第8話:水術師の証明と、基礎連携のすり合わせ
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翌日。仮採用となったルカを加えた四人は、迷宮11層の石造りの通路を歩いていた。
「前方から魔物の反応。アーマー・オークが三匹よ」
通路の奥から響く重い足音を察知し、ミクが短剣を抜いて姿勢を低くする。
そして、後ろを歩くルカとアリアに向かって即座に指示を出した。
「ちょうどいいわね。ルカ、アリア。あの三匹が一直線に並んだところを私が足止めするから、昨日の酒場で言っていた『水蒸気爆発』のテストを――」
「ストップだ。回避盾のお嬢さん」
ミクの効率重視な提案を、ルカが呆れたような声で冷酷に切り捨てた。
「え……? だって、あれが一番の採用理由でしょう?」
「君は理知的な顔をして、案外雑な思考をしているんだな。水蒸気爆発は、極限まで圧縮した水と炎を『寸分の狂いもない同タイミング』で衝突させるからこそ、防御力無視の破壊力を生む。いきなり不確定要素だらけの実戦でタイミングが合うわけがないだろう」
ルカの指摘に、ミクはハッとして口をつぐんだ。
確かに、いきなり未知の魔法同士を動く標的に向かって放ち、しかもそれが失敗すれば暴発のリスクがあるなど、戦術のテスト環境としては最悪だ。
「まずは基礎のすり合わせ(キャリブレーション)からだ。私が通常戦闘でどれだけ役に立つか、その証明を先に見せてやろう」
ルカは蒼いローブを翻し、一歩前に出た。
「それに、私としても君たちが『私の魔法のテンポ』の中で、最低限生き残れるだけの技量があるのかを見極めさせてもらいたい。合体魔法のテストは、基礎連携が取れると分かってからだ」
「……分かったわ。まずは通常戦闘で、あなたの基礎スペックを見せてもらう」
ミクの言葉に、ガルドが大盾を構えながらニヤリと笑う。
「口だけじゃねえってところを、見せてもらうぜ!」
『ブゴォォォォォッ!!』
アーマー・オークたちが侵入者に気づき、錆びた大斧を振り上げて突進してくる。
「アリア、君は攻撃魔法を撃たずに私の魔法の『構成速度』と『着弾のタイミング』だけを見ておけ。ガルドは正面を抑えろ。ミク、君は――好きに動け」
ルカの指示に、三人は即座に動いた。
ガルドが通路の中央で盾を構えてオークの突進を受け止め、ミクがその脇をすり抜けてオークの側面に回り込む。
(さあ、見せてもらうわよ。あなたの魔法の精度と威力を……!)
ミクがオークの一匹の注意を引きつけ、大ぶりな攻撃を誘発させて体勢を崩させた、その瞬間。
「――『水刃』」
ルカの短い詠唱と共に、極限まで圧縮された三日月の水刃が放たれた。
それはアリアの炎のような派手な爆発力はない。しかし、凄まじい水圧と速度を持ったその一撃は、ミクが体勢を崩させたオークの『分厚い鎧の継ぎ目』へと、文字通り「寸分の狂いもなく」吸い込まれた。
「ギ、ギャァァァァッ!?」
硬い装甲を無理やり叩き割るのではなく、隙間を正確に切り裂く一撃。致命傷を負ったオークが崩れ落ちる。
(……速い。それに、ものすごい精密制御!)
ミクは目を見張った。魔法の威力もさることながら、ミクが作り出した『隙』に対するレスポンスが異常に速いのだ。
「よそ見をしている暇はないぞ、前衛」
ルカは杖を振るい、間髪入れずに次の魔法を構築する。
「『水縛』」
ガルドの盾に大斧を振り下ろそうとしていた二匹目のオークの足元から、突如として水流が渦を巻き、その両足を太い水縄となって縛り上げた。
「おっ!? 動きが止まった!」
「そこよ、ガルド!」
足止めされ、完全に無防備になったオークの顔面に、ガルドのシールドバッシュとミクの連撃が容赦なく叩き込まれる。
戦闘は、あっという間に終わった。
ミクの手数とガルドの防御に加え、ルカの的確すぎる支援と精密射撃。たった一人が加わっただけで、11層の魔物がまるで上層の雑魚のように処理されてしまったのだ。
「……ふぅん」
ルカは杖を納め、値踏みするようにミクとガルドを見た。
「盾持ち。防御一辺倒かと思いきや、私の『水縛』を見た瞬間に攻撃へ転じたな。判断速度は悪くない。……そこの回避盾も、私が射線を通しやすいように、常にミリ単位で立ち位置を調整していた。合格だ」
どうやら、ルカの方の「テスト」もクリアしたらしい。
「アリア、私の魔法の速度は掴めたか?」
「は、はいっ! 詠唱から発動までのタメが、私よりコンマ数秒速いです。それに、着弾の軌道がすごく直線的で……」
「そうだ。だから君が私に合わせるなら、発動のタイミングをほんの少しだけ前倒しにする必要がある。よく見ていたな」
ルカの言葉に、アリアは少しだけ嬉しそうに頷いた。
ミクは剣を鞘に収めながら、密かに思考を巡らせていた。
(……口が悪いだけのことはあるわ。火力、支援、そして状況判断能力。どれをとっても一級品。通常戦闘のモジュールとして組み込むだけでも、パーティーの生存率は劇的に上がる)
「どうやら、通常戦闘での私の有用性は証明できたようだな」
ルカが自信ありげにミクを見る。
「ええ。完璧なテスト結果よ、ルカ。あなたなら、ガルドや私の動きを邪魔することなく、戦況をコントロールできるわ。文句なしの合格よ」
ミクは素直に称賛の言葉を口にした。
「当然だ。だが、今の戦闘で君たちのクセも大体把握した。これで、実戦での基礎的な陣形は組めるだろう」
ルカは満足げに頷くと、通路の奥へと視線を向けた。
「さて、通常戦闘での連携が機能すると分かったのなら、次は本命だ。……この階層で、魔物が出現しない安全領域を探すぞ。そこで、じっくりと『水蒸気爆発』のタイミング合わせを行う」
未知のシステムを本番環境へデプロイする前に、安全なサンドボックスで検証を重ねる。
ルカの極めて論理的な提案に、ミクは小さく笑みをこぼし、力強く頷いた。
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