第90話:新興勢力『魔剣神』の同期処理(ウォーターフォール)と、一撃必殺のアーキテクチャ
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【迷宮都市・冒険者ギルド】
這う這うの体で『真・ダンジョン』の第一階層から帰還し、ギルドのカウンターに寄りかかって荒い息を吐く『三律の連環』の七人。
ギルドマスターへの極秘の報告を終え、ようやく重い腰を上げて休養に入ろうとしたその時だった。
「天下の『三律の連環』様ともあろうお方たちが無様なことだな。その程度のことでまごまごしているなら、すぐに俺たち『魔剣神』が追い抜いてやるぞ」
背後から、ひときわ大きく、そして自信に満ち溢れた声(未認証のPing送信)が飛んできた。
振り返ると、そこには豪華な装飾が施された真新しい鎧に身を包み、腰に立派な魔剣を帯びた若い剣士――マルコが、仲間たちを引き連れて不敵な笑みを浮かべて立っていた。
マルコ率いる『魔剣神』。最近、破竹の勢いで迷宮の階層レコードを更新し、若手の中で最も波に乗っていると噂の気鋭のパーティーである。
「あぁん? なんだとテメェ……!」
「アタシらが今、どんな目(エラーまみれの環境)に遭ってきたか知りもしないで……叩き斬ってやるよ!」
極度の疲労とストレスで気が立っていたガストンとヴァレリアが、即座に武器を返そうと睨みつける。
だが、それをミクとユリウスがスッと手で制した。
「やめなさい、二人とも。無駄なトラフィック(口論)でリソースを消費している余裕はないわ。……それに、彼らもようやく『第73層』をクリアして、気が大きくなっている(ハイになっている)時期なのよ」
ミクはマルコの挑発を完全に無視(タイムアウト処理)し、仲間たちを促して足早にギルドの出口へと向かった。
真・ダンジョンの『Z軸(3D空間)解放』という別次元の理不尽を味わってきた彼らにとって、旧迷宮(基本環境)の第73層など、もはや「遠い過去のチュートリアル」でしかなかったのだ。
「フン、逃げたか。……まあいい、俺たちのこの最強の陣形なら、奴らを追い抜くのも時間の問題だぜ」
マルコは遠ざかるミクたちの背中を見送ると、自らのパーティーメンバーたちと誇らしげに笑い合った。
彼ら『魔剣神』が、どのようにして第73層という深層の壁を打ち破ったのか。
少しだけシステムログを巻き戻し、彼らの戦いっぷり(プロセス)を追ってみよう。
* * *
【システムログ再生:数日前の迷宮・第73層】
『ゴォォォォォォォォッ!!』
第76層の階層主――『業火の魔獣・ベヒーモス』。
全身からマグマのような高熱を放ち、分厚い黒曜石の装甲に覆われた巨大な四足獣である。
対する『魔剣神』のパーティー構成は、計六人。
リーダーのマルコを含む『魔剣士』が二人。
敵の攻撃を受け止める『タンク』が一人。
後方から火力を出す『攻撃魔法使い』が一人。
そして、回復と強化を担う『支援魔法使い』が二人。
彼らの戦術は、驚くほどシンプルかつ古典的――システム開発で言えば、完全に手順が固定化された『ウォーターフォール・モデル(同期処理)』であった。
「ドーガ! 絶対に一歩も引くな! 支援組、ドーガにバフ(リソース)を全集中させろ!!」
「おうッ! 抜かせねえぞ!!」
マルコの怒声に合わせ、全身を重装甲で固めた巨漢のタンク・ドーガが大盾を地面に突き立てる。
ベヒーモスが放つマグマのブレスと強烈な突進(極大トラフィック)が、ドーガ一人へと集中的に降り注ぐ。
「『ヒール』! 『プロテクト』!!」
「『リカバリー』! 盾の耐久値を維持します!!」
後方に控える二人の支援魔法使いが、持てる限りの回復と防御バフ(メモリの割り当て)を、すべてタンクであるドーガただ一人へ注ぎ込み続ける。
敵のあらゆる攻撃を、たった一つの物理サーバー(タンク)と冗長化された支援で強引に受け止め、耐え凌ぐ。これが彼らの防御プロセスのすべてだ。
「よし、ヘイト(ターゲット)は完全に固定された! ザック、牽制を頼む!」
「了解だ! 『氷柱の矢』!!」
