第64話:未処理タスク(初期スポーン)の消化と、深層のバッチ処理
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迷宮第61層。
第60層の黒死竜が守っていた階段を下りた先は、これまでの石造りの迷宮とは全く異なる、壁も床も青白い水晶で構成された幾何学的な空間――『水晶の回廊』だった。
「……ここから先は、真の未開拓領域だ。全員、警戒レベルを最大に引き上げろ」
戦術指揮官ユリウスの指示に、前衛のヴァレリア、ガストン、ミクがそれぞれの武器を構える。
『ギギギギ……ガシャァァァァンッ!』
彼らが回廊に足を踏み入れた瞬間、水晶の壁から削り出されるようにして、無数の魔物が姿を現した。
全身を鋭利な水晶の刃で覆われた『クリスタル・ゴーレム』の群れ。その数、ざっと見積もっても百体以上。第60層までの魔物とは比較にならないほどの高密度な群れが、通路を完全に塞ぐようにして立ちはだかった。
「ひえっ……! な、なんだいこの数は! さすがに初期配置のポップ数が異常すぎるよ!」
ヴァレリアが戦斧を構えながら顔を引きつらせる。
「……ユリウス、敵の総数は?」
ミクが双剣を抜き放ち、静かに問う。
最後尾で『賢者の眼』を起動し、階層全体の魔力フロー(ログ)を解析していたユリウスは、額に冷や汗を浮かべながら信じられないものを見るように目を細めた。
「総数は目の前の128体だ。……だが、奇妙だぞミク。敵の数は多いが、空間の奥から魔物を生成し続けるはずの『ダンジョンの魔力供給』が、たった今、完全に途絶した」
「途絶した……?」
「ああ。理由は全く分からないが、この階層に繋がっていた魔力回路が沈黙している。……まるで中枢サーバーが強制終了でもしたかのように」
そのユリウスの的確な観測データ(ログ)を聞いた瞬間、ミクは一切の迷いなく双剣を構え直した。
原因が何であれ、現場で起きている事象は一つだけだ。
「状況は極めてシンプル(要件定義完了)よ、みんな!」
ミクが高らかに声を上げる。
「何らかのエラーで、敵の魔物生成プロセスが落ちてるわ! つまり、目の前にいるこの群れは、単なる『未処理のタスク(残骸)』よ。倒した端から新手が無限湧きするような最悪のループは存在しない!」
「なんだって!? そりゃあ最高の知らせ(アップデート)だ!」
ガストンの顔に、獰猛な笑みが浮かぶ。
「終わりの見えない無限処理はご免だが、総量(上限)が決まってるタスクなら話は別だ。……ヴァレリア! いっちょ派手に『バッチ処理(一括処理)』と行こうぜ!」
「アハハッ! アタシの得意分野じゃないか! ぶっ壊すよ!!」
『ガガガガガッ!!』
一斉に突進してくる百体以上のクリスタル・ゴーレムたち。その鋭利な水晶の刃が迫る中、ヴァレリアが前に飛び出した。
「まとめて吹き飛べ! 『大旋風』!!」
ズゴォォォォォォッ!!
ヴァレリアの戦斧が放つ圧倒的な衝撃波が、最前列のゴーレム数十体をまとめて粉砕する。硬質な水晶の破片が吹雪のように舞い散った。
「隙ありだ、女ァッ!!」
死角から跳躍したゴーレムが、硬直したヴァレリアの首めがけて水晶の刃を振り下ろす。
ガァァァァァンッ!!
「甘えんだよ、ポンコツ共が! この女の背中に例外は発生しねえ!!」
完璧なタイミングで割り込んだガストンの大盾が、ゴーレムの刃を完全に弾き返す。
「右舷から漏れた個体が3体! ガルド!」
「おうっ! 後衛には指一本触れさせねえ!」
側面から回り込もうとしたゴーレムは、後衛守護のガルドが大盾で壁を作って完全に進行ルート(ポート)を塞ぐ。
「ルカさん、結界の維持を! 私は遊撃(メモリ解放)に回る!」
「了解だ、ミク!」
ミクが赤い稲妻となって戦場を駆け抜け、ヴァレリアの大振りで処理し損ねたゴーレムの関節(脆弱性)を双剣で的確に削り落としていく。
(……素晴らしい。信じられないほどに安定した実行環境だ)
最後尾で戦況を俯瞰するユリウスは、その光景に震えるような感動を覚えていた。
百体以上の深層の魔物による超高負荷。だが、前衛の「破壊」と「防壁」のサイクルは完全に同期しており、システム全体として一切の遅延も破綻も生じていない。
「……私のタスクは、残った大型の『エラー』をピンポイントで消去することだな」
ユリウスが杖を掲げる。
群れの奥で、他のゴーレムより一回り巨大な個体が、ヴァレリアに向けて遠距離から水晶の槍を投擲しようとモーションに入った。
「射線クリア。……『貫く紫電』」
パァンッ!
乾いた破裂音と共に、ユリウスの放った極小・極大威力の雷撃が、他の味方を巻き込むことなく、奥の巨大ゴーレムの頭部だけを正確に撃ち抜いた。
圧倒的な蹂経。
無限に思えた百体以上の群れは、新しく組み上げられた物理特化システムの「完璧な処理サイクル」の前に、ものの数分でただの水晶の残骸へと変わっていった。
「……対象の全消滅を確認。……第61層、最初のフロア、制圧完了だ」
ユリウスの宣言と共に、ヴァレリアがドスンと戦斧を床に置いた。
「ふぅーっ! 一掃完了! 上限が決まってる仕事ってのは、本当にやりやすいね!」
「ああ。無限湧きする仕様だったら、今頃ジリ貧になってたところだぜ」
ガストンも大盾の水晶の粉を払い落としながら、額の汗を拭う。
「ええ。運が良かったわ。……でも、油断はしないで。アリアの魔力反応は、このずっと下の階層よ」
ミクが双剣の汚れを払い、水晶の回廊の奥へと視線を向ける。
強固な物理の装甲と、完璧な論理で結ばれた六つの歯車。
初期スポーンの群れを一括処理で退けた『三律の連環』は、待つ仲間の元へと最速で到達すべく、深層への進撃を再開した。
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