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第93話:アース・エリアの罠と、増大する重力(デバフ)の絶望

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


【真・ダンジョン 第一階層・待機ロビー】

スカイ・エリアという「Z軸(3D空間)解放」の狂気的な反復処理(全20回のループ)を完走した『三律の連環』の七人。


彼らが再びあの丘の入り口から真・ダンジョンの待機ロビーへとアクセスすると、無機質な白い壁面に浮かび上がるシステムウィンドウの内容が更新されていた。


『第一階層・スカイ・エリアの踏破を確認。新規エンドポイントを解放しました。どちらのエリアへ進みますか?』

・スカイ・エリア(Clear)

・アース・エリア(New!)


「アース・エリア……『大地グラウンド』のエリアね。迷わずこっち(新規環境)よ」


ミクがウィンドウを覗き込みながら、画面の【アース・エリア】のボタンをタップ(実行)した。


「あの足場のない空中戦から解放されるなら大歓迎だぜ。俺たちのハードウェア(重装甲)は、地面を踏みしめてこそ100%のパフォーマンスを発揮できるからな!」


ガストンが愛用の大盾をバンッと叩き、ガルドとニヤリと笑い合う。

ゲートが開き、七人は一斉に扉の向こう側へと足を踏み入れた。


――ズシン。

足の裏に伝わる、確かな大地の質量。目の前に広がっていたのは、見渡す限りの広大な荒れ地だった。


「本当に地面があるわ……! 空中戦じゃない、いつもの2次元平面(2D環境)よ!」


ミクが自分の足元を確かめ、ホッと安堵の息を吐き出す。


だが――次の瞬間、ミクのPMとしての鋭いセンサーが、空間全体の奇妙な「違和感」を検知した。


「……? なにか、体が少しだけ重いような……?」


その違和感の正体が分からないまま、前方の空間が歪み、防衛プログラムが起動した。現れたのは、四足歩行の魔物『ストーム・ウルフ』の群れ(第一陣)だった。


「接敵よ! 2次元平面なら私たちの鉄板ロジック(基本陣形)の独壇場だわ!」


ミクの号令と共に、七人は流れるような動作で基本プロトコルを展開した。


前衛アタッカーのヴァレリアをガストンの大盾が護り(フロントエンド保護)、後衛の魔法組をガルドの大盾が護る(バックエンド保護)。ルカの結界がそれぞれの防御を補強し、安全な領域からヴァレリアの戦斧と、ユリウス、アリアの魔法が敵を確実に処理デバッグしていく。


そしてミク自身は遊撃ロードバランサとして戦場を超高速で駆け回り、敵のヘイトをコントロールする。これが彼らの最も完成された戦術だった。


『――Wave 1/7 Cleared.』

微かな違和感を覚えながらも、慣れ親しんだレガシー環境での戦闘により、彼らは難なく第一陣から第七陣までの全ウェーブを無難にクリアしてしまった。

直後、七人の体は引力によって、一旦入り口(待機ロビー)へと排出された。


『Wave 7/7 Cleared. アース・エリア(第1ループ)の処理を完了しました。次のエリア解放まで――残り19回』


「やっぱりここも、20回の反復処理(Forループ)なのね。そのまま次へ進むわよ!」


ミクは再び【アース・エリア】を選択し、二回目の扉を開けて突入した。

だが、第2ループの荒野に降り立った瞬間、ミクの肌を刺す「違和感」は、先ほどよりも明らかに大きくなっていた。


『――アース・エリア、第2ループを開始します。環境変数を更新』


再びストーム・ウルフの大群がスポーンする。


「私がヘイトを集めるわ!」


ミクが前線に飛び出そうと、地面を蹴った。……しかし。


(えっ……!? 足が、前に出ない……!)

