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第7話:水底の異端児と、相互評価(クロス・テスト)

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!



冒険者ギルドの喧騒の中、張り出されたばかりの募集掲示板の前に立つ一人の人物がいた。

水面のように滑らかな蒼いローブに身を包んだ、中性的な顔立ちの青年。


彼は『トライ・リンク』の募集要項と、そこに書かれた現在のパーティー構成を食い入るように見つめ、薄く笑いを浮かべて呟いた。


「間違いない。探していたのはこのパーティーだ。火炎系が得意な魔法使い。定石通りのタンクに回避盾までいる。ならば、私の水属性魔法が加わり、そして合体魔法が完成すれば敵無しになる」


その独り言を聞いて、周囲の冒険者たちがヒソヒソと顔を見合わせた。


「おい、また『水狂い』のルカが新しいパーティーを探してるぞ」

「この前もBランクのパーティーに入って、たった三日で『私の魔法のテンポを乱すな』って抜けたばかりだろ。また被害者が出るぞ……」


ルカ。ギルドで「水属性魔法のみを極めた変人」として知られる魔法使い。

その腕前と魔法の威力は超一流であるものの、極度の完璧主義者であり、自分の理想とする戦術やタイミングに仲間が合わせられないと、容赦なく見限ってパーティーを飛び出してしまう問題児だった。


周囲の視線など意に介さず、ルカは掲示板から張り紙を剥がし、迷いのない足取りで酒場スペースへと向かった。


「――というわけで、君たちのパーティーに私が入ってあげよう」


酒場のテーブルで頭を抱えていたミクたちの前に、ルカは剥がした張り紙をバンッと叩きつけた。

突然の加入宣言に、三人は目を丸くする。


「お前、『水狂い』のルカじゃねえか……」


ガルドが警戒心を露わにして顔を引きつらせた。彼もまた、この変人の悪名高い噂を耳にしていたからだ。

ミクは冷静に張り紙とルカを交互に見比べた。


「加入申請はありがたいけれど……私たちが募集しているのは『物理アタッカー』か『回復系の後衛』よ。水魔法使いのあなたが、どうしてうちのパーティーに?」

「愚問だね、回避盾のお嬢さん」


ルカはミクを指差し、自信満々に語り始めた。


「まず、高位の水魔法は治癒の力も併せ持つ。君たちの求める『回復役』としての条件は最低限満たしている。だが、真の目的はそこじゃない。……そこの火炎系の魔法使い、アリアと言ったね」


突然名指しされ、アリアがビクッと肩を揺らす。


「は、はい!」

「君の放つ極大の火球。それに、私の極限まで圧縮した水球を、寸分の狂いもないタイミングで衝突させる。――そうすれば、凄まじい威力の『水蒸気爆発』を引き起こせる」

「水蒸気爆発……!」


その単語に、ミクの目が鋭く光った。


「そうだ。物理的な装甲の硬さなど一切関係ない、防御力無視の範囲殲滅魔法。これが完成すれば、中層の硬い魔物など紙切れ同然だ」


ルカは熱っぽく語るが、すぐに冷めた瞳でため息をついた。


「だが、この合体魔法はタイミングがシビアすぎる。凡庸な前衛では、私とアリアが魔法を練り上げ、衝突させるまでの『完璧な時間タメ』を作れない。だが君たちのパーティーなら……定石通りのタンクと、敵を自在に誘導する回避盾がいれば、それが可能になるはずだ」


ルカの提案に、ミクの脳内で凄まじい勢いで思考が回転し始めた。


(防御力無視の魔法攻撃……。アリアの火力が通じない敵に対する、もう一つの最大火力。理論上は、私たちが抱えている『手札不足』という致命的な弱点を完全に克服できる)

