↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目が覚めたら魔王でした。戦いたくないので世界平和を目指します。  作者: ハルヒ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/32

ep19 プレゼン大会準備とリリアの気持ち

魔王城

リーゼが持ち込んだ木箱には、見覚えのある食材と見覚えのない食材が雑多に詰め込まれていた。ザークは一つひとつ手に取り、魔族領にあるものとないものを選別していく。


「これは魚か。そういえばこちらでは初めて見たな」


そう言いながら次の袋を開けると、乾いた小さな粒が現れた。独特の刺激臭。

前世の記憶がふと疼く。


「これはもしや――」


ちょっと失礼、と一粒つまんで舌に乗せる。ぴりり、と舌先が痺れた。間違いない。


「これは、もしかして胡椒じゃないか?」


驚きを噛みしめるように呟いたザークに、シーン

(あれ違ったか、異世界だから呼び方が違うのか?)


「胡椒です」


リーゼだった。

「一体何の間だったんだ」

「よくご存じだなと思いまして。」

リリアが一言

「なぜザーク様はこの胡椒の事知ってるんですか?」

(リリアたまにわざとらしい質問するよね)

「ゆ、ゆ、ゆ、夢で見たんだ。」

「へぇ夢ですか。まあそう言う事にしておきましょう。」


「この香辛料、すごいですね」とキャロットだけは本題に集中していた。

「料理にパンチも出ますし、いいアクセントになります。

今まで魔族領には無かった味わいですから、使い方次第で幅が広がりそうです」


「リーゼがまだ両国の特産品など実態が知れませんね」


話を仕切り直したのはリーゼだった。


「よろしければ、双方から品々を持ち寄り披露し合う場を設けてはいかがでしょう」


「プレゼン大会だな」


「プレゼン……?」聞き慣れない言葉に一同が首を傾げる中、ザークだけがすんなり頷いた。


「一週間後、我が国アルトバイエルの闘技場を会場とすることがにいたしましょう」

(後一文字でウインナーになるとこだったぞ)

リリアが負けじと

「では我が国シャウエッセルからも選りすぐりの品を」と宣言。

(こっちもかーい)

