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第98話:マスター/スレーブ構成の魔女と、ベアメタル(野生)の獣牙

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【旧迷宮(レガシー環境)・第82層】

「あ、ぎゃあぁぁぁっ!!」

「ファイリール様! 早く、早く魔法を……っ! 盾が、もう持ちません!!」


薄暗い迷宮の深層。酸のブレスを吐き出す巨大な多頭蛇ヒュドラを前に、三人の重武装の前衛たちが悲鳴を上げていた。彼らの鎧は酸で溶け、体力(HP)はすでにレッドゾーン(システムダウン寸前)に突入している。


だが、その後方で杖を構える美しいエルフの魔女――『氷炎の魔女』ファイリールは、前衛たちの悲痛なエラーログ(悲鳴)を完全に無視ミュートし、冷徹な瞳で自身の魔力ゲージだけを見つめていた。


「うるさいわね……。あなたたち『使い捨ての肉壁スレーブ・ノード』の役割は、私の演算(詠唱)が完了するまでの時間を稼ぐことでしょう? 壊れるなら、私が魔法を撃ち終わった『後』に壊れなさいな」


ファイリールの杖の先端に、絶対零度の吹雪と紅蓮の炎が恐るべき密度で圧縮されていく。


彼女の戦術思想アーキテクチャは極めてシンプルかつ残酷だ。自分というメインプロセッサ(絶対的な火力)さえ稼働し続ければ、前衛という末端のハードウェアは何度クラッシュしようが、街に戻って新しいものを調達(再デプロイ)すればいい。

防御陣形? 連携? そんな無駄な同期処理ミドルウェアは、彼女の魔法の火力を下げるだけのノイズでしかなかった。


「……演算完了コンパイル・サクセス。用済みよ、退きなさい。巻き込まれて消去デリートされても知らないわよ」


ファイリールが冷酷に言い放つと同時、彼女の杖から極大の『氷炎の暴風フロスト・フレア・ストーム』が放たれた。

「ひぃっ!?」


前衛たちが這う這うの体で左右に飛び退く。直後、凄まじい魔法の奔流がヒュドラの巨体を包み込み、酸のブレスごと複数の首を一瞬で炭化、そして氷砕した。


ズズゥゥン……と、ヒュドラが光の粒子となって消滅する。


「ふん。第82層のボスといっても、私の火力(処理能力)の前にはただの的ね」


ファイリールは杖を優雅に振るい、倒れ伏す前衛たちを一瞥もせずにドロップアイテムを拾い上げた。


(『三律の連環』? あんな冗長化バランスばかり気にしたパーティー、効率が悪すぎるわ。『魔剣神』もそう。たった一人のタンクを過保護に守りながらチャージするなんて、システム設計が古臭いのよ。……最高効率の処理クリアは、強力なマスターノードがすべてを焼き尽くすこと。トップに立つのは、この私よ)

前衛をただの「時間稼ぎのバッファ」としか認識していない冷酷なる魔女は、誰よりも身軽に、そして血も涙もなく迷宮の深層を駆け上がっていく。


 * * *


【旧迷宮(レガシー環境)・第79層】

一方、ファイリールたちの一層下。第79層の広大なフロアでは、全く別の意味で「異常な光景」が繰り広げられていた。


『グルルルルル……ッ!!』


群れを成して襲いかかってくる、敏捷性に優れた上位魔獣『シャドウ・パンサー』の群れ。普通の冒険者であれば、目視することすら困難な超高速の敵だ。

しかし――。


「遅せぇなァ!! そんなレイテンシ(反応速度)じゃ、俺たちの牙には届かねえぞ!!」


ヒュンッ!!

シャドウ・パンサーの群れの中心に、文字通り「不可視の旋風」が吹き荒れた。


魔法の詠唱など一切ない。光の矢など生ぬるい。ただ純粋な『肉体の超絶機動ベアメタル・スピード』だけで、四人の獣人たちがフロアを縦横無尽に跳弾バウンスしているのだ。


彼らこそが、ギルドランキング4位へと急浮上してきた獣人限定パーティー『アニマルズ』。


「オラオラオラァッ!! 魔法なんざチマチマ詠唱コンパイルしてる暇があったら、直接ぶん殴った(実行した)方が早えんだよ!!」


リーダーである狼の獣人、ガロが咆哮を上げながら、パンサーの首を鋭い手甲鉤で瞬時に掻き切る(キルする)。


「右から三匹! リーダー、私がやるわ!」

「任せたぜ、シオン!」


豹の獣人であるシオンが、床、壁、天井を三角形に蹴り渡る超高速のルーティングで敵の死角に回り込み、音速の蹴りで魔獣の頭蓋を粉砕していく。


彼らのシステムには、魔法使いという概念ミドルウェアが存在しない。回復もバフもない。

あるのは「敵が動く前に殺す」「攻撃される前に躱す」という、究極のゼロ・レイテンシ(遅延なし)アーキテクチャだ。詠唱時間という「待ち(ブロック)」が発生する魔法システムを完全に捨て去り、全ステータスを『敏捷(クロック周波数)』に極振りしている。


「『魔剣神』の連中は、立ち止まってチンタラ剣に魔力を溜めてるらしいな。あんな固定砲台レガシー・システム、俺たちのスピードならチャージが終わる前に背中から腹ブチ抜いて終わりだぜ!」


ガロが残心のポーズをとりながら、ケラケラと笑う。


「『氷炎の魔女』も同じだ。詠唱してる間に首を狩れる。……唯一、俺たちのスピード(処理)に追いついてきそうなのは、あの『三律の連環』の双剣使い(ミク)くらいなもんさ。だが、あそこは魔法使いを三人も抱えてるせいで、陣形全体の移動速度スループットが落ちてる」


シオンが爪の血を振り払いながら、ガロの言葉に頷いた。


「ええ。どんなに強い攻撃力(火力)も、当たらなければゼロ(エラー)。最後に迷宮の頂点ルートディレクトリに立つのは、最速の機動(野生)を持つ私たち『アニマルズ』よ」


『アニマルズ』の四人は、回復魔法の支援がないため、傷一つ負うことがクラッシュに直結するという極限の綱渡りをしている。だが、彼らはそのピーキーな仕様スリルを極上のエンターテインメントとして楽しみながら、ただひたすらに最速のクリアタイムを叩き出し続けていた。


――魔法火力の絶対性を信じ、他者を使い捨てる『ファイリール』。

――魔法を不要の長物と切り捨て、純粋な野生の機動力のみを信じる『アニマルズ』。

――そして、重火力のウォーターフォールを極める『魔剣神』。


旧迷宮の深層では今、己の思想アーキテクチャこそが絶対の正解であると信じて疑わない強者たちが、群雄割拠のデッドヒートを繰り広げていた。


彼らがその「極端なシステム」のまま、真・ダンジョンという『あらゆる仕様が狂った新世界』へアクセスした時、一体どんな致命的エラー(悲劇)が待ち受けているのか。


それは、まだ誰も知らない未来のログである。

ファイリールとアニマルズ、それぞれの極端な戦術思想が浮き彫りになりましたが、この後ミクたちの泥臭い「超重力特訓」の成果に戻りましょうか? それとも、少し時間を進めて、この新興勢力たちが迷宮の壁にぶつかる展開を見てみますか?


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

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明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


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