しかし、ガルドが身を乗り出して反対した。


「待てミク! こいつの言うことは机上の空論だ。それに、こいつは少しでも気に入らないとすぐにパーティーを放り出すって噂だぞ。そんな奴に、背中なんて預けられねえ!」

「理論は分かったわ。私たちの課題を解決できる、非常に魅力的な提案よ」


ミクはガルドの言葉を受け止めつつ、ルカを真っ直ぐに見据えて告げた。


「でも、ガルドの言う通り、実戦でその『完璧なシステム』が本当に機能するかどうかは別の話」

「……ほう? 私の魔法を疑うのか?」

「ええ、疑うわ。だから――明日の探索で『テスト運用』を行いましょう。あなたが私たちの連携という『歯車』に組み込める存在なのかどうか、見極めさせてもらうわ」


ミクの理知的で、一切の妥協を許さない冷徹なまでの条件提示。

感情論ではなく、あくまで「機能するかどうか」で判断しようとするその態度に、ルカは目を丸くした後――面白そうに口角を吊り上げた。


「フッ……ハハハ! いいだろう、回避盾のお嬢さん。だが、勘違いするなよ?」


ルカはミクを指差していた手をスッと横へずらし、アリアへと向けた。


「テストされるのは私だけではない。そこの火炎魔法使い……アリアが、私の魔法に合わせられる『可能性』を持っているか。私の方もテストさせてもらう」

「わ、私を……?」


突然矛先を向けられ、アリアが身をこわばらせる。

ルカは真剣な眼差しで、言葉を紡いだ。


「合体魔法のタイミングは極めてシビアだ。実戦のドロップテストで、一発目から完璧に合わせろなどという無茶は言わない。タイミングさえ合わせられる『可能性』があるなら、あとは修練で完璧なものに仕上げればいいだけの話だからな。……だが」


ルカの声が一段低くなる。


「私の魔法の構成速度、着弾のテンポ。それに食らいつき、合わせようとするセンスが彼女に微塵も感じられなければ、その時点でこの話は無しだ。私は三日でパーティーを抜ける」

「なんだと……! 結局アリアに責任を押し付ける気か!」


ガルドがテーブルを叩いて立ち上がりかけるが、それを制したのは他でもない、アリア自身だった。


「ガルドさん、待ってください。……私、やります」

「アリア?」


ミクが驚いて振り返る。アリアの杖を握る手は少し震えていたが、その瞳には強い意志の光が宿っていた。


「私の火力が通じない敵が出た時、ガルドさんやミクさんにどれだけ負担をかけるか……この前のボス戦で痛いほど分かりました。だから、私たちのパーティーに、ミクさんが言う『手札』が必要なら……私は、絶対にルカさんの魔法に食らいついてみせます!」


その言葉に、ルカは満足げに頷いた。


「いい覚悟だ。ならば条件はこうだ。君たちリーダー陣は、私と彼女の魔法のタイミングが重なった時に発生する『威力』を見て、私をパーティーに入れる価値があるか判断してくれ。私は、彼女に『可能性』があるかどうかで判断する」


互いの実力と可能性を見極めるための、相互評価クロス・テスト


ミクの脳内で、この取引の合理性が弾き出される。ルカの魔法が看板倒れなら不採用。アリアが合わせられなくても不採用。どちらに転んでも、パーティーに致命的な損害はない。そしてもし、本当にその絶大な火力が手に入るのなら――。


「……分かったわ。その条件で『テスト運用』の契約成立よ」


ミクはルカに向かって、真っ直ぐに手を差し出した。


「せいぜい、私の魔法の威力の前にひれ伏す準備をしておくんだね」


ルカはその手を薄く笑いながら握り返した。

こうして『トライ・リンク』に、劇薬とも言える四つ目のピースが仮組みされた。


この出会いが、パーティーをさらなる高みへ導く起爆剤となるのか、それとも自壊させる爆弾となるのか。

運命の相互評価クロス・テストの行方と判断は、明日の迷宮へと持ち越されたのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

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明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


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