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【百合】犬猿三歩、恋一歩【R15版】  作者: むすび


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第13話 いっしょにおふろ

 疲れた。今日はぐっすり寝られそう。


 そんなふうに考えながら目を瞑ったままベッドに身を預けているとぎしりとベッドが軋み、戌丸が上から退いたのがわかった。


 ゆるゆるとまぶたを開くと、彼女はわたしの身体にタオルをかけてからベッドの周りに散らばった服などを拾い集めている。


 それからぱたぱたと足音が浴室の方へ遠ざかったかと思うとすぐに戻ってきてベッドへ腰かけた。


「今日はもう疲れちゃいましたよね。ちょっと休んでからお風呂いきましょうか」


 頭を撫でながらそう微笑まれて、そういえば顎にずらしていたマスクはいつの間にか外してるなぁとこのときようやく気がつく。


 そして彼女の全身がまぁぐちゃぐちゃになっているのが見えて、あぁ自分が犯人かとすぐに思い至った。


 たぶん早く洗いたいよなぁとだる重い身体に鞭を打ち、ベッドから起きあがる。


 戌丸はすぐに気がついて身体を支えてくれたけれど、さきほどのぼりつめたばかりの身体はそんな僅かな刺激も全て拾いさざなみのように全身に広がっていく。


「っ……」


 それに気づいたんだか気づいてないんだかわからないけれど、戌丸はやんわりとわたしの身体を支えてベッドから下ろし、身体にさっとタオルを巻いてくれた。


「お風呂いきます?」


 その言葉にわたしはこくりと頷く。正直いま口を開くと先ほどまでのようなあられもない声が漏れ出てしまいそうで、慌てて唇をきゅっと結んだ。


 支えられながらゆっくりと脱衣所へやってくると、そのまますぐに浴室の方へ連れて行かれる。そしてタオルをさっと身体から外し、戌丸に促されるまま浴室の椅子へ腰掛けた。


「それじゃあ流していきますね」


 彼女はシャワーであたたかいお湯が出ているのを確認してから、まずゆっくりとわたしの足元にそれをかけ始める。それから身体全体を濡らされて、心地良いあたたかさにほっと息をついた。


 元々髪の毛は汚れないようにまとめ髪にしていたけれど、結局べたべたになることもなく綺麗なままだったらしい。戌丸は濡れないようにしてくれているようで、寒くないよう身体にだけシャワーがかかるようにシャワーヘッドの位置を調整してからホルダーへ差し掛けた。


「お背中から洗いますね」


 ボディタオルでボディソープを泡立ててから、ゆっくりと背中へ押し当てられる。そのまま上下にゆるゆると擦られて、なんだか全身がくすぐったいような気がして身体が小さく跳ねた。


「痛くありませんか?」


「だ、いじょうぶ、です」


 少しずつ落ち着いてきたような気もするけれど、まだ身体に余韻が残っているようで、彼女が洗ってくれる箇所がまだなんだかざわざわするというかなんというか。そのうち後ろから前に手が回ってきて胸元やお腹の辺りも綺麗に洗われて、その手つきにいやらしさなんて微塵も感じられないのに、なんだかわたしの身体がおかしくなってしまったみたいだった。


「お身体だいじょうぶですか?」


 わたしの気持ちを見透かしたかのようにそんなことを聞かれて少しぎょっとする。鏡越しに戌丸の方を覗き見ると、彼女はこちらを見て優しく微笑んだ。


「なんていうか、まだむずむずする感じがあると思うんですけど、しばらくしたら落ち着きますからね」


「……ん、はい」


 その言葉にこくりと頷く。

 頷いたものの納得はできなかった。


 だっていまだって背中には戌丸のなかなかな大きさのそれがむにゅりと押し当てられていて、彼女の手が動くたびにもにゅもにゅ形を変えるそれに対してもどぎまぎしてしまう。


 これが落ち着けるわけがない。そのまま彼女の手のひらに自然に身体を開かされ、ゆるゆると泡を塗り広げられた。


 正直もうぜんぶ見られちゃったし、先ほどまではもういままででは考えられないくらいとんでもないことを致していたのだから、お風呂場でなんてこれ以上に緊張することはないだろうとたかを括っていたけれど、まだまだそんなことはなかったらしい。


 どちらかというと先ほどよりも明るい場所でじっくりと見られている恥じらいの方があまりに大きくて、鏡の方へ視線を向けたら自身の顔が真っ赤に染まっていることに気がついた。


 けれど戌丸の手は手際よくわたしを洗い、すぐに解放する。シャワーで泡を流してから、先に浴槽へ浸かるように促された。


「すみません、わたしもぱぱっと洗わせてくださいね。すぐ終わりますから」


 手を差し出され、それをとりながら椅子から立ち上がる。手を引かれて浴槽までのほんの数歩を歩いていると、ふと戌丸の髪の毛の後ろの辺りがぐちゃぐちゃになっていることに気がついた。


