表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/56

第42話:帰還の判断(リソース解放)と、正しかった既存の定理

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


迷宮第50層、階層主ボスの部屋。

『双刃の狂騎士』が光の粒子となって完全に消え去り、第51層へと続く下り階段が現れたのを確認した直後。


「……よし。それじゃあ、このままの勢いで51層の偵察に――」

ガルドが大盾を背負い直して階段へ向かおうとした瞬間。


「ストォォォォップ!!」


ミクが残った最後の力を振り絞り、ガルドの背中に飛びついて全力で引き止めた。


「ぶふぉっ!? ど、どうしたミク!」

「行くわけないでしょ! 私たち、アビス・マカクの群れにボコボコにされて、さらに階層主と死闘を繰り広げた直後なのよ!? ポーションで傷は塞がってても、精神的メモリにも体力的リソースにも、もう完全にすっからかんだわ!」


ミクはぜぇぜぇと肩で息をしながら、階層主の部屋の隅に設置された『帰還用の魔法陣』をビシッと指差した。


「一旦、街へ戻るわ! 今日はもう絶対に武器なんて振らない。温かいお風呂に入って、美味しいお肉を食べて、ふかふかのベッドで泥のように眠るのよ!!」

「……異議なしだ。私の魔力マナも、もうスライム一匹倒せるかどうか怪しい底値だ」

「私も、もう足がガクガクで……帰りたいです……」


ルカとアリアも、満身創痍の顔で激しく同意する。


「お、おう……そうだな。俺もテンション上がりすぎて、体の痛みを忘れてたぜ」


ガルドも苦笑いしながら頷き、四人は満場一致で帰還用の魔法陣へと足を踏み入れた。

――数時間後。迷宮都市の酒場。


「「「お疲れ様でしたーっ!!」」」


カチンッ! とエールと果実水が入ったジョッキが打ち鳴らされる。

迷宮の汚れを落とし、私服に着替えた四人は、テーブルいっぱいに並べられた豪快な肉料理を前に、人心地をついていた。


「くぅ〜っ! 疲れた体に染み渡るぜ!」


ガルドがエールを一気に飲み干し、骨付き肉にかぶりつく。

アリアも幸せそうな顔でシチューを頬張り、ルカは静かにグラスを傾けながら、安堵の息を吐き出していた。


しかし、ミクは手元の串焼きを見つめながら、少しだけ複雑な表情を浮かべていた。


「……ミクさん? どうかしたんですか?」


アリアが小首を傾げる。


「ううん。お肉は最高に美味しいんだけど……階層主との戦いを振り返って(レビューして)、自分の未熟さにちょっと凹んでたのよ」


ミクの言葉に、ガルドとルカも食事の手を止めた。


「未熟さ? あんなに完璧なワイヤー誘導を決めたじゃないか。お前がいなきゃ勝てなかったぜ」

「違うのよ、ガルド。……そもそも、あの戦いで私がワイヤー誘導(綱渡り)をする必要なんて、最初から一ミリもなかったの」


ミクはテーブルの上に、グラスと小皿を使って当時の陣形を再現した。


「敵は二体。しかも、強力な物理攻撃を仕掛けてくる重装甲のボスだった。……もしあそこで、私たちが『パターンB(対魔法反射・物理特化陣形)』を選択していたら、どうなっていたと思う?」


ミクの問いに、ルカがハッと目を見開いた。


「……そうか。パターンBならば、私とアリアは最初から攻撃ヘイトを放棄し、敵の動きを泥沼と水縛で完全にロックする(デバフに専念する)ことにリソースを100%割いていた」

「ええ。敵がどれだけ腕力が強かろうと、後衛二人がかりで全力の遅延魔法をかけ続ければ、ガルドの盾が押し込まれることはなかったはずよ。後衛の安全が完全に確保された状態で、前衛でフリーになった私が、時間をかけて一体ずつ安全に処理すればよかっただけの話なのよ」


ミクは自分の額をペチッと叩いた。


「新しい戦術(パターンC)を思いついたばっかりに、思考がそれに引っ張られて、完全に状況判断アルゴリズムを間違えたわ。『新しいハンマーを手に入れると、すべての問題が釘に見える』ってやつね。……本当に、バカみたい」


ミクの自己嫌悪に満ちた声に、酒場のテーブルが少しだけ静まり返る。

だが、ルカはフッと口角を上げ、静かにグラスを置いた。


「……システム開発において、新機能を実装した直後に運用を誤るのは、よくあるヒューマンエラーだ。だが、君はそのエラーに気づき、今ここで『言語化』して修正(パッチ適用)を済ませた」


ルカはミクを真っ直ぐに見据える。


「新しい機能に固執せず、状況に応じて既存の安定した機能を正しく選択する。……この教訓を得たことで、我々のシステムはさらに強固なものになった。凹む必要などどこにもない」

「ルカさんの言う通りです! 次同じような敵が出たら、絶対に間違えません!」

「おう! 失敗から学ぶのが、俺たち『三律の連環』のやり方だろうが!」


仲間たちの温かい励ましに、ミクの顔にようやくいつもの笑顔が戻った。


「……そうね。反省デバッグはここまで! 今日はもう、迷宮のことは忘れてとことん休むわよ!」

「おうっ!!」

「すみませーん! お肉のおかわり、お願いしまーす!」


歓声と笑い声が交差する酒場の夜。

完璧なシステムなど存在しない。だからこそ、常にエラーを直視し、アップデートを止めない。

心身のリソースを完全に回復させた彼女たちは、明日、いよいよ未知なる領域――第51層へと新たな一歩を踏み出すのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

ページ下部にある【ブックマークに追加】と、

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆のモチベーションが爆上がりします!


明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