第88話:未認証エンドポイント(謎の入り口)と、Z軸(3D空間)の解放
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【第三部・真迷宮(バージョン2.0)編 開幕】
あの規格外の特権プロセス魔獣『カーネル・ガーディアン』を撃破し、アリアを無事に救出してから数ヶ月。
迷宮都市は、かつてないほどの平穏(安定稼働)な保守運用フェーズに包まれていた。
だが、システムのアップデートというものは、常にユーザーの予期せぬタイミングで実装されるものである。
ある日、既存の迷宮の入り口から少し離れたなだらかな丘の上に、突如として『見慣れない石造りの出入り口』がポップ(出現)した。
当然、未知のドロップアイテムや新階層を求めて、数多の冒険者たちがその入り口へと殺到した。しかし――誰一人として、その中へ入ることはできなかった。
入り口の前に立つと、空中に半透明のウィンドウが浮かび上がり、こう表示されるのだ。
『――【エラー(401 Unauthorized)】。アクセス権限がありません。認証キーを提示してください』
「認証キー(なにか)を提示しろ」と言われても、それが何なのか誰にも分からない。
当然、都市最強のシステムを誇る『三律の連環』の七人も調査に向かったが、結果は同じエラーメッセージに弾かれるだけだった。
「……なんだか、実装途中の隠しダンジョン(テストサーバー)みたいね」
ミクが首を傾げ、ガストンが大盾で入り口を叩いてみたが、物理的な干渉すら受け付けない。
結局、誰もアクセスできないその謎の入り口は、数週間のうちに話題にも上らなくなり、冒険者たちから「ただのオブジェ(非公開API)」として完全に放置されるようになっていた。
* * *
それからしばらく経ったある日のこと。
冒険者ギルドで談笑していたミクたちの元へ、ギルド職員が一通の封書を持ってきた。
「ミクさん、あなた達のパーティー宛てに、差出人不明の小包が届いていますよ」
「私たちに? なにかの報酬かしら」
ミクが不審に思いながら封を開けると、中から出てきたのは『七つの星型のペンダント』と、一枚の短いメッセージカードだった。
『――システム要件を満たしたパーティーに、アクセス権限を発行します。あの丘の入り口でお使いください』
「これって……!」
「間違いない、あの『弾かれる入り口』の認証キーだ!」
ユリウスがペンダントを手に取り、目を輝かせる。
アリアが救出され、七人体制の究極のアーキテクチャが完成した彼らのシステムは、完全にエネルギーを持て余していた。
未知の新環境への招待状を前に、彼らが断る理由などどこにもない。ミクたちは即座にフル装備を整え、あの放置されていた丘の入り口へと再びやってきた。
「全員、ペンダント(認証キー)を持ったわね? 行くわよ!」
ミクを先頭に、七人が入り口の前に立ち、星型のペンダントをかざす。
すると――今まで頑なにアクセスを拒絶していた入り口が、美しい七色の光(正常なレスポンスコード)で激しく点滅を始めた。
『――【認証完了(200 OK)】。アクセスを許可します』
次の瞬間、凄まじい吸引力(リダイレクト処理)が七人を包み込み、彼らの体は入り口の奥底へと一瞬にして吸い込まれていった。
* * *
「きゃあぁぁぁっ!?」
「うおおおっ、転送座標がブレて――痛っ!」
光のトンネルを抜け、七人が尻餅をつくようにして実体化したのは、見知らぬ無機質な白い空間(待機ロビー)だった。
「……みんな、無事!? ここは……」
ミクが立ち上がり、周囲を見渡す。そこには、空中に浮かぶ巨大なメッセージボード(リリースノート)が掲げられていた。
『おめでとうございます。ダンジョンを攻略したあなた達を、この【真・ダンジョン】にご招待します。是非楽しんでいってくださいね』
「真・ダンジョン……!? じゃあ、私たちが今まで命懸けで攻略してきたあの迷宮は……!」
アリアが信じられないというように口元を覆う。
「ただの『チュートリアル(基本環境)』だったってことかい。……最高に悪趣味な開発者だな、オイ!」
ヴァレリアが、新調したばかりの戦斧を肩に担いで獰猛に笑う。
「愚痴を言っても始まらないわ。未知の環境変数に飛び込む覚悟は、最初からできているはずよ!」
ミクが双剣を引き抜き、ロビーの奥にある最初の重厚な扉に手をかけた。
「システム起動! 第一階層、突入するわよ!!」