今まで気にしたこともなかったが、二つの国にはちゃんと名前があったらしい。


「シャウエッセルって、そんな国名だったのか」


「ザーク様、まさか今まで気づいていらっしゃらなかったんですか?」


「いや、その……国王軍とか、人間領とか、そういう呼び方しかしてなかったからすっかり忘れていたんだ。」

「忘れてただけだ!」


「ザーク様情緒が」


呆れ顔のリリアをよそに、ドルシアが早速収支の見積もりを始めた。

話が進むのが早い。


セレナが不参加なことにザークが首を傾げると、リーゼは涼しい顔で「セレナ様は何かと理由をつけてはこちらへいらっしゃいますので」と答えた。

「国王様、今回の話し決定してよろしいですか?」

セレナは何も言わない。

「国王様………セレナ様!」

ようやくばっと気づくセレナ

「うむ、けけ決定でよかろう、善きにはからえ」

「セレナ様無理に国王ぶってお話にならなくても大丈夫です。」

「普段通りで」

「はい、じゃあ決定で大丈夫です。」


裏で舵を取っていたのはリーゼだったのだと、裏で支えると言っていた意味ザークはようやく合点がいった。


「では1週間後お待ちしています。来賓としてお迎えいたしますのでよろしくお願いいたします。」

「さぁ帰りますよ」

嫌がるセレナを半ば強引に

リーゼは帰って行った。


城へ帰り会議室でふとザークが口にした。


「そういえば――ウインナーはあるか?」


「ウィナー、ですか? 勝者の……」


「いや、そっちじゃない」


ザークの頭の中には、前世で愛してやまなかったあの食材の記憶がある。

皮を噛んだ瞬間にパリッと弾け、肉汁が溢れ出す万能選手だ。焼いても茹でても煮ても美味い、あの安心感のある味を、この世界でも再現したかった。


「なければ、作ってみるか」


全員が声を揃えて返事をした。


材料を求めて向かったのは街の解体屋だった。主人は「そんなもん何に使うんだい」と首を傾げながらも、いくつかの動物の腸と肉を分けてくれた。


「腸、ですか。普段は処分してしまうものですが」


「それが一番大事なんだ」


不思議そうな顔をする主人に、ザークは詳しくは語らず苦笑いを返した。


厨房に戻ってからが本番だった。

まず肉を挽く。

粗く、時に細かく。

レトロな道具しかないこの世界では、すべてが手作業になる。ドルシアが力を込めて挽肉機のハンドルを回し、メルティナがその横で肉の分量を几帳面に量っていく。


一本目は失敗だった。噛んでも噛んでも千切れない、ゴムのような食感。「これは、これはこれで別の何かとして売れませんか」とキャロットが真顔で提案するほどだった。

二本目も失敗。

今度は皮が柔らかすぎて、噛んだ瞬間に肉汁があっさり逃げてしまう。

三本目、四本目――試行錯誤の末、ある一種類の動物の腸がしっくりと合うことが分かった。

そうストレイシープと言う動物だった。

こっちでもやはり羊なんだな。


焼き上げると、パチ、パチ、と小気味よい音が鳴り始める。皮の表面がきつね色に色づき、小さな亀裂から透明な肉汁がじわりと滲み出す。

厨房いっぱいに広がる香ばしい匂い。誰かがごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。


「これだ」


一口かじった瞬間、パリッという小気味よい音とともに皮が弾け、中から溢れた肉汁が口の中いっぱいに広がった。

噛むたびに肉の旨味と胡椒の刺激が追いかけてくる。

脂の甘みと香辛料の切れ味が絶妙に絡み合い、飲み込んだ後にもじんわりと余韻が残る。


聞くまでもなかった。

全員がすでに無言で頬張っていたからだ。


焼いてよし、煮てよし、茹でてよし。

ガレオンとセレナは遠慮なく次から次へと手を伸ばすがっつき系、対してドルシアとメルティナはお淑やかに一本ずつ味わいながらも、隙を見ては他人の皿からそっと一本失敬している。


――バレバレだぞ。


ザークはそう笑いながら、自分の皿のウインナーをそっと二人に差し出した。二人は一瞬肩を跳ねさせたが、すぐに「では、遠慮なく」と受け取った。


「単体で食べても、この存在感だ」とザークは満足げに頷く。「ある意味、最強だと思っている」


「これは名物になりますね」


キャロットの太鼓判で、その日の試作会は幕を閉じた。

プレゼン大会の目玉が、思いがけない形で一つ増えた瞬間だった。


夜遅く、厨房ではまだ明かりが灯っていた。

覗いてみると、リリアが一人でプレゼン用の資料を並べ、黙々と準備を続けている。

机の上には数字がびっしり書き込まれた紙が何枚も広がっていた。


「リリア、まだやっていたのか? プレゼンは明後日だろう」


「ザーク様。今から準備しておかないと、心配で」


しっかり者の彼女が一人で黙々と作業を進める姿は、何度見てもいじらしかった。灯りの下で資料を睨む横顔には、疲れの色も見える。


「あの――」


「どうした」


「ザーク様が倒れられて、目覚められてから今日まで。なんだかいろんなことが一気にありすぎて」


リリアは手を止め、静かに語り出した。


「でも皆とこうして毎日食事をしたり、いがみ合ったり、笑い合ったり。初めてのものをたくさん作ったり――ここ何百年、忘れていた感覚です」


古くから人族を滅ぼすのが当たり前だと思っていた。

人間との交流がこんな形になるとは夢にも思わなかった、と。


「少し、おそばにいかせていただいてもよろしいでしょうか」


「ああ、構わない」


まっすぐな言葉が、なぜだか胸に染みた。


「私はザーク様のおっしゃることなら何でも従います。たとえそれがダメなことでも」


「それは参謀としては危ない思想だな」


「申し訳ありません」


「悪いことをしろと言っているわけじゃない。ただ――何があってもリリアは俺の味方でいてくれる、ということだろう?」


「は、はい。もちろんです」


「その気持ちが、嬉しいんだ」


ザークは続けた。


「リリア、俺からも礼を言いたい。俺が言い出したことに戸惑いながらも、そうさせてくれたのは参謀のお前がいたからだ。今、俺が笑っていられるのも、お前がいてくれたからだと思っている」


