第14話 落ち着かない休日(前編)
見知った室内をぐるりと眺めてから身体を起こすと、なんとも妙に全身が気だるい。感じたことのない類のそれに、あれ、昨日ってなにしたんだっけと思い返してみると、昨夜のあれやこれが走馬灯のように一気に脳内を駆け巡りわたしは頭を抱えた。
「……まって、まってまってまって」
昨夜の自身の行動にツッコミどころがあり過ぎて理解が追いつかない。えっ、わたし戌丸となんかとんでもなくすごいことした気がするんだけど。
そしてお店で一緒にお風呂に入ったところまでは確実にわかる。けれどそのあとのことはかなり断片的──だけれどまぁ家に帰ったところまでは飛び飛びとはいえ一応なんとなく記憶が繋がっていた。
けれど一番最後の記憶は、まるでべろべろの酔っ払いのように戌丸に支えられて家まで送り届けられているもので。なんかたぶん、ドア越しに「鍵閉めてー!」みたいなこと言われて閉めたような覚えがある。
いやこれ自己管理ができないダメ人間判定されたのでは、とベッドの上でうおおと唸りながら四つん這いになって身悶える。お酒でもそんなことなったことないのに、前後不覚で誰かに家まで送り届けられるなんて。
しかもそれが好きな人相手で、なんというかもう少しこうスマートな感じにできなかったんだろうかともやもやしてしまう。せめてきちんとお礼を言うとか、次の約束をするとか、あわよくば上がってお茶してもらうとか。
昨日最後に見た戌丸はどんな顔してたんだろう。ドアを閉める前にちらっと見たような気がするけれど、まったく思い出すことはできなかった。
むしろそのことを思い出そうとすればするほど鮮明にそれ以外のことを思い出してもんもんとしてしまい、顔を押さえてベッドを転げ回る。え、すご、すごかった。なんとなく知識としてはあったものの、実際に体験してみると想像以上にすごい世界だった。
世の大人たちは普段からあんなこと普通にしてるんだ、と思春期の中学生のように思ってしまう。もうすべてが衝撃的だったというか、大人の階段を戌丸に手を引かれて全速力で駆け上がってしまった気がした。こんなのもう、知らなかった頃には戻れないじゃん。
ベッドを転げ回り過ぎたのか、昨夜を思い出し過ぎたのか、なんだか身体が熱い。少し大きめなあの手のひらや細長い指先は、どんなふうにわたしの身体に触れていたんだっけ。
ころんと転がりベッドの上で天井を見上げる。一人暮らしだから誰かに見られる心配なんてぜんぜんないけれど、なんだか居心地が悪くて一旦頭まで布団に潜り込んでから目をつむった。
服の裾から手を入れて、お腹の辺りにぺたぺたと手を押し当ててみる。けれどそこにあるのはいつも通りのただのお腹だし、そのまま胸に触れてみても昨日のようになってしまうことはなかった。
不思議に思いながら、なにが違うんだろうと改めて思い返してみる。そうすると、そういえば戌丸は触れるか触れないかくらいそっと優しくわたしに触れていたなと気がついた。
なんだか心臓がうるさい気がする。けれどわたしは好奇心を抑えきれず、布団をぎゅっと握りしめていた手をのろのろと開いた。
そして彼女と同じようにそっと首筋に指を滑らせてみると、思わず情けない声がもれそうになって慌てて手の甲で口をおさえる。同じ要領でそろりそろりと自身の身体へ指をすべらせてみると、昨日ほどではないけれどたしかに肌がぞわぞわと粟立ち、なんだかじっとしていられなくて布団の中でもぞもぞと身体を揺らした。
わたしはごくりと唾を飲み込んでから、両手をゆっくりと胸元へ滑らす。確か昨日戌丸は──そう思い出しながら下着越しにやんわりと膨らみに触れ、わずかに形を変えるようにもにもにと手を動かした。
目をつむってそうしていると、なんだかまた戌丸に触れられているような気がしてくらくらしてしまう。少しずつ大胆になる指先に、布団の中の温度はどんどん上がっているような気がした。
なんだかあつくて頭が回らない。先への期待にふうふうと息をみだしながら、もうすこし、もうすこしだけと恐る恐るぷっくりと膨らんだそこに爪の先で触れようとしたそのとき、枕元で携帯から目覚まし用のアラーム音が鳴り響いた。
「!」
驚いたわたしは慌てて自身の身体からぱっと手を離す。別に悪いことをしているわけではないのになんだか少しバツが悪い。両手で顔を覆いながら、なにやってんだかとベッドから身体を起こしたのだった。