重い扉を押し開け、七人が一斉に中へと飛び込む。
しかし、彼らの足は「地面」を捉えることはなかった。
「えっ……!?」
「う、うわぁぁぁぁっ! 足場がねえぞぉぉぉッ!?」
扉の向こうに広がっていたのは、迷宮の薄暗い通路などではなく、見渡す限りの青空と白い雲が広がる『完全なる空中空間』だったのだ。
放り出された七人は、遥か下方に広がる見知らぬ大地へ向けて、真っ逆さまに自由落下していく。
「ルカさん!! 飛行魔法を!!」
「無理だ!! 私の魔力出力では、七人全員の高度を維持するなんて――っ!?」
目をギュッと瞑って死を覚悟したアリア。だが、数秒落下したところで、彼らの体はフワリと見えないクッションに包まれるように空中で静止した。
「……あれ? 浮いてる……?」
「おい見ろ! 念じただけで、体が勝手に空を……!」
ガストンが大盾を構えたまま、不器用なフォームで空を犬掻きするように泳ぎ始める。
なんとこの空間では、重力という物理法則が書き換えられており、誰もが自由に空を飛べる仕様(Z軸の解放)になっていたのだ。
「す、すごいですミクさん! 私、空を飛んでます!」
アリアが両手を広げ、炎の推進力を使ってくるくると嬉しそうに宙返りをする。
「ハハハッ! こりゃあいい! 足場の悪さ(地形のバグ)を気にする必要がねえってことだ!」
ヴァレリアも空中を縦横無尽に駆け回りながら大はしゃぎだ。
七人が予期せぬ3D空間での飛行(自由移動)を楽しんでいた、まさにその時。
『――新規セッション(接敵)を検知。防衛プログラムを開始します』
空の彼方、無数の雲の切れ間から、禍々しい影が幾つも飛び出してきた。
それは、翼の生えた『ガーゴイル』や、風を纏った『ウィンド・ウルフ』など、かつての迷宮で散々戦った見慣れた魔物たちの群れ(第一波)だった。
「来るぞ! 陣形を展開しろ!」
ガルドが最後尾で叫ぶ。
「待って、陣形って……上からも下からも来るわよ!? 今までの平面陣形(2Dロジック)じゃ対応しきれない!」
ミクが空中で双剣を構えながら、かつてない焦燥の声を上げた。
これまでの迷宮(平面空間)では、前衛の二人が前に立ち、後衛を守るという『平面的(直線的)なファイアウォール』で事足りていた。
だがここは360度、球体のように敵が押し寄せてくる完全なる3D空間。上下左右、すべての死角から魔物たちが牙を剥いて突っ込んでくる。
「アリア、ユリウス! 上下(Z軸)の迎撃は任せたわ! ガストン、ガルド、ルカさんは球状の防壁を形成して!」
ミクが、前例のない3D空間でのルーティング(ヘイト管理と指示)を瞬時に編み出し、超高速で空中を飛び回りながら指示を飛ばす。
「慣れない制御で酔いそうだぜ……ッ! うおおおおッ!!」
ガストンが空中で姿勢を制御しきれずクルクルと回転しながらも、強引に大盾を振り回してガーゴイルの突進を弾き飛ばす。
「『焦熱の火球』!」
「『紫電の槍』!」
アリアとユリウスが、まるで空飛ぶ固定砲台のように背中合わせになり、上下から迫る魔物たちを次々と撃ち落としていく。
足場がないため、踏み込みの力(物理演算)が乗らないヴァレリアも、戦斧を空中で振り回して遠心力で無理やり敵を両断していく。
「ハァ……ハァ……! なんて理不尽な環境変数なの……!」
七人全員が、今まで培ってきた地上戦のロジックを強制的に書き換えられながらも、泥臭く、しかし必死に連携を繋ぎ合わせ、なんとか第一陣の魔物の群れを完全に撃退することに成功した。
「ふぅ……! や、やったわね……」
ミクが空中で息をつき、汗を拭う。
しかし、システム管理側は彼らに休む隙など与えてはくれなかった。
「……おいPM。嘘だろ、あっちを見ろ」
ユリウスが、絶望的な声で前方の巨大な積乱雲を指差した。
雲の壁が割れ、そこから先ほどの三倍以上の数に膨れ上がった、魔物の『第二陣』が姿を現したのだ。
無限に繰り返されるループ処理。
「……このまま、私たちが落ちる(リソースが尽きる)まで、この空中戦を繰り返すってこと……!?」
未だ飛行の制御(コントローラーの操作)すら完全に掌握しきれていない3D空間で、絶え間なく押し寄せる大群。
真・ダンジョンが牙を剥く『完全なる別次元の理不尽』を前に、『三律の連環』の七人は再び決死の陣形を組み直すのだった。
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