第54話(第一部 最終話):本番環境の完全制覇(リリース)と、果てなき運用保守(アップデート)
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迷宮都市、冒険者ギルド。
夕刻の喧騒に包まれていたギルドホールは、重厚な扉が開かれた瞬間、水を打ったような静寂に包まれた。
ボロボロの装備、煤と血に塗れた顔。しかし、その瞳には一切の陰りも疲労もない、圧倒的な達成感を湛えた五人の冒険者が歩みを入れたからだ。
「……買い取り査定と、階層ボス討伐の報告をお願いします」
ミクが受付カウンターに進み出ると、どすんと重い音を立てて『それ』を置いた。
巨大な漆黒の鱗の一部と、熱によって半分がガラス化しながらも、底知れぬ魔力を放ち続ける巨大な魔力核。
「こ、これは……ッ! まさか、第60層の階層主……『黒死竜』のコア、ですか……!?」
受付嬢が悲鳴のような声を上げ、腰を抜かしかけた。
その言葉に、ギルド中が爆発したようなざわめきに包まれる。
第60層の黒死竜。それは、かつてこの街のトップパーティーであった『星の導き』を文字通り紙屑のように蹂躙し、深層への道を完全に閉ざしていた「絶対の絶望」だったはずだ。
冒険者たちの視線が、ミクの後ろに静かに佇む男――賢者ユリウスへと集中する。
かつてその竜から逃げ帰った男。その火力を鼻にかけ、仲間を切り捨てた傲慢な魔術師。つい数日前まで、彼らはユリウスを「誰にも扱えない不良品」だと嘲笑していた。
「おい……見ろよ、ユリウスのあの顔……」
「ああ……昔の、あのピリピリした余裕のない感じが、欠片もねえ……」
冒険者たちは、本能的な畏怖を覚えて息を呑んだ。
そこには、虚勢や見栄で自身を大きく見せようとする男の姿はなかった。ただ、自身の果たすべき役割を完璧に完遂し、仲間という絶対の基盤の上に立つ、真の『賢者』の静かな威厳があった。
もはや、誰も彼を「火力が高いだけの無能」と笑う者はいない。
ユリウスがこの『三律の連環』という規格外のシステムに組み込まれたことで、誰も到達できなかった深淵を焼き尽くす「最強の主砲」として完成したことを、ギルドの全員が理解させられたのだ。
「……査定、急いでちょうだい。お腹が空いて倒れそうな重戦士が後ろで待ってるの」
ミクが苦笑しながら受付嬢を急かす。
「は、はいぃぃぃッ!! 直ちにギルドマスターに報告し、特別報酬の計算をッ!!」
ギルドがかつてない熱狂と歓声に包まれる中、五人はいつものように酒場の隅のテーブルへと陣取った。
「かんぱーい!!」
「おうっ! 今日は俺の奢りだ! 肉を食え、肉を!!」
ガルドが巨大なエールを一気に呷り、アリアが山盛りの肉料理に目を輝かせる。
「全く……君の盾がもう少し熱耐性を持っていれば、私の魔力消費も抑えられたのだがな」
「なんだと!? あの出力のブレスを逸らしただけでも褒めてほしいくらいだぜ!」
「ふっ、冗談だ。あの極限の負荷に耐え切ったのは、間違いなくお前の腕だ、ガルド」
ルカとガルドが軽口を叩き合い、ユリウスもまた、出されたワイングラスを静かに傾けながら、その騒がしくも心地よい輪の中に自然と溶け込んでいた。
「……これで、あなたのエラーログは完全に消去されたわね、ユリウス」
ミクが山盛りのサラダを取り分けながら、クスリと笑う。
「ああ。……だが、迷宮はこれで終わりじゃない。この先には、黒死竜以上の未知のバグが数え切れないほど潜んでいるはずだ」
ユリウスの言葉に、テーブルの空気が少しだけ引き締まる。
「ええ、そうね。今回みたいに、事前のテストシナリオを完全に無視してくるイレギュラーなんて、これから先いくらでも発生するわ」
ミクはフォークを置き、仲間たちの顔をぐるりと見渡した。
「でも、私たちのやり方は変わらないわ。……どんな未知の階層でも、焦らず、ペースを守り、限界が来る前に計画的に撤退し、万全の準備(クリーン環境)で挑む」
「ああ。そして万が一のエラーが発生した時は、現場の俺たちが全力でカバーし合う。そうだろ?」
ガルドが分厚い胸板を叩く。
「後衛の支援と回復は私とアリアに任せておけ。君たち前衛が決して落ちないように、完璧な監視体制を維持しよう」
「私、もっともっと強い合体魔法をルカさんと研究しておきます!」
「戦術指揮はこの私が完璧にこなしてみせる。お前たちは、ただ目の前のタスクに集中してくれればいい」
全員の意志が、一つの強固なシステムとして完全に同期する。
「……頼もしいわね。それじゃあ、明日は装備の完全なメンテナンス(オーバーホール)。明後日から、第61層の新規開拓を始めるわよ!」
「「「「応ッ!!」」」」
迷宮の底は未だ深く、果ては見えない。
この先も彼らは、時に傷つき、時に未知の強敵に泥臭く苦戦しながらも、決して立ち止まることなく進んでいくだろう。
個の力を過信し、崩壊した旧時代のパーティーはもういない。
そこにあるのは、互いの特性を完全に理解し、最適化し合い、どんな理不尽な暴力をも理詰めで解体していく、迷宮都市史上最強にして最高のシステム。
彼らの果てしないアジャイル開発(迷宮攻略)は、まだ始まったばかりだ。
――『追放されたポンコツ剣士、実は最強のPMでした』第一部、完。
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