↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目が覚めたら魔王でした。戦いたくないので世界平和を目指します。  作者: ハルヒ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/32

ep12 お風呂作ろう。前編

黒龍の吐いた黒い火炎を、片手で止めている。

(あれ?この場面)

だが、その炎が、ゆらりと形を変えた。

気づけば、右手はガレオンの胸に。

「――え?」

左手は、リリアの胸に触れていた。

「な、なんじゃこりゃ?」

下を見ると、露出多めのセレナ、メルティナ、ドルシアが、こちらへ迫ってくる。

「ん? 誰だ、お前は?」

怒りに満ちた顔で睨みつけてきたのは、リリアだった。

ふと、自分の手を見る。人間だった頃と同じ、爪も、角も、牙もない手だった。

(――バレた。詰んだ)

はっ、と目が覚めた。

ザークは、しばらく天井を見つめたまま動けなかった。

「……夢だったか、前半良かったのに」

我ながら情けない。まるで厨二病じゃないか。だが――今の夢は、妙にリアルだった。

(――絶対に、バレてはいけない)

ごくり、と生唾を飲み込む。

目は、すっかり冴えてしまっていた。

「……だめだ、寝れない」

起き上がり、資料でも見るか、と魔王室へ向かう。

卓上に並べた魔石と資料に、コーシーを飲みながら目を通していく。

(コーシーは、リリアが入れた方が、格段に上手いな)

魔石の特性を眺めているうちに、ふと閃くものがあった。

(この特性なら……あれが作れるかもしれない)

一度火がついた創作意欲は、止まらなかった。

ペンを走らせ、資料と資料の間を行き来する。

気づけば、チュンチュン、と小鳥の声が窓の外から響いていた。

(――この世界にも、スズメのような小鳥がいるんだな)

「おはようございます」

リリアが、魔王室の扉を開ける。

今日は珍しく、眼鏡をかけていた。

昨晩の夢のこともあり、ザークは少し気まずさを覚えた。

「どうされました? ザーク様」

「いや」

誤魔化すように、ザークは口を開いた。

「め、眼鏡似合っているな。」

パリン、と、リリアの眼鏡が割れた。

(かわいいと言われた。)

「ん?どうした?」

「い、いえありがとうございます。」

「昨晩自分でコーシーを入れたんがやっぱりリリアがいれたコーシーが、一番上手いなと思ってな」

パリン、と、リリアの眼鏡が割れた。

「そんな……毎日のように愛を囁いてくださるなんて。このリリア、いつでも夫婦になる準備は整っております」

「……愛を囁いたつもりはないんだが」

(――まぁ、バレてないな。大丈夫だ)

新婚旅行はどこがいいか、などと呟きながら、また妄想の世界へ旅立っているリリアを横目に、ザークは話を戻した。

「なぁ、リリア。コーシー、入れてくれないか?」

パリン、と、またリリアの眼鏡が割れた。

「今、なんと? ……キスしてくれないか、と?」

「いやいや違う。どうやったら、そう変換されるんだ」

リリアは、頬を赤らめ、目を閉じたまま黙り込んでいる。

(――これが、キス顔か)


(――俺も、男だ。興味はある。止められる勇気がない。……ここで行かなければ、男じゃねえ)

昨日、あんな夢を見たばかり。

ザークは、リリアの肩にそっと手をかけた。

(なんて、いい匂いだ)

「あっ」

リリアが小さく声を漏らす。

――《双方の心拍が上がってます》

ドキドキ、ドキドキ。

ゆっくりと、顔を近づけていく。

(俺、変な顔になってないよな)

「――ワンッ!」

連れ帰ったゴーレムが、足元で吠えた。

「ビクッ」

二人とも、驚いて弾かれるように離れてしまった。

リリアは、顔を赤らめたまま、恥ずかしそうに斜め下を見ている。

(――なんて、愛らしい顔をするんだ)

素直に、そう思った。

「コ、ココーシー、入れてきますね」

「あ、ああ。頼む」

逃げるように去っていくリリアの背中を見送りながら、ザークは小さく息を吐いた。

――《スキル「アオハル」が発動しています。いいですね》

「いいですね、って……お前」

(確かに、青春時代には味わえなかったが……もし彼女がいれば、こんなこともあったんだろうな)

純粋な気持ちを、静かに噛み締める。

――《ふんっ》

「また怒ってる?」

返事はなかった。

気を取り直し、ザークは腰のマジックバッグへ目をやった。

「――そういえば、昨日の収穫を見てみるか」

――《広い場所へ移動されることを推奨します》

「え? なんで」

――《物理的な問題です。》

促されるまま、ザークはリリアたちを、そして普通にいるであろうセレナを、魔王城の中庭に集めた。

「ザーク様。なぜ、この様な場所に?」

「……なんとなくだ」

一同を前に、ザークはマジックバッグへ声をかけた。

「よし。昨日の収穫、さぁ出してくれ」

ペッ、と、バッグの口から次々と吐き出されていく。

大小さまざまな魔石が山と積み上がり、黒龍の鱗や牙、鉱石の塊が地面を埋め尽くしていく。中庭は、あっという間に、宝の山と化した。

(外に出ろと言ったのはこうゆう事か)

