第59話:第40層での負荷テスト(ストレステスト)と、完全同期する重装甲
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迷宮第40層。中層の壁とも呼べるこの階層の最奥には、分厚い鋼鉄の装甲に身を包んだ巨大なボス『鋼鉄の重騎士』が鎮座している。
魔法に対する高い耐性と、巨大な戦槌による暴力的な質量攻撃。
魔法使いのいない今の『三律の連環』の物理特化陣形にとって、これ以上ない『負荷テスト(ストレステスト)』の相手だった。
「……これより、新アーキテクチャの最終結合テストを実行する」
重い扉の前。戦術指揮官ユリウスが、静かに杖を構えて宣言した。
前衛には、身の丈ほどもある戦斧を肩に担いだヴァレリアと、超重量の大盾を構えたガストン。その後方でミクが双剣を抜き、最後尾ではガルドがルカとユリウスを守るように立っている。
「全員、ステータスはグリーン。……行きましょう」
ミクが扉を押し開ける。
巨大な部屋の中央で待機状態にあった鋼鉄の重騎士が、侵入者を感知してその赤い眼を点灯させた。
『ゴォォォォォォォォッ!!』
地響きを立てて突進してくる鋼鉄の塊。
一切の搦め手がない、純粋な物理の暴力。
「ヴァレリア! 正面から叩き潰せ!」
「任せな! 鋼鉄だろうがなんだろうが、アタシの火力でカチ割ってやるよ!」
ユリウスの指示に呼応し、ヴァレリアが正面から迎え撃つ。
彼女は足を止め、全身のバネを極限まで捻り、巨大な戦斧を真横になぎ払った。
「吹き飛べ! 『撃滅の断頭斧』!!」
ガァァァァァァンッ!!!
戦斧と戦槌が正面から激突し、爆発のような衝撃波がドーム内に吹き荒れる。
鋼鉄の重騎士の巨体が数メートル後退し、その分厚い胸部装甲に深い亀裂が入った。
純粋な物理の破壊力だけで、中層ボスの強固な防御を真正面から粉砕したのだ。
「……凄まじい出力だ。アリアの爆炎にも引けを取らない」
ユリウスがその破壊力に目を見張る。
だが、ヴァレリアのこの一撃には致命的な硬直が存在する。
戦斧を振り抜いた反動で、彼女の体は完全に無防備な状態(無防備なポート)を晒していた。
『ガガガガッ!!』
亀裂を入れられながらも、鋼鉄の重騎士は機械的な動作で体勢を立て直し、硬直中のヴァレリアの脳天へと巨大な戦槌を振り下ろした。
回避は不可能。直撃すれば、いかに屈強なヴァレリアといえど即死は免れない。
しかし――そこに「遅延」は一切存在しなかった。
「甘えんだよ、ガラクタがッ!!」
ズドォォォォンッ!!
ヴァレリアの横から、完璧なタイミング(ゼロ・レイテンシ)で分厚いミスリルの壁が割り込んだ。
ガストンだ。
彼は戦槌が振り下ろされるコンマ一秒前にその落下地点へと滑り込み、大盾を斜めに構えて重騎士のフルスイングを真正面から受け止めたのだ。
「ぐおぉぉぉッ……! 抜か、せるかよォォォッ!!」
火花が散り、ガストンのブーツが石畳を深く削る。
だが、かつてのような「受け流しの失敗」も「衝撃による体勢の崩れ」もない。彼は重心を極限まで低く保ち、大盾の角度を完璧に制御して、重騎士の質量攻撃を完全に殺し切った。
(……軽い!)
ガストンは内心で歓喜に震えていた。
リハビリ明けの鈍った身体と、戦いの勘が、ここ数日の泥臭い反復テストによって完全に同期していた。
ユリウスの戦術を読み、ヴァレリアの隙を予測し、最適のタイミングで最適な位置に盾を置く。その一連の処理に、もはや一切のエラーはなかった。
「完璧なブロックだ! ガストン!」
「へっ! アタシの専属防壁は、やっぱり伊達じゃないね!」
硬直から復帰したヴァレリアが、大盾の陰からニヤリと笑う。
「ミク!」
「了解!」
ユリウスの短いコールに、ミクが弾かれたように動いた。
ガストンに攻撃を防がれ、逆に硬直を晒した重騎士の死角へ、赤い残像となって回り込む。
「装甲の亀裂……もらったわ!」
双剣が閃き、ヴァレリアの一撃で砕けかけていた重騎士の胸部装甲を、ミクの刃が完全にこじ開ける。内部の魔力核が剥き出しになった。
「コアの露出、確認! ヴァレリア、ミク、射線から退避!」
ミクとヴァレリアが左右に散るのと同時、最後尾で完全に魔力をチャージ(フルロード)していたユリウスが杖を突き出した。
魔法耐性の高い鋼鉄の重騎士であっても、装甲を剥がされた剥き出しのコアに最大火力を叩き込まれれば、耐えられるはずがない。
すべては事前の要件定義通りだ。
「消し飛べ。……『極大雷光』!!」
ズバァァァァァァァァンッ!!!
ドームを真白に染め上げる極太の雷撃が、重騎士のコアを正確に貫き、その巨体を内側から完全に蒸発させた。
雷鳴が止み、鋼鉄の残骸がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
「……対象の完全消滅を確認。第40層、クリアだ」
ユリウスが杖を下ろし、静かに宣言した。
「やったね! どうだい、盾の旦那! アタシらの連携、完璧だったんじゃないかい?」
「おうよ! お前が前にいる限り、俺の盾に絶対に死角はできねえ!」
ヴァレリアとガストンが、巨大な戦斧と大盾をガチンッと打ち鳴らして笑い合う。
その様子を、ミクは深い安堵の息を吐きながら見つめていた。
(……すごい。アリアの魔法という広範囲制圧力を失っても、システムはまったく見劣りしないわ)
前衛の二人が生み出す圧倒的な破壊と、鉄壁の防御。
ガストンの加入による「物理特化アーキテクチャ」の再構築は、この第40層ボスの完全無傷での討伐をもって、その正しさを完全に証明したのだ。
「……良いテスト結果だ。ガストン、完全に勘を取り戻したな」
ユリウスが歩み寄り、ガストンに労いの声をかける。
「ああ。セリアさんのチューニングと、お前らの泥臭いテストのおかげだ。……今の俺なら、第60層だろうが魔族だろうが、絶対に弾き返してやるよ」
力強く頷くガストンの目には、かつてのような焦りや劣等感は欠片もない。
「よし。これですべての検証は完了したわ」
ミクが双剣を鞘に収め、仲間たちの顔をぐるりと見渡した。
「私たちの最高にして最強のシステムで……今度こそ、アリアを取り戻しにいくわよ!」
「「「「応ッ!!」」」」
迷宮都市のさらに奥深く、魔族の潜む未知の深淵へ。
完全な再構築を果たした『三律の連環』の重装甲システムが、アリア奪還への歩みをいよいよ本格的に進め始めた。
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