第40話:本番適用(直デプロイ)の恐怖と、泥臭い検証環境(テスト)
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「準備はいいわね」
ミクは双剣を抜き放ち、重厚なボスの扉を見据えた。
ガルド、ルカ、アリアの三人も、新しいプロトコル(パターンC)を胸に、決死の覚悟で頷く。
「第50層の階層主。どんな理不尽な変数を仕掛けてこようと、私たちのアップデートされたシステムなら、絶対に突破できる。……行くわよ!」
ミクがボスの重厚な扉に手を掛け、力強く押し開けようとした、まさにその時だった。
「――って、ちょっと待ちなさい私たち!!」
ミクは弾かれたように扉から手を離し、勢いよく後ろに飛び退いた。
「ど、どうしたミク!? 罠か!?」
ガルドが慌てて大盾を構える。
「違うわ! 罠じゃなくて、私たちの思考がヤバいのよ!! 冷静になって!」
ミクは青ざめた顔で、仲間たちと、そして自分がさっきまで広げていた羊皮紙を指差した。
「新しい戦術『パターンC』。……これ、さっき紙の上で『こう動けばいけるはず』って定義しただけよね?」
「……ああ。非常に論理的で完璧な解答だ」
ルカが真顔で頷く。
「その『一度も実戦で試してない机上の空論』を、いきなりこの階層で一番強いボス相手に『ぶっつけ本番(本番環境へ直接デプロイ)』でやろうとしてるのよ!? 自殺行為(システム崩壊)にも程があるわ!!」
ミクの叫びに、三人はポカンとした後、みるみるうちに顔面を蒼白にしていった。
「そ、そういえば……! さっきアビス・マカクにボコボコにされて、ポーションで傷を塞いだばっかりでしたよね……私たち……」
アリアが震える声で呟く。
「いくら論理が完璧でも、俺の足がもつれたら終わりだし、ルカの氷の壁の張る位置が数センチずれたらミクが死ぬんだぞ……? なんで俺たち、これで『勝てる!』ってテンション上がってたんだ……?」
ガルドが冷や汗を滝のように流してへたり込んだ。
「……死地を乗り越えた極度の興奮状態が、我々の冷静なリスク評価能力を麻痺させていたようだな。……ミク、君が直前で止めてくれなければ、我々は今頃、ボスの前で身動きが取れずに消し炭になっていた」
ルカも杖を持つ手を震わせ、深く反省するように息を吐いた。
ミクは再び壁に寄りかかり、深くため息をついた。
新しい解決策を思いついた瞬間のエンジニアは、万能感に陥りやすい。早くそれを試したくて、動かしたくてウズウズしてしまうのだ。それがどれほど危険なことか、ミク自身が一番よく知っていたはずなのに。
「……危なかったわ。完全に浮かれてた」
ミクは己の頬を両手でパンッと叩き、気合を入れ直した。
「作戦変更よ! ボス戦は保留! 一旦、この50層の安全なエリアまで戻って野営を張るわ。体力と魔力を完全に回復させてから、明日の朝、もう一度『アビス・マカク』の群れを探すわよ!」
「おう! 未テストの戦術(パターンC)を、まずは通常の魔物相手に試すんだな!」
「ええ。氷の壁の展開速度、私のワイヤーの牽引力、ガルドの防御範囲。全部の連携を、第43層の時みたいに『体が勝手に動くレベル(ハードコード)』まで反復テストするわ。……ボスに挑むのは、その『動作確認』が完全に終わってからよ!」
「了解だ。……フッ、やはり君の危機管理能力は、このパーティーの最高の盾だな」
ルカが微かに笑い、アリアも「はいっ! しっかり休んで、明日からまた特訓ですね!」と元気よく頷いた。
ボスの扉から静かに離れ、四人は来た道を慎重に引き返していく。
新しいロジックは、ただ思いついただけでは意味がない。泥臭いテストを繰り返し、エラーを潰し、初めて「手札」となる。
『三律の連環』は、迷宮の熱気に当てられることなく、再び極めて冷徹でシステムライクな「検証作業」へと戻っていくのだった。
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