――《魔石、換算数千個。素材類、多数。鉱石、換算数百キロ。……総額にして、ちょっとした国家予算並みです》

「……ザーク様。これは、信じられない量です」

リリアが、呆然と呟いた。

「一生困らないほどの財産ですよ、これは。……貿易などせずとも、良いのではないでしょうか?」

「リリア。それは違う」

ザークの声が、少しだけ低くなった。

「一つの国だけが豊かでも、何の解決にもならない。必ず、私利私欲のために動く者が出る。情報は、必ずどこかから漏れるものだ」

「必ず、ですか」

「ああ、必ずだ。……結果、貧困の差も埋まらず、争いが起こる。それが、戦争の火種になる」

一同が、静かに耳を傾けている。

「戦争になった時、最初に被害を受けるのは誰だ?」

「そ、それは……軍、では?」

「もっと前に、被害を受ける者はいないか?」

「……村の民や、駆り出された兵士、でしょうか」

「そうだ」

ザークは、静かに頷いた。

「上の者は、被害の数、滅んだ村をを、ただの数字でしか数えない。だが、民にも、兵士にも、それぞれ大切な人がいる。……俺は、それが許せないんだ」

一拍置いて、続ける。

「確かに、蓄えておく予算は大事だ。だが、使わなければ世界は回らない。……俺は、俺だけが幸せならそれでいい、とは思わない。争いのない、誰もが大事な人と笑い合って生活できる世界を、作りたいんだ」

中庭が、しんと静まり返った。

ザークの、いつになくエリートじみた語り口は、ガレオンやキャロットには少し難しかったようだった。だが、その瞳には、何かを感じ取ったような色が浮かんでいる。

(……魔王らしからぬ言動だったか。疑われるかもしれないな)

そう思っていた矢先、沈黙を破ったのは、やはり参謀のリリアだった。

「――つまり、世界を統治して、早くあまあまな新婚生活を送りたい、ということですね?」

「全然違うぞ」

「僕、わかりました」ガレオンが手を挙げる。「暴力は使わずに、世界を征服するってことですよね?」

「それも違うぞ」

ザークは、深くため息をついた。

「言っておくが、俺は争いを望まないし、征服などしない。……お前たち、仮に俺が人間に倒されたら、どうする?」

「!!」

「想像しただけで、怒りが込み上げてきます」

リリアが即答する。

「じゃあ、どうする」

「報復へ出ます」

「だろう? それじゃあ、繰り返されるだけだ」

ザークは、次にセレナへ目を向けた。

「セレナ、どうだ。もし、魔族によって、国王なりお前なりが倒されたら人間はどう動く?」

「……はい。同じことをすると思います」

「うむ。それを繰り返すのは、愚かなことだと、俺は思う」

一同を、ゆっくりと見渡す。

「人でも、魔族でも、それぞれ大切な人を守りたい気持ちは同じだ。楽しかったら、笑えばいい。……元にセレナがここにいるじゃないか。なら、争う必要はない。俺は、そう考える」

