第41話:本番適用(リリース)と、回避盾の真骨頂(ルーティング)
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
迷宮第50層、階層主の部屋。
一晩の休息と、下層での泥臭い動作テストを済ませた『三律の連環』の四人は、ついにその重厚な扉を開け放った。
広大な円形の闘技場のような空間。
その中央で彼らを待ち構えていたのは、漆黒の重鎧に身を包み、両手に巨大な大剣を構えた3メートル超の巨漢――第50層階層主『双刃の狂騎士』だった。
「行くわよ! 基本陣形!」
ミクの号令と共に、四人が闘技場へ踏み込む。
侵入者を感知した狂騎士の兜の奥で、赤い光が灯る。
その瞬間。狂騎士の巨体がブレたかと思うと、物理的な質量を伴って『二体』に分裂したのだ。
「個体の複製……! 来るぞ!」
ルカが鋭く警告する。
二体の狂騎士は、寸分の狂いもない連携で地を蹴った。
一体が前衛のミクとガルドへ向かって大剣を振り下ろし、もう一体が凄まじい跳躍力で前衛を飛び越え、後衛のルカとアリアへ向かって急降下してくる。
完全に統率された『前衛と後衛の分断攻撃』。
「例外処理、パターンCへ移行!!」
ミクの叫びと同時。いや、声よりも早く、四人のシステムが連動する。
「後衛は俺が護る!!」
ガルドが眼前の敵をミクに任せ、急降下してくる狂騎士の落下地点へ猛ダッシュで潜り込み、大盾を天高く突き上げた。
ガガァァァァンッ!!
後衛を狙った大剣の重撃を、ガルドが完璧に受け止める。
「アリア、防衛ラインの構築を! 私はミクの防御に――」
「ルカ、氷壁は不要よ!!」
ルカが杖を構えた瞬間、前線で狂騎士と対峙するミクが鋭く制止した。
「敵は四方からの包囲じゃない、『目の前の一体』だけよ! だったら壁なんてない方が、私の機動力を100%活かせるわ!!」
ミクの判断は一瞬だった。
パターンCの「氷壁による隔離」は、多数の群れに囲まれた時のためのもの。1対1の状況ならば、障害物のない広い空間こそが回避盾にとっての最大の防御(絶対領域)なのだ。
「……了解した! ガルドの援護に魔力を回す!」
ルカが即座にロジックを修正し、ガルドの背後から水魔法を展開する。
ヒュンッ! ゴォォォンッ!!
ミクの鼻先数ミリを、狂騎士の巨大な剣風が通り過ぎ、闘技場の石畳を粉砕していく。
(……速い! しかも重い……!)
一撃でも掠れば致命傷。ミクは極限の集中力(フル稼働)で大剣の連撃を躱し続ける。ワイヤーを取り出して他の敵を狙うような「余裕」など、1ミクロンも存在しない。
一方、後衛を守るガルドも限界を迎えていた。
「おおおおおッ!!」
泥沼と氷のデバフを強引に引き剥がし、狂騎士が力任せにガルドの大盾を押し込み始める。
「くっ……! さすがにボスの腕力は規格外だぜ……!」
ガルドのブーツが石畳を削りながら後退していく。後衛の防衛ラインが突破されるのは時間の問題だった。
(私がワイヤーで援護できないなら、やり方は一つ……!!)
「ガルド、そのまま耐えて!! アリア、ルカ! 私の『誘導』に合わせて!!」
ミクは己の正面の狂騎士の攻撃を紙一重で躱しながら、ジリジリと「後退」を始めた。
逃げているのではない。自分を攻撃してくる狂騎士のヘイトを完全に掌握したまま、その立ち位置を、ガルドたちの方へと意図的に近づけて(引っ張って)いるのだ。
(分断された敵を再結合する……! これが私の、回避盾としての真骨頂よ!)
