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第58話:下層での結合テストと、失われた勘(ドライバ)のアップデート

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


迷宮第30層、『緑緑の迷宮』。

第60層を踏破した彼らにとって、この階層の魔物はもはや脅威ではない。しかし、今の彼らが必要としているのは強敵を倒すことではなく、安全な環境で新システムの挙動を確認する『結合テスト(インテグレーション・テスト)』だった。


「ヴァレリア! 前方からオークの小隊(群れ)だ! まずはお前の火力を見せろ!」

「任せな! アタシの周りから離れてなよ!」


戦術指揮官ユリウスの指示を受け、ヴァレリアが身の丈ほどもある巨大な戦斧ハルバードを大きく振り被る。


「薙ぎ払え! 『大旋風グランド・スイング』!!」


ズゴォォォォォォッ!!

凄まじい風切り音と共に、暴力的な質量の衝撃波が扇状に広がり、前方から迫っていた数体のオークを一瞬にしてミンチに変えた。


ミクが想定した通り、アリアの広範囲魔法に勝るとも劣らない圧倒的な面制圧能力だ。

しかし、その代償としてヴァレリアの足が完全に止まる。大振りの直後、彼女の体勢フレームには致命的な硬直時間が発生していた。


「――グルルルルッ!!」


衝撃波の死角に潜んでいたオークの生き残りが、その隙を見逃さずにヴァレリアの側面へと跳躍し、錆びた剣を振り下ろす。


「ガストン!!」


ユリウスの鋭い声が飛ぶ。

ヴァレリアの専属防衛モジュールとして組み込まれたガストンが、重い足音を立ててその間へと割り込んだ。


ガァァァンッ!!


「ぐっ……!」


大盾がオークの剣を弾き返す。だが、ガストンの顔には焦りの色が浮かんでいた。


弾き返した盾の角度が悪く、衝撃を殺しきれずに腕に嫌な痺れが残ったのだ。さらに言えば、ヴァレリアとオークの間に滑り込むタイミングも、彼の全盛期の感覚からすれば「コンマ数秒(数Ping)」遅かった。


(……クソッ、体が重い! 頭で描いた軌道に、筋肉の反応レスポンスが追いついてこねえ!)

セリアの完璧なチューニングのおかげで、体力も筋力も完全に戻っている。だが、生死を分ける極限のタイミングを図る「戦いの勘」だけは、長期間のベッド生活ですっかり錆びついていた。


「すまねえ、ヴァレリア! 俺のカバーが遅れた! ユリウス、今の動きは――」

「問題ない。想定内の遅延ラグだ」


焦って謝罪しようとしたガストンを、ユリウスの静かな声が遮った。

振り返ると、後方でログを監視しているユリウスも、遊撃のミクも、一切の苛立ちを見せずに穏やかに彼を見守っていた。


「ガストン、気にする必要はないわ。治癒院で完璧に治せるのはハードウェアの傷だけ。戦いのドライバは、現場で少しずつアップデートしていくしかないのよ」


ミクが双剣を弄りながら、優しく微笑みかける。


「そうよ、盾の旦那。アタシは無傷だったんだ、何の問題もないさ。それに、アタシの隙をカバーするタイミングなんて、やってみなきゃ分からないだろ?」


ヴァレリアも豪快に笑い、肩をすくめた。


「お前ら……」


かつてのガストンなら、「遅い」「役立たず」とユリウスから容赦のない罵倒を浴びせられていたはずのミス。しかし今のパーティーには、誰一人として彼を急かす者はいなかった。


「……ミクの言う通りだ」


ユリウスが杖を下ろし、ガストンに歩み寄る。


「私たちは今、最深部へ挑むための『テスト環境』にいる。ここでどれだけエラーを吐こうが、ラグが発生しようが、誰も死にはしない。……ガストン、君の感覚が完全にシステムと同期するまで、何度でも、何日でも付き合うぞ」


その言葉に、ガストンの胸の奥に燻っていた焦燥感が、ふっと溶けて消えていくのを感じた。


……そうだ。ここはもう、かつての息の詰まるような旧パーティーではない。

エラーを許容し、原因を論理的に特定し、全員で修正していく。それがこの『三律の連環』というシステムの強さなのだ。


「……へっ。言ってくれるじゃねえか。なら、俺の勘が完全に戻るまで、とことん付き合ってもらうぜ」


ガストンがニヤリと笑い、再び大盾を力強く構え直した。


「ええ、その意気よ。……ヴァレリア、もう一度! ガストン、次は足の踏み込みを拳一つ分だけ浅くしてみて。それでタイミングが合うはずよ」

「おうっ!」

「任せな!」


それから数日間、彼らはひたすらに低層で泥臭い連携テスト(反復処理)を繰り返した。

ヴァレリアが戦斧を振り抜き、その隙をガストンが盾で塞ぐ。


タイミングが合わなければ、ミクが遊撃に入ってカバーし、ルカが安全を確保し、ユリウスがログを分析して立ち位置を数センチ単位で修正していく。


魔法の派手さはない。ただひたすらに、物理の歯車をミリ単位で擦り合わせていくような、地道で根気のいる作業。


しかし、その確実なテスト工程を繰り返すたびに、ガストンの動きから無駄が消え、遅延ラグがなくなり、大盾はヴァレリアの背後を守る「絶対に抜けないファイアウォール」へと変貌していくのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

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明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


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