第87話:最強の七人(フル・スタック)の帰還と、秘匿されたバックエンド(第二部 完)
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【迷宮都市・冒険者ギルド】
突如としてギルドホールの転送陣が眩い光を放ち、七つの影が実体化した。
「……あ、アリアちゃん!?」
「おい、『三律の連環』が帰ってきたぞ……!!」
静まり返っていたギルドホールが、数秒の硬直を経て、どよめきに包まれる。
ボロボロの防具と欠けた武器をぶら下げた六人の中心で、アリアが一歩前へと進み出た。彼女はその場にいたギルド職員や、見知った冒険者たちの顔を一人一人見渡し、大粒の涙をポロポロとこぼしながら深く頭を下げた。
「みんな……っ。私の未熟さのせいで、ギルドの皆さんにも、本当にたくさん心配をかけてしまって……ごめんなさい! でも……無事に帰ってこられました……っ!」
涙声で、それでも気丈に放たれたアリアの言葉。
その痛いほどに真っ直ぐな謝罪と生還の報告に、ギルドホールは割れんばかりの大歓声と温かい拍手に包まれた。
「よく無事で帰ってきたな、嬢ちゃん!」
「ガストンたちもボロボロじゃねえか! よくやったぜ!!」
歓声の中、ギルドマスターが群衆をかき分けてミクたちの前へと歩み寄ってきた。
「アリアを無事に取り戻したことは喜ばしいが……一体、どの階層まで潜ってきたんだ? お前たちの魔力波長、第70層を超えたあたりから完全にギルドの観測網から消えていたんだぞ」
呆れと心配の入り混じった顔で問いかけるギルドマスターに対し、ミクは無言でインベントリから『一つの巨大な魔石』を取り出し、ギルドのカウンターにゴトンッと置いた。
それは、凄まじい密度で四つの属性の魔力を放つ、未知の極大魔石だった。
「こ、これは……!? 見たこともない純度の魔石だぞ。どこの階層主からドロップしたんだ!?」
「……第99層。迷宮最強の門番、『カーネル・ガーディアン』の魔石よ」
「きゅ、きゅうじゅうきゅうそうぅぅぅッ!?」
ミクの平坦な報告に、ギルドマスターが目玉を飛び出させて絶叫した。周囲の冒険者たちも「嘘だろ!?」「未知の領域じゃねえか!」とパニックに陥る。
「お、お前たち……! 無茶苦茶な連中だとは思っていたが、まさかそんな狂気の深層まで潜って、生きて帰ってくるとは……! ミク、お前の指揮(進行管理)はどうなってるんだ!?」
ギルドマスターが震える声でミクを見る。
「私なんて、ただ無茶な指示(要件)を投げ続けて、一番前で逃げ回っていただけよ」
ミクは苦笑しながら、肩を竦めた。
「どんな理不尽な状況に放り込まれても、絶対に諦めずに最適解を出し続けてくれた……みんなの『生還への執念』と『適応力』が凄かったの。私一人じゃ、70層の時点で間違いなく全滅してたわ」
ミクは誇らしげに仲間たちを見渡した。
ガストンやヴァレリアたちが照れくさそうに笑い、ルカとユリウスが静かに頷き合う。彼女は決して自分の功績を誇るのではなく、ただこの「最高のチーム」を誇っていた。
その後の報告会で、ギルドマスターはアリアに「最深部で何があったのか」「誰に攫われ、何を見たのか」を問い詰めた。
しかし、アリアは困惑したように首を傾げるばかりだった。
「それが……よく覚えていないんです。頭の中にモヤがかかっているみたいで……私が捕まっていた場所の風景や、魔族たちの顔や会話の記憶が、すっぽりと抜け落ちて(改ざんされて)いて……」
魔族の管理者によって施された記憶消去は完璧だった。
世界の根幹に関わる「遊園地」という重大な仕様は、彼女の脳内から綺麗にアンインストールされている。
「でも、一つだけ絶対に覚えていることがあります!」
アリアは顔を上げ、ミクたちを真っ直ぐに見つめて、パッと花が咲くような笑顔を見せた。
「みんなが、私を助けるために死に物狂いで戦ってくれたこと! モニター……みたいな不思議な視界から、みんなの姿をずっと見ていました。……本当に、本当にかっこよかったです!」
その言葉に、前衛の男たちが「おうっ……!」と顔を真っ赤にしてそっぽを向き、ルカが「君に心配をかけるようなシステムではないさ」と優しく微笑む。ミクは嬉しさのあまり、再びアリアにギュッと抱きついた。
「アリアが戻ってきてくれた。これでようやく、私たちのパーティー(システム)は完成よ」
ミクが力強く宣言する。
事実、『三律の連環』の七人は、迷宮を攻略するための究極のアーキテクチャ(構成)に行き着いていた。
強烈なヘイト管理で敵の処理を操るミク(PM・ロードバランサ)。
どんな理不尽な攻撃も完全に弾き返す、ガストンとガルドの絶対防壁(冗長化物理サーバー)。
敵の行動を予読し、弱点を的確に突くユリウスの頭脳。
味方を完璧に保護し、前処理を行うルカの結界。
そして――いかなる強固な装甲をも物理的に粉砕するヴァレリアの戦斧(前衛火力)と、すべてを灰燼に帰すアリアの火炎(後衛火力)。
前衛と後衛の火力が完全に揃い、頭脳と物理の盾がそれを完璧にサポートする。最強の七人パーティー(フルスタック・エンジニア集団)が、ここに誕生したのである。
* * *
その頃。
迷宮の最深部、第100層――『コントロール・ルーム』。
「……ふぅ。転送陣からのアクセス切断を確認。奴ら、完全に地上へと帰還しました」
水晶モニターを監視していた魔族の一人が、ドッと疲れた声で報告した。
その言葉を聞いて、部屋にいたすべての魔族たち――そして巨大な体躯を持つ管理者が、その場にへたり込んで滝のような冷や汗を拭った。
「た、助かったぁぁっ……! あと一歩で、我々がサボって雑談しているバックエンドの裏側を、人間の冒険者どもに見られるところだったぞ……!」
「ええ……! あの異常な連中を前に、アリアを空き部屋に移動させて『敢えて逃がす(解放する)』という判断……見事な危機回避でした、チーフ!!」
部下の言葉に、管理者の魔族は「当然だ」とばかりにふんぞり返った(膝はまだ少し震えていたが)。
「創造主様が作られた『人間が楽しむための遊園地』という世界の根幹仕様……。その情報流出を防ぐためならば、特権プロセスの魔獣一匹や、囚人の一人くらい安い犠牲だ」
魔族たちは「さすがチーフ!」「我らの管理体制は盤石だ!」と、互いの健闘(隠蔽工作の成功)を称え合って祝杯を上げ始めた。
人間を滅ぼすための迷宮(と信じられている場所)の最深部で、魔族たちが「人間にバレなくてよかった」と安堵の息を漏らしているという、なんとも滑稽な真実。
しかし、その真実を知る者は、地上にはまだ一人もいない。
最強の適応力を手に入れた『三律の連環』の七人と、迷宮の奥深くに隠された『創造主』の謎。
システム運用の日常の裏側で、彼らを巻き込む次なる仕様変更(大波)は、静かに、だが確実に迫りつつあった。
【第二部・システム復旧と最強のアーキテクチャ編 完】
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