第83話:再利用データ(ボスラッシュ)と、黒死竜のインスタンス化
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第77層のカオス・テストを完璧な適応力で乗り越えた『三律の連環』。
その後も彼らの進撃は止まらず、最適化され尽くしたシステムは迷宮の深層を次々と踏破していった。
そしてついに、アリアが囚われているであろう大台の第100層を目前に控えた、第92層へと到達した。
そこは、ひび割れた大地と枯れ果てた巨木が点在する、荒涼とした荒野のエリアだった。
「……信じられないな。私のセンサーがバグを起こしたのかと疑うレベルだ」
第92層に足を踏み入れた途端、前方の空間をスキャンしていたユリウスが、かつてないほど険しい表情で杖を握り直した。
「どうしたの、ユリウス。未知の環境デバフ?」
ミクが双剣の柄に手をかけながら尋ねる。
「いや、違う。前方の開けた空間を、複数の魔物が徘徊しているんだが……その魔力波長が、すべて『規格外』だ。……ミク、あれを見てみろ」
ユリウスが指差した荒野の先。
そこには、四本の巨大な腕を持つ『剛腕の狂猿(第50層ボス)』と、全身が硬質な鉱石で覆われた『クリスタル・ゴーレム(第70層ボス)』が、まるでその辺の雑魚モブのように、のっそりと並んで歩き回っていたのだ。
「ウソだろ……!? あいつら、前に俺たちが死に物狂いで倒した『階層主』じゃねえか!!」
ガストンが驚愕に目を見開き、大盾を構える手にも思わず力が入る。
「……なるほどね。迷宮の運営側も、この深さになってくると新規の敵データを作るのを手抜きし始めたってわけね」
ミクは冷や汗を拭いながら、その異常な光景の仕様を瞬時に理解した。
「かつてのボス魔物のデータを再利用(リソース流用)して、一般の魔物として量産(インスタンス化)しているのよ。つまりここは、過去の強敵たちが無限にリスポーンしてくる『ボスラッシュ・フロア』よ!」
「ガハハッ! そりゃあ傑作だ! 昔は一匹倒すのに何日も準備してたってのに、今じゃその辺をウロウロしてるタダの的扱いかい!」
ヴァレリアが、恐怖するどころか獰猛な笑みを浮かべて戦斧を肩に担ぐ。
「……笑い事じゃないぞ、ヴァレリア。一体一体の処理能力は間違いなく当時のボスクラスだ。それが群れを成して徘徊しているんだぞ。少しでもヘイト管理をミスれば、即座に処理落ち(全滅)だ」
ルカが冷静に警告を発するが、その口元にも微かな笑みがこぼれていた。
「でも、ルカさん。逆の視点(見方)をすれば、これほど美味しい環境もないわよね?」
ミクが不敵に笑い、双剣をチャキッと鳴らした。
「ボスクラスの魔物がそこら中にリスポーンするってことは、倒せば当然、当時の『ボス報酬』が手に入るってことよ。……最高効率の経験値稼ぎ(レベリング)と、超レア素材のファーミングにはうってつけの狩場じゃない!」
「違いねえ! アリアを助け出す前の、最後の総仕上げ(ビルド)には最高の環境だぜ!」
ガルドも最後尾で大盾をバンッと叩き鳴らした。
「陣形展開! 絶対に囲まれないよう、一体ずつ確実に釣り出して各個撃破(シングルタスク処理)するわよ!」
ミクの号令と共に、『三律の連環』はボスラッシュという異常な高負荷環境へと飛び込んでいった。
かつては全滅の危機に瀕しながら倒した階層主たち。だが、今の彼らの連携の前では、もはやただの『少し処理の重いタスク』に過ぎなかった。
ルカの水魔法で動きを遅延させ、ユリウスの雷撃で装甲の脆弱性を突き、ガストンとガルドが一切の攻撃をシャットアウトし、ヴァレリアとミクが確実なキルプロセスを実行する。
信じられないほどの速度でかつてのボスたちが光の粒子へと還り、彼らのインベントリは見たこともない速度で極上のドロップアイテムと莫大な経験値で埋め尽くされていく。
「……ハァ、ハァ……! いいペースよ! このまま次の区画へ――」
ミクが進軍を指示しようとした、その時だった。
空を覆い隠すほどの巨大な影が、荒野に落ちた。
『ギシャァァァァァァァァッ!!!!』
空気を震わせる絶望的な咆哮。
見上げた彼らの頭上を旋回し、ズシンッと重々しい音を立てて前方に降り立ったのは――全身から漆黒の瘴気を立ち上らせる、伝説級の厄災。
「……マジかよ。あんなバグみたいな存在まで、一般モブとしてリスポーンしてやがるのか……!」
ガストンが顔を引き攣らせる。
『黒死竜』。
かつて多くの冒険者パーティーを壊滅させ、迷宮内で遭遇すれば「絶対撤退」が推奨される、理不尽の化身。それが今、第92層の「ただの徘徊エネミー」として彼らの前に立ち塞がったのだ。
「PM! どうする!? さすがにアレを相手にするのは、処理のキャパシティを超えるぞ!」
ユリウスが即座に撤退のルート(エスケープシーケンス)を計算し始める。
だが、前衛の最前線に立つミクは、一歩も後ろへは下がらなかった。
「……逃げないわ」
ミクは双剣を強く握り直し、漆黒の巨竜を真っ直ぐに見据えた。
「アレを倒せば、間違いなく莫大な経験値が手に入る。……それに、この先アリアを助け出す中枢で、これ以上の理不尽な暴力が待っていない保証はどこにもないわ。なら――今ここで、私たちのシステムが『黒死竜の理不尽』すらも上回っていることを証明するべきよ!」
「……言ってくれるぜ。アタシらなら、あの黒トカゲも解体できるってか!」
ヴァレリアが嬉々として戦斧を構える。
「ルカさん、ユリウス! 瘴気対策の防壁を最大出力で展開! ガストン、ガルド、初撃のブレス(極大負荷)は二人の大盾を重ねて受け止めて! 私が隙を作って、ヴァレリアの極大火力を叩き込むわよ!!」
「「「了解!!」」」
かつては絶望の象徴であった黒死竜の咆哮に対し、今の彼らは微塵も怯むことなく、完璧な陣形と圧倒的な自信を持って正面から激突する。
幾多の致命的なエラーを乗り越え、最強の適応力を手に入れた『三律の連環』にとって、もはや処理できないエラー(敵)は存在しなかった。
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