌だから基本は標準語で行こ)


――《あっそうそう女性の設定やったな。うん。しっかりメモリーしとくな。》


(誰が設定したんだ。それに関西弁が現在進行形なんだが)


――《思い出を保存中》


(そこ思い出かい!やれやれ意味は一緒だからいいんだが)


ザークは知らなかった。この世界では、名前を短く呼んだり、愛称をつけて呼んだりすることが、密かな好意のアピールになるということを。


斥候から報告が入った。人間側の採掘団が、企みがバレていないと思い込んだまま、予定通り洞窟へ向かったという。


「馬鹿な連中だ。……行くぞ」


ザークは即座に立ち上がった。リリア、ガレオン、メルティナ、ドルシアも即座に支度を整え、洞窟へ急行する。


到着した時には、既に手遅れになりかけていた。


洞窟の入り口付近で、採掘団の人間たちが百を超える魔獣の群れに完全に包囲されていた。武器を構えてはいるものの、数の暴力の前に、後退することすらできずにいる。誰かの悲鳴が響いた。


「もう、駄目だ……!」


「終わりだ……!」


その瞬間だった。


「――行くわよ」


リリアの一声で、セリナを含む五人が同時に動いた。


セリナが突っ込み魔獣を蹴散らし陣形を崩す、リリアの氷刃が群れの先頭を一閃で薙ぎ払い、ガレオンの剣技が魔獣の壁を丸ごと吹き飛ばす。メルティナの結界が採掘団を囲むように展開され、ドルシアの魔法陣が、後方から迫っていた別動隊の魔獣を一瞬で凍結させた。


ものの数分で、百を超えていた魔獣の群れは、大量の魔石へと変わっていた。


(さすが各部署の長達強いな。それにセレナもなかなかやるな)


――《五人の戦闘能力はこの世界でも飛び抜けて高くただ1人バグを除いては負ける事がないと推測します》


(それ俺にいってるよね。誰がバグやねん)


静寂が戻った洞窟の前で、採掘団の男たちは、へたり込んだまま呆然としていた。


「な……なんて、強さだ……」


誰かが、震える声でそう呟いた。


その言葉を拾うように、ザークが一歩前に出た。纏う魔力が、静かに、しかし濃密に空間を満たしていく。


「――お前ら」


低い声だった。採掘団の男たちが、びくりと肩を震わせる。彼らは初めて、目の前にいるのが本物の魔王なのだと、肌で理解したようだった。誰かが失禁しかけているのが分かるほどの、圧倒的な威圧感だった。


「な、殺さないでくれ……! 頼む……!」


「お願いします、命だけは……!」


「――、家族は?」


ザークが一言。


「……え?」


男たちが顔を上げる。予想外の問いに、一瞬パニックになった者もいた。もう家族の顔は見られないと思え、そう言われているのだと勘違いしたのだ。


「殺さないでくれ! 頼む、家族が……!」


悲鳴じみた声に、ザークは小さく息を吐いた。


「待てい」


静かな声だった。


「お前たちの行動は、確かに悪いことだ。国王の命令とはいえ、無断で他人の領地を採掘しようとした事実は変わらない。それは、いずれきちんと責任を取ってもらう」


「……はい」


「だが」


ザークは、へたり込んだままの男たちを、一人一人見渡した。


「お前たちには、家族がいるだろう」


沈黙が落ちた。


「この行動で、お前たちは全員、命を落とすところだったんだ。もう二度と、家族に会えなくなるところだったんだぞ」


男たちの目に、じわりと何かが滲んだ。


「俺が怒っているのは、お前たちが領地を侵したことじゃない。……お前たちが、家族に会えなくなるかもしれない、そんな馬鹿な真似をしたことに対してだ」


ザークはふと、地面に転がる魔獣の死骸の魔石に目をやった。淡く光る魔石がいくつも転がっている。


「……メルティナ、回収した魔石はどれくらいある」


「先ほど倒した分だけで、七十個近くになるかと」


ザークは頷くと、採掘団の男たちの方へ向き直った。


「お前たち、このまま手ぶらで帰るわけにもいかないだろう」


「え……」


男たちが顔を見合わせる。


「本来なら、無断採掘の企みそのものが罰の対象だ。だから、これで全部を許すつもりはないし、全部はやれない。……だが」


ザークが軽く手を上げると、リリアが心得たように魔石の入った袋を運んできた。ザークはその中から半分ほどを取り分け、男たちの前に置く。


「これで、罰が帳消しになるとは思うな。だが――お前たちが命懸けで来たことに、何も持たせずに帰すのも違うだろう」


「……よろしいのですか、そんな」


采配に戸惑うセレスティーナに、ザークは小さく肩をすくめた。


「半分は魔王領の被害として、こちらが預かる。残り半分は、お前たちの家族のために使え。……これくらいが、俺にできる落とし所だ。手ぶらで帰ればまた採掘命令が出るかもしれない」


男たちは、しばらく言葉を失っていた。それから、一人がゆっくりと膝をつき、深く頭を下げる。他の者たちも、それに続いた。


「……ありがとう、ございます」


震える声だった。


その光景を見ていたリリアが、また目元を袖で押さえている。


「ザーク様……本当に、お優しい……」


「優しいわけじゃない。……ただの、落とし所の付け方だ」


そう誤魔化しながらも、ザークの声は、思いのほか柔らかかった。


リリアの隣で、ガレオンも、メルティナも、ドルシアも、それぞれに込み上げるものを堪えている様子だった。


その光景を、少し離れた場所から見ていたセレナが、静かに口を開いた。


「……やっぱり、思った通りだ。私たち人間も、魔族の皆さんも、相手や家族を思いやる気持ちは、何も変わらないんですね」


セレナはザークの前に進み出て、まっすぐに見上げた。


「アインザーク殿。私に――人間側と魔王軍の、橋渡し役をさせてもらえないだろうか?」


「それは願ってもない申し出た。セレナ。」パァン!


「それにザークと呼んでくれて構わない。」パンパァン


セレナはまた名前を呼ばれた衝撃、ザークと呼べ!ともはやプロポーズ級の言葉に3回撃たれた。

セレナは♡マークの湯気が頭から出てショートした様子。


その申し出に、へたり込んでいた採掘団の男たちも、次々と声を上げた。


「お、俺たちも……! 俺たちも、何か力にならせてくれ!」


「命を助けてもらった恩を、必ず返す!」


洞窟の前は、いつの間にか、敵対する者たちの空気ではなくなっていた。


ザークはその様子を見渡し、小さく笑った。


「人間も魔族も誰かを大事に思う気持ちは一緒だな。」


補助思考システムが、いつになく静かな声で応じた。


――《同意します。》


「それにしても…。」


ザークがそう呟いた洞窟の奥では、まだ倒しきれていない魔獣の唸り声が、微かに響いていた。




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