 ──あれ、なんであんなにぐちゃぐちゃに……そこまで考えてから自分の仕業なことに気がつき、雄叫びをあげてしまいそうになる。恥ずかしいやら申し訳ないやらで歩みが止まり、戌丸はすぐに振り返り不思議そうにこちらを見ていた。


 わたしはそのまま逆に彼女の手を引いて、先ほどとは逆に戌丸を椅子に座らせて自身はその後ろに立つ。


「あっと、夜宵さん?」


 きょとんとわたしの方を振り返る戌丸の顔を前に向かせ、シャワーからお湯が出るのを確認してから彼女の後頭部にゆっくりとかけた。


「わたしも洗うの手伝います」


「……えっ! いや悪いですよそんな」


「身体は自分で洗ってくださいね」


 困惑しているその人を無視して、わたしはシャンプーを手に取る。自分でもびっくりしたんだけれど、なんだか気がついたら手伝うと口走ってしまっていた。


 いまさら引くに引けないし、わたしも少しでも好きな人に触れたいので、有無を言わさず座らせたが後悔はなかった。


 半ば蜜が乾いてかぴかぴになりつつある髪の毛にシャンプーを馴染ませると、お湯で流すだけでもなかなか効果があったようで予想よりもそれはすんなり落ちていく。ほっと息をついてから髪の毛を洗っていくと、戌丸はその間におずおずと自身の身体を洗い始めた。


 本当は全身わたしが洗ってあげたい。けれどもたぶん、流石にそれはだめだよねとぐっとこらえた。


「あの、ありがとうございます夜宵さん」


「……いやなんていうか、わたしがしたことだし……」


 理由が理由だけに少し言いにくくてもごもごと答えると合点がいったようで、目の前の彼女は鏡越しにこちらを見てから指で頬をかいた。


「えへへ、そんなの気にしなくてもいいのに」


 なんだか本当に嬉しそうな表情を浮かべているそんな様子に、またどきりとしてしまう。やっと落ち着いたのにまた顔が熱くなってきて、わたしはそれを誤魔化すように戌丸の頭からシャワーでお湯をかけた。


 何度か洗った方がいいのかなと思いひとまずもう一度シャンプーを手に取り、泡立ててから全体に広げていく。指の腹で指圧するように指を滑らせていくと、特に引っかかるような箇所もないようだった。


 その頃ちょうど身体も洗い終わったようだったので、再び頭からお湯をかけて泡をすべて流す。

そして今度こそ二人で浴槽へ浸かり、お湯がざぶんと音を立てて溢れていったのだった。


「ふぅ、夜宵さんお湯加減はどうですか?」


「あ゙ー……」


「大丈夫そうですね」


 戌丸に後ろから抱き締められるように湯船に浸かると、末端からじんわりと温まっていくのがわかって思わずかわいくもない声が漏れる。後ろからくすくす笑われてからしまったなと少し思ったものの、一気に眠気が襲ってきたので彼女の方へ体重を預けた。


「疲れちゃいましたよね、お疲れ様でした。今日はぐっすり休んでくださいね」


 そんな言葉とともに後頭部にちゅ、と口付けられる。


 彼女の腕の中でうとうととしつつそれを享受しながらも、わたしの心は非常に満たされていた。


 好きな人と触れ合うことがこんなにも心地よいことだとは。ある種の感動を覚えながら生返事をすると、彼女はわたしの頭にこつんとあごを乗せた。


「……もっといっぱい、こうしていたいです」


 そう言い頭に頬擦りされて、あぁまた来てもいいってことなのかなとわたしはぼんやりしながらも安心する。


 拒絶されてない。

 嬉しい。

 そんなことで胸がいっぱいになってしまうようだった。


 でも今日はいろいろとあり過ぎて正直もう本当に眠い。このまま寝たい。戌丸に抱き締められると本当に心地がよくて、眠くてまわらない頭で「戌丸抱き枕ほしい」だなんてぽやぽやと考えていた。


 わたしはそんなふうに半ば船を漕いでいるような状態でお風呂から上げられて、そのまま戌丸にされるがまま身体を拭かれて服を着せられる。いけない、こんなことではいけないと頭の片隅で思っているのに、結局抗えないまま帰り支度を整えられてしまった。


 その後の記憶は少し断片的で、次に覚えているのは戌丸の肩にもたれてタクシーに揺られているところ。その後はわたしの部屋の鍵を開けて、部屋に入って、外から戌丸に「鍵! 鍵閉めてください!」と声をかけられてがちゃりと鍵を閉めたところ。


 そしてはっと気がつくとわたしはベッドの上に寝ていて、外は薄らと明るくなり始めていたのだった。

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