第60話:異常な再生成(リスポーン)と、重戦士の完全なる雪辱(リベンジ)
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迷宮第60層。
かつてユリウスのトラウマを清算し、完全勝利を収めたはずの『黒い扉』の前に、再び重く禍々しい瘴気が立ち込めていた。
「……信じられないわ。階層主の再生成なんて、本来なら数ヶ月はかかるはずなのに」
ミクが扉に触れ、その奥から漏れ出す圧倒的なプレッシャーに顔をしかめる。
「間違いない。……奴ら(魔族)はアリアの膨大な魔力を使って、ダンジョンの生成プロセスを異常加速させているんだ。急がなければ、アリアの魔力が底を突く」
ユリウスがギリッと杖を握り締めた。
「へっ、上等じゃねえか。深層へ急ぐための、いい肩慣らしだ」
ガストンが一歩前に出る。
黒死竜。かつて彼がそのブレスを受け止めきれず、ユリウスと共に絶望を味わった『致命的なバグ(トラウマ)』の発生源。
「……ガストン。今の私たちには、アリアの炎がない。開戦直後の『黒死の瘴気』を完全に浄化し切ることはできないぞ」
「分かってる。だからこそ、俺たち前衛の仕事なんだろ? ……行くぜ!」
ガストンが大盾を構え、先陣を切って黒い扉を蹴り開けた。
広大なドーム状の空間の中央。そこには、第一部で完全に消滅したはずの漆黒の竜――『黒死竜』が、以前と全く変わらぬ姿でとぐろを巻いていた。
『グルルルルル……!』
侵入者を感知した竜が鎌首をもたげ、周囲の大気を急激に冷え込ませながら、生命力を削り取る『黒死の瘴気』を吐き出し始める。
「ルカ! 可能な限り瘴気を中和してくれ! ヴァレリア!」
「ああ! アリアちゃんの代わりにはならないが、物理(力技)で吹き飛ばしてやるよ!」
ルカの浄化魔法が展開されると同時、ヴァレリアが巨大な戦斧を扇状に振り抜く。
凄まじい風圧(衝撃波)が、陣形を包み込もうとしていた瘴気の霧を強引に左右へと吹き飛ばした。
完全な無効化ではない。一時的な空間の確保。まさに時間との勝負(DPSチェック)だ。
『ゴァァァァァァァァッ!!』
小細工を鬱陶しがった黒死竜が、怒りの咆哮と共に巨大な尾を振り回す。
「物理強襲! ガストン!」
「おうっ!」
ガストンが前に出る。だが、彼はかつてのガルドのように「斜めに受け流す」ことはしなかった。
彼は重心を極限まで落とし、大盾を『真正面』に構えたのだ。
ズガァァァァァァンッ!!!
「ぬおぉぉぉぉぉぉッ!!」
岩盤を砕く質量攻撃が直撃する。だが、ガストンの足は一歩たりとも後ろへ下がらなかった。
治癒院での完璧なチューニングによって鍛え直された筋肉が、大盾と一体化して巨大な杭となり、衝撃をすべて石畳へと逃がしたのだ。
「……完璧なブロック(完全防御)だ。だが、次が本命だぞ、ガストン!」
ユリウスが叫ぶ。
尾の攻撃を止められた竜の喉奥に、膨大な魔力が圧縮されていく。
かつてガストンを吹き飛ばし、パーティーを全滅の危機に追いやった絶望の熱量。
漆黒の極太の光線――『黒死のブレス』が放たれる。
『ギュゴォォォォォォォォォォォッ!!!』
「ガストン!!」
ミクの叫び声が響く。しかし、ガストンの顔に恐怖は微塵もなかった。
「来やがれェェェッ!! 俺はもう、二度と壊れねえッ!!」
ガストンは全魔力を大盾に集中させ、ブレスの光条を真正面から迎え撃った。
凄まじい熱量が盾を舐め、周囲の石畳がドロドロに溶けていく。だが、ガストンの大盾は赤熱しながらも、決して砕けなかった。
(……見える。熱の奔流が、完全に読める……!)
ガストンは、泥臭い反復テストで研ぎ澄ませた戦いの勘をフル稼働させていた。
ただ力任せに耐えるのではない。ブレスの最も威力の高い『芯』を大盾の最も分厚い中心で受け止め、余波を盾のカーブに沿って左右へ散らす、完璧な『負荷分散』。
「うおおおおおおおおッ!!」
数秒間の拮抗。
やがて、黒死竜のブレスが完全に魔力切れを起こし、霧散した。
煙が晴れた後、そこには全身から湯気を上げながらも、一切の体勢を崩さずに立ち塞がる重戦士の姿があった。
「……凌ぎ切った。かつての私のトラウマを、自らの力で……!」
ユリウスが震える声で呟く。
「へっ……ざっとこんなもんだ。……お膳立て(セットアップ)は済んだぜ。あとは任せた、ヴァレリア!」
「ああ! 最高の盾だよ、アンタは!」
ブレスを撃ち終え、放熱のために胸元の装甲が開いた黒死竜。その無防備な隙に向かって、ガストンの背後に隠れていたヴァレリアが跳躍した。
「アリアちゃんの魔力、さっさと返しなッ! 『撃滅の断頭斧』!!」
ヴァレリアの全体重を乗せた戦斧が、開いた装甲の隙間に深々と食い込み、絶対の防御を誇っていた漆黒の鱗を物理的にブチ割った。
「コアの露出! ミク!」
「了解!」
遊撃のミクが飛び込み、双剣を突き立てて竜の装甲を完全にロック(固定)する。
「……これで最後だ、黒死竜」
ユリウスがゆっくりと杖を掲げる。
かつては恐怖の象徴だった竜が、今はただの「処理すべきエラー」としてしか認識できない。それほどまでに、このシステムは強固だった。
「すべてを塵に還せ――『極大雷光』!!」
ズバァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
ドームを真白に染め上げる極太の雷撃が、ヴァレリアとミクによってこじ開けられた黒死竜のコアを正確に貫き、その巨体を内側から完全に蒸発させた。
雷鳴が止み、鋼鉄のような鱗の残骸がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
「……対象の完全消滅を確認。第60層、クリアだ」
ユリウスが杖を下ろし、静かに宣言した。
「やったな、ガストン!」
ルカが駆け寄り、ガルドもガストンの肩をバンバンと叩いて称賛する。
「ああ。……やっと、俺の中の致命的なバグが取り除けた気がするぜ」
ガストンは、赤熱した大盾を見つめながら、どこか晴れやかな顔で笑った。
ミクが双剣を鞘に収め、迷宮のさらに奥深くへと続く『未知の階段』を見据える。
「さあ、ここから先は本当に未開拓の領域よ。……アリアの魔力反応は、このずっと下から感じるわ」
かつての因縁を完全に断ち切り、システムの強固さを改めて証明した『三律の連環』。
彼らは迷うことなく、魔族の待つ深淵のサーバーへとその足を踏み入れていった。
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