「ザーク様」


思わず胸に飛び込もうとしたリリアの足が、床に落ちていた何かを踏んで滑った。


「わっ」


「大丈夫か」


リリアと共に床に倒れた俺は視線を下げると、俺の下半身あたりリリアの顔の目の前に、ウインナーが一本立っていた。

「え?」

行儀よく立っていた。


「ザーク様こそ大丈夫ですか? 誰が落としたんでしょう、これで転んだようです」


「はっ――ウインナーか。驚いた」


「払えばまだ食べられますね」と、リリアはパクっとウインナー頬張った。


「ぎゃっー」


「どうされました?」


「いや、視覚的に叫んでしまっただけだ。気にするな」


「もしかして、ザーク様も食べたかったんですか? はい、どうぞ」


差し出されたウインナーに、ザークは固まった。これは、噂に聞く「アーン」というやつではないか。リリアの口もアーンになっている。


どこを見ていいか分からず、照れ隠しに視線を斜め右上に逸らしたそのとき――唇に触れたのは、ウインナーではなかった。


柔らかい。リリアの唇だった。


しばらく重なったあと、リリアがわずかに顔を離す。


「照れていらっしゃるザーク様も、可愛いですね」


もう、俺のザーク様は黙ってはいられなかった。

互いに体を寄せ合い、あり得ない場所――厨房――で、二人は想いを重ね合った。


「ザーク様」


事が済んだあと、リリアは静かに切り出した。


「前にも申し上げましたが、私はこの国の制度を理解していますし、変えようとも思いません。ですが――ヤキモチ、嫉妬は妬きます。それは皆同じだと思います」


「普段はできるだけ我慢します。ですので、たまに二人きりの時間を作っていただけませんか」


(確かに法律と言っても普通の女の子、ヤキモチを妬くのは当たり前、逆だったら俺絶対嫌だもんな。)


――《お前、無茶苦茶言ってますよ》

(今のはお前と言われても仕方ないな)


「わかった。リリア、二人の時間は必ず作る。約束する。でも、それはガレオンとも作りたい」


「ええ、それで大丈夫です!」


「ちょっと嫉妬、出てるぞ」


「私はザーク様が好きです。どこまでも一緒にいたいと心から願います」


リリアは笑みを浮かべたまま、静かに続けた。


「たとえ、ザーク様が――偽物だったとしても」


ザークの心臓が跳ねた。


「リリア……お前、気づいているのか」


「気づかない方がおかしいですよ」


くすりと笑いながら、リリアは言葉を継ぐ。


「最初はただの違和感でした。でも日を重ねるうち、違う人物だと仮定した方が辻褄が合うことの方が多くなって――確信に変わったんです」


そうか。だからあのときも、あのときも、詰められずに済んでいたのか。たまにわざとらしい追求もあったが

ザークは今更ながら合点がいった。


「わかっていて、なぜ黙っていたんだ」


「ザーク様と日々を重ねるうちに、毎日がキラキラと見えるようになったんです。世界の色が変わったみたいに。だから――ザーク様がおっしゃる、平和な世界を、一緒に実現したいと思いました」


「リリア、ありがとう」


なんて素敵な子なんだろう。ザークはそっと頬に手を添える。


もう一度、俺のザーク様は火を吹いた。


――《正体がバレてから二人きりになるとは、なかなかロマンチックな展開ですね》


不意にAIの声が頭に響き、ザークは思わず肩を跳ねさせた。


「お前、いつから見てたんだ」


――《見てるの表現は少し違いますが最初からです。ちなみに心拍数、先ほどから平常時の8倍を超えていますよ》

――《ハムスターと同じ速さです》


「うるさい、黙ってろ」


――《ふんっ。せっかく感動的な場面に華を添えてあげたのに》


拗ねたような気配を最後に、AIの声はふつりと途切れた。

おかげで少し冷静さを取り戻したザークは、資料の山に目をやる。プレゼン大会は明後日に迫っている。


「――さて、と。続きをやるか」


「はい。ですが、その前に」


リリアは乱れた資料を一枚ずつ丁寧に拾い集めながら、悪戯っぽく笑った。


「ウインナー、まだ残っていますか? お腹が空いてしまって」


「……それはどっちの意味かな?」

「???」

「何でもございません」


ザークは厨房の隅に置いてあった皿を差し出した。焼き立てとまではいかないが、まだほんのり温かいウインナーが数本、行儀よく並んでいる。

リリアはそれを一本つまみ上げ、満足そうに頬張った。


二人の夜は、そうして静かに更けていった。窓の外では、プレゼン大会に向けて準備を進める城の灯りが、いくつも遅くまで点り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。