「チィィッ!!」
ミクは背中でガルドたちの位置を把握しながら、狂騎士の重撃を躱し、闘技場を横断する。
そして、ミクを追う狂騎士と、ガルドを押し込む狂騎士の距離が「5メートル以内」まで縮まった、その瞬間。
「アリア、今!! 牽制!!」
「はいっ! 『爆炎弾』!!」
アリアが放った中級魔法が、ガルドを押し込む狂騎士の視界で炸裂した。
ボフゥンッ! と顔面で小爆発が起き、狂騎士の押し込みがフッと緩む。
「おらぁぁぁッ!!」
圧が消えたガルドが、渾身のシールドバッシュで狂騎士を横方向へ弾き飛ばした。
弾き飛ばされた狂騎士の巨体が向かった先。
そこには、ミクが絶妙な誘導で連れてきた『もう一体の狂騎士』が、ミクに向かって大剣を振り下ろそうとしていた。
「シィッ!!」
ミクが超低空のステップで、その大剣の軌道からスッと抜け出す。
直後。
ガキンッッッ!!!
ミクを叩き割ろうと振り下ろされた大剣が、ガルドに弾き飛ばされてきた『もう一体の狂騎士』の背中に激突し、同士討ちの形で二体の巨漢が激しく絡み合って転倒した。
「……分断された標的の再結合、完了したわ」
ミクは体勢を崩した二体の狂騎士から大きくバックステップで退避した。
前衛と後衛で分断されていたボスが、彼女の命がけの誘導によって、再び「一つの座標」にまとめられたのだ。
「これなら……二体まとめて『的』になる!! ルカ、アリア!!」
「待たせたな。最大出力でいくぞ!」
「はいっ! 魔力チャージ、100%です!!」
後衛の二人が、完全に安全な状況下で、悠然と最大火力を練り上げる。
どんなに強力なボスであろうと、合体魔法という『主砲』が直撃すればどうなるか、答えは出ている。
「「『水蒸気爆発』!!」」
蒼と紅の魔力が、同士討ちで立ち上がれない二体の狂騎士の眼前で、寸分の狂いもなく衝突する。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
闘技場を揺るがす規格外の爆発。
ミクの剣では傷一つ深くつけられない漆黒の重鎧が、絶対的な高熱と衝撃波の前にひしゃげ、二体の狂騎士は完全に蒸発し、光の粒子となって消滅した。
「……対象の全消滅を確認。討伐完了」
ミクが双剣をクルリと回して鞘に収め、白煙が晴れていく闘技場に、静寂が戻った。
「ははっ……やった……! やったぜ!!」
ガルドがひしゃげた大盾を放り出し、闘技場の床に大の字になって歓喜の声を上げる。
「見事な誘導だ、ミク。分断された敵を、己の足だけで強引に一つの座標にまとめ上げるとはな」
ルカが汗を拭いながら、安堵と達成感の入り混じった笑みを浮かべる。
「私の中級魔法の目眩まし、ちゃんと役に立ちましたよね!」
アリアも興奮冷めやらぬ様子で、杖を抱きしめて跳びはねた。
ミクは荒い息を整えながら、三人の姿を見て深く息を吐き出した。
自身の火力の無さは、何も変わっていない。
だが、その機動力で敵を翻弄し、最後は最強の矛を持つ仲間たちの射線へと敵を誘導する。一人では絶対に倒せない敵を、四人の歯車を完璧に噛み合わせることで粉砕する。
「机上の空論」を、実戦に合わせて「最適化」できた証だった。
「……みんな、お疲れ様。最高の動作環境だったわ」
ミクは三人に労いの言葉をかけ、階層主の消滅と共に現れた、第51層へと続く下り階段を見据えた。
『三律の連環』は、迷宮の大きな節目である第50層を、極めて論理的かつ安全に踏破したのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、
ページ下部にある【ブックマークに追加】と、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆のモチベーションが爆上がりします!
明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環』の活躍をよろしくお願いします!