ミクの驚愕を余所に、ストーム・ウルフたちは凄まじいスピードで突進してくる。

ミクは慌てて双剣を構えるが、自身の体の動き(フレームレート)が明らかに遅く、敵の突撃スピードに置いていかれそうになる。


「くっ! 敵のスピードが上がってる……!?」


ミクは冷や汗を流しながらも、PMとしての意地でなんとか攻撃を躱し、どうにか第2ループをクリアした。

入りロビーに戻されたミクは、首を激しく捻った。


「……おかしいわ。敵が急に高速化したみたいだった。……気を引き締めていくわよ。第3ループ、突入!」


そして――【第3ループ】。

その空間に足を踏み入れた瞬間、ミクの機動力は完全に「ゼロ(フリーズ)」に等しい状態へと陥った。


「なっ……体が……鉛みたいに重い……っ!?」


ミクの悲鳴と共に、ストーム・ウルフたちが四方八方から襲いかかってくる。

ミクはいつものように高速移動でヘイトを稼ごうとするが、足が地面に縫い付けられたように動かない。高速移動というミク最大の武器アジリティが、完全に奪われていたのだ。


対するウルフたちは、ミクの目には『圧倒的な高速』で移動しているように見えた。

ミクが動けないため、ヘイトの管理ルーティングが完全に崩壊する。ウルフたちは的にならないミクを無視し、ヴァレリアや後衛の魔法組へ向けて一斉に群れを成して襲いかかった。


「キャアッ!?」

「くそっ、ガルド! 後衛を死守しろ!」

「うおおおッ! 盾が……持ち上がらねえッ!」


ヴァレリアを護るガストンも、後衛を護るガルドも、大盾を構える動作が極端に遅れ、敵の猛攻を捌ききれない。強固だった二つの防御陣(盾の冗長化)が分断され、パーティーの基本陣形が完全に崩壊した。


七人は互いの体を泥臭く寄せ合い、ただ「全滅クラッシュしないこと」だけを目的に、祈るような気持ちで武器を振り回し続けた。


数時間にも及ぶ凄惨な乱戦の末、どうにか最後の一匹を消去キルすることに成功したが、七人は全員が床に崩れ落ち、這う這うの体となっていた。


『Wave 7/7 Cleared. 第3ループの処理を終了します』


「ぜぇ……はぁ……! だ、ダメよ……」


ロビーへ戻されたミクは、ガタガタと震える手で自身の足を叩いた。


「私の足が完全に止まった……。この苦戦エラーの原因をデバッグしない限り、次は確実に全滅するわ。……一旦、ギルド(ローカル環境)に戻って対策を検討しましょう」


 * * *


【迷宮都市・『三律の連環』の拠点】

ギルドの拠点に戻ったミクとユリウスは、すぐさま戦闘中の一連のシステムログを展開し、原因究明に没頭していた。


「……おかしいわ。魔物たちの速度がどんどん上がっていたように見えた。でも、それなら私以外のメンバーももっと翻弄されていいはずよ」


ミクが険しい顔でログの数値を睨みつける。


「いや、ミク。君の感覚は間違っていないが、因果関係ロジックが逆だったんだ」


ユリウスが解析データを指差した。


「魔物たちのスピードが上がったんじゃない。……私たちの『身体』が、物理的に重くなっていたんだ。このアース・エリアの正体は――『増大する重力』だよ」

「重力……!?」


ミクが弾かれたように顔を上げた。


「そうだ。第1ループでは基本の【1.1倍】、第2ループでは【1.3倍】、そして私たちが陣形を崩された第3ループでは【1.5倍】というように、ループ処理が回るごとに、空間全体の重力定数が引き上げられていたんだ。……魔物たちはその重力環境で生きている(ネイティブ対応している)から、スピードは落ちない。だが、人間である私たちは違う」


ユリウスの言葉に、ミクは雷に打たれたようにすべての辻褄(仕様)を理解した。


「段々強くなる重力が、私の『高速移動』という特性を物理的に奪っていたのね……。だから私が前線でヘイトを稼ぐ戦術が成り立たなくなり、前衛と後衛を護るガストンたちの負担が限界を超えてしまったんだわ」


ミクは悔しさに唇を噛み締めた。

敵の動きをコントロールできなければ、ヴァレリアも攻撃の隙を作れず、後衛の魔法も的を絞れない。

高速移動できないPMなど、ただの動けないデコイでしかない。このまま重力が増し続ければ、次は立っていることすらできなくなる。


「どうすればいいの……。私の足が止まったら、私たちの基本陣形は機能不全デッドロックに陥ってしまうわ」


アース・エリアに仕掛けられた、絶対的な環境変数バグの罠。

己の最大の強みを完全に封じられたミクは、次なる攻略の糸口を全く見出せないまま、ただ沈黙するしかなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

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明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


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