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第61話(幕間):稼働ログの提出と、白衣の保守管理者(メンテナー)

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


迷宮第60層での黒死竜討伐を完遂した翌日。

迷宮都市の治癒院には、いつにも増して巨大な背中を丸め、どこかソワソワとした様子で待合室の長椅子に座る重戦士、ガストンの姿があった。


「……ガストンさん。本日はどういったご用件ですか? 次の定期メンテナンス(検診)はまだ先のはずですが」


カルテを挟んだバインダーを手に、白衣姿のベテラン看護師――セリアが、コツコツと足音を立てて彼の前にやってきた。


相変わらずの、感情の揺らぎを感じさせない冷徹なシステム管理者のような眼差し。かつてのガストンなら「怪我もしてねえのに来るかよ」と悪態をついていたかもしれないが、今の彼は違った。


「セリアさん。……いや、怪我をしたわけじゃねえんだ。ただ、その……報告フィードバックをしておきたくてよ」


ガストンは立ち上がり、照れくさそうに頭を掻いた。


「昨日、俺たちは第60層の階層主、黒死竜を討伐した。……俺はあいつの『黒死のブレス』を、真正面から受け止めて、完全に弾き返したぜ」


その言葉に、周囲にいた他の患者や治癒士たちがざわめいた。


第60層の階層主の最大火力。それを重戦士が単独の盾で受け止めるなど、本来の物理法則(システム要件)からすればあり得ないほどの過負荷オーバーロードだ。


しかし、セリアの表情は一切崩れなかった。

彼女は「ほう」とだけ短く呟くと、ガストンの右腕――大盾を構えていた分厚い丸太のような腕を無言で掴み、関節の動き、筋肉の張り、そして魔力回路の脈動を、まるで精密機械をチェックするように指先で確認し始めた。


「……なるほど」


数分の静寂の後、セリアはパチンとバインダーを閉じた。


「筋繊維の断裂なし。骨格のマイクロクラック(微小亀裂)なし。魔力回路の焼き付きも、異常な発熱も確認できません。……どうやら、私の施したチューニング(仕様)通りの挙動を示したようですね」

「へっ……ああ。あんたの言った通りだったよ」


ガストンは、自分の右腕を誇らしげに見つめた。

ただ闇雲に素振りをし、根性だけで限界を超えようとしていたあの時、セリアに止められていなければ。疲労という名のウイルスを抱えたまま本番環境に移行し、ブレスの衝撃で盾ごと砕け散っていたのは間違いなく自分だった。


「戦いの最中、一切のブレがなかった。あんたが組んでくれた『休養と負荷のサイクル』が、俺のハードウェアの限界値を、あのブレスの熱量を上回るまで引き上げてくれていたんだ。……本当に、世話になったな」


ガストンは、かつてユリウスに頭を下げられた時のように、今度は自らが深く、深く頭を下げた。


「頭を上げてください。私は治癒院のスタッフとして、当たり前の保守点検タスクをこなしただけです」


セリアは淡々とそう言い放ったが、その冷たい瞳の奥には、確かな安堵と、自身の設計したシステムが完璧に稼働したことへの誇りが微かに滲んでいた。


「それに、今回の成功はあなたの『運用』が正しかったからです。どれほど優れた装甲ハードウェアを用意しても、それを使うドライバがタイミングを誤ればシステムは容易に崩壊します。……あなたが、焦らずに低層での連携テスト(反復処理)を泥臭くこなした結果ですよ」

「セリアさん……」


すべてを見透かしたような彼女の言葉に、ガストンは言葉を詰まらせた。


彼女は現場にいなかった。それでも、稼働後の体の状態ログを見ただけで、ガストンがどれほど真摯にシステムと向き合い、仲間との連携を構築してきたかを正確に読み取ってくれたのだ。


「……だが、これで終わりじゃねえんだ」


ガストンは顔を上げ、その瞳に決意の炎を宿した。


「俺たちの目的は、もっと深い場所にある。攫われた仲間の魔法使い(アリア)を助け出すために、これから未開拓の深層エリア(アンノウン)へ潜る。……昨日以上の、規格外の負荷エラーが飛んでくるはずだ」

「でしょうね。相手がダンジョンの管理者(魔族)ともなれば、正規の仕様書なんて通用しないでしょう」


セリアは眼鏡の位置をクイッと直し、ガストンを真っ直ぐに見据えた。


「ガストンさん。保守管理者メンテナーとして、最後のアドバイス(要件)を伝えておきます」

「……なんだ?」

「どんな強固なシステムにも、必ず限界キャパシティは存在します。『壊れない盾』などという幻想は捨てなさい。……大切なのは、限界が来る前に『異常アラート』を自己検知し、仲間に共有し、システム全体で負荷を分散ロードバランシングすることです。……あなたはもう、孤独に耐えるだけの単一障害点ではないはずですよ」


その言葉は、旧パーティー時代に一人で責任を抱え込み、結果として崩壊を招いたガストンに対する、何よりの処方箋だった。


「……ああ。分かってる」


ガストンは、自分の背中を任せられる仲間たちの顔――遊撃のミク、戦斧のヴァレリア、後衛守護のガルド、支援のルカ、そして、戦術指揮官ユリウスの顔を思い浮かべ、力強く頷いた。


「俺は『三律の連環』の、最強のフロントエンドだ。……エラーを吐く前に、必ず全員で処理してみせるさ」

「……良い回答レスポンスです。では、行ってらっしゃい。生還したら、またフルオーバーホールをしてあげますから」


セリアの口元に、初めて微かな――しかし、確かな信頼を込めた微笑みが浮かんだ。


「おうっ! 最高の稼働ログを持って、また帰ってくるぜ!」


白衣の保守管理者との最終チェック(要件定義のすり合わせ)を完璧に終え、ガストンは踵を返した。


迷いも、死角も、一切の不安バグもない。

最高にチューニングされた重戦車は、仲間たちの待つギルドへ向けて、迷宮都市の石畳を力強く踏み鳴らしていった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

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明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


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