「――憎しみは、憎しみしか生まない。魔族だから、人間だからと、何の罪もない者を傷つけてしまうんだ」

静かな沈黙の後、ザークは付け加えた。

「異議のあるものがいれば――」

バッ、と、六人が一斉にザークへ抱きついた。

「ザーク様、分かりました」

「私たちをただただ愛して、守りたい、という気持ち、よく分かりました。……幸せに暮らそう、ということでしょ?」

「異議など、あるはずもないです」

「あのー……」ザークは、乾いた笑いを浮かべた。「違うんだが。……いや、違わなくもないか」

「まぁ、そういうことだ」

「ただ一つ言っておく。俺の大切な物が理不尽に傷つけられた時」

「誰であろうが俺は許さない。」

「もちろんお前の事も大切に思っているぞ」

とセレナな頭をポンポン。

不意打ちを喰らったセレナ

抱きついている腕にいっそう力が入った。

中庭に積み上がった宝の山と、六人分の体温に包まれながら、ザークは、それ以上の反論を諦めることにした。


「――そういえば」落ち着いたところで、ザークは思い出したように口を開いた。

「後、通貨はどうだ?」

「通貨、ですか」ドルシアが答える。

「魔族領は『ダル』を使っています」

「人間の通貨は『ギル』ですね」

セレナが続けた。

「そう。通貨が違うのは、別に構わない。……いずれ、マネーエクスチェンジでも設置すれば、もっと交流が深まるだろう」

「あの……マネーエクスチェンジとは?」ドルシアが首を傾げる。

「簡単に言えば、両替だ」

「両替、とは?」

「……そうか。両替がわからないか。概念がないんだから、仕方ないな」

ザークは、順を追って説明することにした。

「例えば、100ダルを持って、人間の村へ行って買い物はできるか?」

「いえ、無理です」

「じゃあ逆に、ギルを持って、この魔族領で人間が買い物はできるか?」

「……いえ」

「そう。それをできるようにする――ダルをギルに変えてくれる場所を、作りたいんだ。100ダルを100ギルに変えられたら、買い物ができるだろ?」

「……なるほど」ドルシアの目に、みるみる理解の色が浮かんでいく。

「両替所を設ければ、通貨の壁を越えて、人と魔族が直接取引できるようになる、ということですね」

「そういうことだ」

まずは人間と魔族の間での良好な関係を築かなければいけないがな。


一通り落ち着いた後、ザークは山と積まれた素材をマジックバッグへ戻していった。ただし、青い魔石と赤い魔石だけは、手元に残しておく。

「――みんなに、見てもらいたいものがあるんだ」

「それは、魔石ですね」ガレオンが覗き込む。

「そう。青いのは水属性、赤いのは火属性だ」

「へぇ魔石に属性が」

メルティナがボソッと

少し魔力を込めると、青い魔石からは水が、赤い魔石からは炎が噴き出した。

「これを、こうすると」

二つの魔石を両手に握り、同時に魔力を流す。

すると――

「えっ、これは……お湯、ですか?」

「そう。そうなんだよ」

「そんな簡単にお湯が作れるなんて」

手のひらから溢れる湯気に、一同が目を丸くする。

「そして、これだ」

ザークが取り出したのは、混じり気のない、綺麗で透明な魔石が二つ。

まず二つを隣同士に置き、魔力を流す。すると、二つの魔石は、互いに違う色でかわるがわる光り始めた。赤、緑、青、紫――

やがて、二つの魔石が同じ色で重なった瞬間、パァッと一瞬強く輝き、光が消えた。

「よし。これで、ペアリングはOKだ」

「ぺ、ペアリング……?」

「機器登録だな。まぁ、見ててくれ」

?だらけの一同。

二つのうち一つを、少し離れた場所に置く。

もう一つの透明な魔石の上で、再びお湯を出してみせた。

すると、その水は、目の前の魔石に吸い込まれるように消え――少し離れた場所に置いた魔石から、お湯が湧き出てきた。

「すごいです! この魔石があれば、僕たちも転移できるんじゃないですか?」ガレオンが目を輝かせる。

「それは俺も考えたんだが……この魔石は、生き物は吸い込まないみたいなんだ」

「なーんだ残念」

「転移なら俺が連れて行ってやる」

「またデート行けるんですね?」

「君たちの変換能力あっぱれ」

喜んでいるガレオンにザークは続けた。

「ガレオン、容器に水を入れて、泥水にしてみてくれ」

「こうですか?」

「ああ。これを、この魔石に吸い込ませると、どうなると思う?」

実験室さながらの空気の中、一同は興味深そうに考え込んだ。

「コーシーに変わるんじゃないですか?」

ガレオンが自信満々に答える。

「違います」


「金に変わるのでは?」ドルシアが真顔で言う。

「違いますが、面白い発想ですね。さすが財務部」


メルティナ、セレナ、キャロットも、それぞれ珍回答を披露していく中、最後に口を開いたのはリリアだった。

「――綺麗な水になって、出てくるのではないでしょうか」

「さすがリリア、正解!」

泥水を吸い込ませた魔石から、澄み切った透明な水が湧き出てくる。一同から、感嘆の声が上がった。

「この魔石は、物を吸収し、分離、そして不純物を浄化する効果を持っているみたいだ」

これで排水問題はクリア。

「すごいですね……魔石に、そんな用途があるなんて」

「一つ聞くが」ザークは一同を見渡した。

「今、世界で高値で流通している魔石の用途は、何だ?」

「え……」リリアが戸惑う。

「それは、宝石としての価値ですが……魔石に直接魔力を流すなど、考えもしませんでした」

「魔石に属性がある事も。」

「なるほどな。……すごく勿体無い」

話がそれたが、とザークは仕切り直した。

「今回、これである物を作りたい」

「ある物、ですか?」

「――お風呂だ」

「お風呂?」

「この世界には、湯に浸かるという概念がないだろう。川から汲んだ水を魔法で温めて、シャワー代わりにする程度のものしかない」

ザークは、一同の顔を見渡した。

(――まぁ、その程度の設備でも、女性陣はいつもいい匂いを放っていたんだから、皆の努力の賜物なんだろうな)

女性陣は、既に「お風呂」という響きに、興味津々といった様子だった。

「この中庭に、作ろうと思う。みんな、手伝ってくれるか?」

「はい、喜んで!」

声が揃った。

ザークは、夜な夜な描き上げたイメージ図を取り出し、皆に見せた。

一同は、そのイメージ図を覗き込みながら、思い思いに想像を膨らませていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。