↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライク・ア・ハリケーン  作者: ままま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/9

風が形を持ち始める

ガレージの扉を開けると、むっとした空気が肌にまとわりついた。

昨日、屋上で名刺を手放したときに胸の奥で吹いた風、その名残が、ここでも静かに揺れている気がした。


ガレージの奥、薄暗い影の中に黒い塊が眠っている。

何年も乗っていないバイク。スズキ GS1200SS 初期型の黒だ。

結婚し、子どもが生まれ、昇進し、背負うものが増えるたびに、少しずつ乗る回数は減っていった。

ここ数年は、たまにエンジンをかけてやるだけ。それでも、手放す気にはならなかった。


ゆっくりと近づき、埃の積もったカバーに手をかける。指先に触れたざらつきが、時間の経過をそのまま伝えてくる。

丁寧に、カバーの下に入った埃がこすれて車体に傷がつかないように、そっとカバーをはがすと、黒い車体が姿を現した。


バッテリーに充電器をつなぐ。充電を待つ間、ガレージの壁にもたれて目を閉じた。



バッテリーを取り付け直し、キーを差し込む。

まだエンジンはかけない。

家族に気づかれないように、そっとバイクを押してガレージを出る。


タイヤがコンクリートを転がる音とチェーンの回る音だけが、静かな住宅街に響いた。

朝の光が射し始めるにはまだ2時間くらいはあるだろう。

家の窓は閉じたままで、誰も彼の背中を見ていない。


路地まで押し出すと、一度だけ家の方を振り返った。

胸の奥で、風が強く吹いた。



キーをONにし、セルスターターのボタンを押す。一瞬置いて、黒い油冷エンジンが低く唸り声を放つ。

気持ちが変わらないことを確認して、ゆっくりと跨がる。

深く息を吸うと肺の奥まで熱い空気が入り込む。



風はもう、ただの気配ではなかった。

彼の背中を押す、確かな力になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。