攻撃魔法使いのザックが、ベヒーモスの視界を塞ぐように氷の魔法を連続で放ち、敵の動きを僅かに遅延させる。
その間、パーティーの絶対的エースである二人の魔剣士――マルコとサブリーダーのレオンは、戦闘の最前線から少し離れた安全地帯で、自らの剣に莫大な魔力を流し込み始めていた。
「「…………」」
彼ら二人は動かない。
タンクが死に物狂いで敵の攻撃に耐え、支援魔法使いが魔力を枯渇させながらヒールを回しているその間に、魔剣士たちはただひたすらに自身の魔力ゲージ(実行ペイロード)を100%になるまで溜め(コンパイルし)続けるのだ。
「ドーガ、まだ耐えろ! 魔力チャージ、現在80%……!」
マルコの剣が、激しい雷光を帯びてバチバチと鳴り始める。
「ぐおおおっ……! は、早くしてくれリーダー! 装甲が溶けそうだ……ッ!!」
ドーガの重鎧がベヒーモスの熱線で赤熱し、支援魔法使いたちも息を上げ始める。
これこそが『魔剣神』のアーキテクチャの最大の弱点。
強力な一撃を放つまでの待機時間(同期ブロック)が長すぎること、そしてその間、すべての負荷(Single Point of Failure)がタンク一人に集中してしまうことだ。もしここでドーガの処理能力(耐久値)がオーバーフローすれば、パーティーは即座に崩壊(全滅)する。
しかし、このギリギリの綱渡り(ボトルネック)を耐え抜いた先にこそ、彼らの強みがあった。
「……チャージ完了!! 行くぞレオン!!」
「応ッ!!」
魔力ゲージが100%に達した瞬間。
マルコとレオンは、大地を蹴って爆発的な速度でベヒーモスの両側面へと飛び出した。
「もらったぜ……! これが俺たちの、一撃必殺だ!!」
「『双雷の魔剣』!!」
二人の魔剣士が同時に跳躍し、極限まで圧縮された雷の魔力を宿した二振りの魔剣が、ベヒーモスの黒曜石の装甲へと十字に叩き込まれた。
ドゴォォォォォォォンッ!!!!
迷宮を揺るがす凄まじい轟音。
タンクが耐え、支援が支え、そのすべての時間を担保にして練り上げられた、魔剣士二人による最大火力の同期実行(バースト処理)。
その圧倒的な一撃は、第73層ボスの分厚い装甲ごと、内部のコアを完全に粉砕した。
断末魔の咆哮を上げる間もなく、ベヒーモスは巨大な光の粒子となって崩れ去っていく。
「ふぅ……。決まったな」
マルコが魔剣を鞘に収め、ドヤ顔で息を吐く。
「やったぞ! 第76層、クリアだ!!」
「さすがリーダーの一撃! どんな装甲も紙切れみたいだぜ!」
タンクのドーガがその場にへたり込み、支援魔法使いたちが歓喜の声を上げる。
彼らの戦術は、決して洗練されているとは言えない。
ミクたち『三律の連環』のように、アジャイル(俊敏)に陣形を変え、負荷を分散させ、コンマ数秒の連携で敵の処理を完封するような美しさはない。
タンクがすべての攻撃を強引に受け止め(同期ブロック)、その間に魔剣士が超火力のプロセスを準備し、最後は圧倒的な力業で敵の処理を強制終了させる。
極めて泥臭く、しかし条件さえ整えば絶大な威力を発揮する『重火力特化型のウォーターフォール・アーキテクチャ』。それが『魔剣神』というパーティーの正体であった。
「ハハハッ! この戦法なら、どんな階層主が来ようと、俺たちの魔剣で一刀両断だ! 待ってろよ『三律の連環』……すぐに俺たちが、トップ(管理者権限)の座を奪ってやるからな!」
第76層のクリアという実績に酔いしれ、意気揚々と迷宮を後にするマルコたち。
彼らはまだ知らない。
自分たちが誇る「敵の攻撃を一つの盾で受けて耐える」という静的なロジックが、足場すら存在しない真・ダンジョンのような『狂気の全方位3D空間(バージョン2.0環境)』では、開始1秒で破綻してしまうという残酷な事実を。
ギルドでミクたちが見せた「無関心」は、決して逃げではなく、見ている世界(次元)がすでに全く違っていたからこその、沈黙(パケット破棄)だったのである。
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